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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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再会

 植物園を出た後、もう一度自転車に乗り、

 市場の近くのカフェへ向かった。


 ルーカスが店も決めてくれていた。


「すごい、おしゃれなお店だね」


 外観を見て、思わず声が出る。


 壁は鮮やかな青緑色で、陽の光を受けて明るく映えている。

 店の前にはテラス席が並び、白いテーブルクロスが風に揺れていた。


 こんなお店、私の住んでいる街にはない。


「クララさんにおすすめ聞いたんだ。そしたらここがいいって。

 ……誰と行くの、とか、なんで行くのとか、いつ行くのとか、いろいろ聞かれたけど」


 ルーカスが少し苦笑する。


 ——そういうことか。


 朝、クララが来た理由がわかって、少しだけ笑ってしまう。

 世話焼きなあの人らしい。


「天気いいし、せっかくだから外にしよう」


「うん」


 テラス席に座る。


 市場の賑わいが少し遠くに聞こえて、心地いい。


「メニュー……知らないのばっかりだ」


 並んでいる料理名を見て、思わず呟く。


 見たことのない言葉ばかりで、少し戸惑う。


「外国の料理を取り入れてる店らしいよ。

 確かクララさんのおすすめが——」


 ルーカスがメニューを覗き込む。


「あ、これだ」


 結局、よく分からないまま、そのおすすめを二つ頼んだ。


 運ばれてきた料理は、見た目からして珍しかった。


 香りも、普段食べているものと違う。


「……おいしい」


 一口食べて、思わず言う。


「ほんとだ」


 ルーカスも少し驚いたように笑う。


 それから、研究の話をしたり、学生の頃の話をしたりした。

 植物園での緊張が嘘のように、会話が弾む。


 食事を終え、店を出る。


 自転車のところへ戻ろうとした、そのとき——


「ルーカス?」


 声をかけられた。


 思わず、足が止まる。


 振り向くと、見覚えのある黒い制服。

 魔法学園の生徒だ。


 数人いる中で、一人、こちらを見て首を傾げている。


「……レオン?」


 ルーカスが少し目を細める。


「久しぶりだな。なんでこんなとこにいるんだ?」


 レオンがそう言いながら、こちらに歩いてくる。


 私は、彼から顔が見えないように俯いた。


「王都で用事があって」


 ルーカスが答える。


 そのとき、ルーカスがわずかに体をずらした。


 その陰にいた私に、レオンの視線が届く。


「女連れかよ。……フィーネはどうしたんだよ」


 名前を呼ばれて、思わず顔を上げる。


 レオンがこちらを見る。


 一度、通り過ぎるような視線。


 けれど——


 引っかかるように、もう一度戻る。


 ぴたりと動きが止まった。


 目が、わずかに見開かれる。


「……フィーネ?」


「そうですけど……」

 

 同じ学校に通っていた、領主の息子。

 レオン・スペンサー。


 顔を合わせると、当時のことを思い出す。


 廊下ですれ違うたびに向けられた冷たい視線と棘のある言葉。


 悪意というより、どこか一方的な敵意、とでも言えばいいのか。


 理由はわからない。


 それでも、あの頃の彼は少し、苦手だった。


 レオンは一瞬だけ固まっていた。


 けれど、すぐに視線を逸らす。


「……は」


 小さく、息を吐くように笑う。


「ずいぶん、雰囲気変わったな」


 少し間を置いて。


 視線を逸らしたまま、どこか投げやりに言う。


「魔法も使えないのに、よく王都まで来たな」


 ちくり、と。その言葉が、胸を刺す。


 昔も、そうだった。

 言われるたびに、じわりと痛みが広がっていく。


 はずだった。


 ——あれ?


 今日は、平気だ。


 ——なんでだろう。


 後ろにいた友人たちが近づいてくる。


「誰?知り合い?」


「え、もしかして例の——」


「やめろ」


 レオンが即座に遮る。


 少し強い声。


 友人たちが面白そうに笑う。


 一人が、私の顔を覗き込む。


「わあ、すっごい美人」


「やめろって」


 レオンがもう一度言う。


 さっきより低い声。


 そのとき、ルーカスがわずかに位置をずらした。


 自然に、私がその陰に入る。

 

 胸の奥が、じわりと温かくなった。


「……で」


 レオンがルーカスを見る。


「なんでお前ら二人でいるんだよ」

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