↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/123

手

 魔法使いの区画を抜け、もう一度露店の並ぶ通りへ戻る。


 さらにしばらく自転車を走らせると、周囲の家屋が少なくなってきた。

 代わりに、ひとつひとつの建物が大きくなる。通りも広い。


 ルーカスが自転車を止めた。


「ここが最初の目的地。王立植物園だよ」


 街灯に自転車をつなぎ、門をくぐる。


 中へ足を踏み入れた瞬間、視界が開けた。


 広い庭園。


 手入れの行き届いた芝の上に、色とりどりの花が整然と並んでいる。

 低く刈り込まれた生け垣が道を縁取り、その先へ視線を導いていた。


「……きれい」


 思わず声が漏れる。


 花の間をゆっくり歩いていく。


 奥に、大きな建物が見えた。


 高い屋根。

 壁も、扉も——すべてガラスでできている。


 中に、濃い緑が見えた。


「すごい……屋根も壁も、全部ガラスだ」


「この建物は、最近できたらしいよ。最新の技術が使われてるって」


 ルーカスが言う。


 扉を押して、中に入る。


 ——思わず、足が止まった。


 室内に、滝があった。


 岩壁がせり出し、その高い位置から水が落ちている。

 白い水しぶきが空気を震わせていた。


「……どうやって作ってるんだろ。魔法かな」


 思わず呟く。


 隣でルーカスが笑った。


「フィーネらしいな。仕組みが気になるの」


 少しだけ恥ずかしくなる。


 ルーカスは滝の横を覗き込む。


「でも、これは魔法じゃなさそうだな。ほらここ、裏、回れそう」


 ルーカスの視線を追い、私も覗き込む。


 人目につきにくい細い道。


 石は不揃いで、足元がぬかるんでいる。


 一歩踏み出す。


 そのとき。


 ずるっと、足が滑った。


 体が傾く。


 その瞬間、手首を掴まれた。


「危ない」


 ルーカスの声。


「……こっち、足場悪いから」


 そのまま、手を取られる。


 指が絡む。


 どくん、と胸が大きく跳ねた。


「転んだら、大変だし」


「……うん。ありがとう」


 ルーカスの手は骨ばっていて、温かい。

 触れているところだけ、妙に意識が引き寄せられる。


 ——だめだ。集中しなきゃ、転ぶ。


 意識を引き剥がして足元に集中する。


 しばらくして、滝の裏側に出た。


 水の音が、さっきより近い。


 目の前を、水が落ちていく。


 少し離れたところに、大きな装置が見えた。

 歯車が回り、水を汲み上げている。


「……ほんとだ。魔法じゃない」


 思わず見入る。


 規則的に回る歯車。

 自転車と同じ仕組みが、ここでも動いている。


 不思議と、落ち着く。


 しばらく眺めたあと、裏道を抜けて整えられた通路に戻った。


 だけど、手は、繋がれたまま。

 

 気づいてないのか、それとも——


 歩きながら、ルーカスを見上げる。


 視線が合う。


 少し間があってから、ルーカスが口を開いた。


「……もうちょっと。このまま繋がせて」


 それから、付け足すように。


「足場、また悪くなるかもしれないし」


 指に、わずかに力がこもる。


「……うん」


 また、心臓の音がうるさくなる。

 植物を見ているのに、そっちに意識が向かない。

 

 手が汗ばんでいないだろうか。

 変なところばかり気になる。


 そのまま歩いていると——


 ルーカスの肩が、横の植物に触れた。


「あっ」


 細い蔓が腕に絡まる。


「大丈夫?」


 手を離して近づき、絡まった蔓をほどく。


「…ありがとう」


 少しの間。


 ルーカスが額に手を当てる。


「……なんか、今の、格好悪いな」


 苦笑する。


「珍しいね」


 思わず言う。


 ルーカスが何かにぶつかるのを、初めて見た。


「……ちょっと、緊張してて」


 その言葉に、少し驚く。


「そうなんだ」


 私は、なんだか緊張が解けた気がした。


「……私も、さっきまでずっと緊張してた」


 気づけば、口に出していた。


 ルーカスがこちらを見る。


「…そうなの?」


「うん。……こんなふうに手を繋ぐの、初めてだから」


 空を飛ぶ時にエルンストと手は繋いだが、あれは——


 一瞬、ルーカスの表情が止まる。


 それから、少しだけ嬉しそうに笑った。


「じゃあさ」


 手を差し出す。


「もう一回、繋ごう」


 指を取られる。


「どう?」


「……緊張する」


「俺も」


 一瞬、顔を見合わせて——


 どちらからともなく、笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。