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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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約束の日

 自転車店が開店してから数日。

 今日は、王都でルーカスと会う約束の日だった。


 私は泊まっている宿舎の前で、ルーカスを待っていた。


 ——落ち着かない。


 理由は分かっている。


 いつもと服装が違うからだ。


 ワンピースの裾を、何度も直す。

 なんだか心許ない。


 こんな服、普段は着ない。

 いつもは動きやすいように、父のお古のズボンを直して穿いている。


 今朝。

 クララが部屋に来て、持ってきた服を広げて——


 気づいたときには、着替えさせられていた。


 おまけに、軽く化粧まで。


 どうしてか、今日が“そういう日”だと分かっていたらしい。


 こういう格好で、人と会うのは少し気恥ずかしい。


「フィーネ!」


 声がした。


 ルーカスがこちらへ走ってきていた。


 私は彼の方に振り向く。


 視線が合う。


 そして——


 ルーカスが、ぴたりと止まった。


 目を丸くしている。


「やっぱり変?クララさんに化粧してもらって」


 苦笑しながら言う。


 ルーカスは、はっとしたように首を横に振った。


「ううん、ちがうちがう!……いつもかわいいけど、今日は……」


 言葉に詰まる。


 少し視線を逸らしてから、またこちらを見る。


「……すごく、きれい」


 耳まで赤くなっていた。


「そ、そうかな。……ありがとう」


 自分でも分かるくらい、頬が熱くなる。


 ルーカスは照れたように頭をかいた。


「……うん。行こっか。自転車で行くんだろ?」


 私は頷き、宿舎の壁に立てかけてあった自転車へ視線を向けた。


 今日は宣伝も兼ねて、王都を自転車で巡ってきてほしい——

 クララにそう言われている。


 二人で自転車に跨る。

 ペダルを踏み込む。


 朝の王都へ、走り出した。


 通りにはすでに人が多い。

 行き交う人々の視線が、自然とこちらに集まる。


「あれ……あの乗り物」


「例のやつじゃないか?」


 そんな声も聞こえてくる。


 少しくすぐったい気持ちになる。


 けれど、自転車は止まらない。

 石畳の上を、軽やかに進んでいく。


 私はまだ王都に詳しくない。

 だから今日は、ルーカスに任せている。


 彼は迷う様子もなく、先へ進んでいく。


「ルーカス、王都詳しいの?」


 並んで走りながら聞く。


「エルンストの使いでちょくちょく来るからさ。そのたびに散策してたんだ」


「そうなんだ。行く場所決めてくれてありがとう。ご飯とかは、私が奢るね」


 もともと、自転車づくりを手伝ってもらったお礼だ。

 今日はそのつもりでいる。


「いいって。俺も息抜きだから」


 ルーカスは笑った。


 そのまま、少し広い通りに出る。


 露店が並び、焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。

 人の声と、馬車の音が混ざり合う。


 王都は、やっぱり賑やかだ。


「そういえば、昨日の報告は無事できた?」


 思い出して聞く。


 ルーカスが実験した、沈石粉の観察条件の最適化について、中央監査庁で報告していたはずだ。


「うん、一応。……エルンスト、俺には議事録書くだけでいいって言ってたくせに、当日急に報告しろって」


「え? 大丈夫だったの?」


「俺がやった研究だったから、なんとか」


 ルーカスが苦笑する。


「偉そうな人たちが、いーっぱい並んでてさ。ちょっと焦ったよ」


 そう言いながらも、どこか余裕がある。

 彼はきっと、そういうのも器用にこなすのだろう。


「そうなんだ。……私も、中央監査庁ってどんなところか見てみたいな。外からでいいから」


 そう言うと、ルーカスは少し考える素振りをした後、こちらを見た。


「この近くだから、寄ってく?」


 私は思わず自転車を止めた。


「いいの? 行ってみたい」

 

 ルーカスも止まる。


「じゃあこっち。魔法関係の施設は、街の中心にまとめられてるんだよ。中央監査庁だけじゃなくて、魔術院とか、魔法学園も近い」


 ルーカスはそう言って、道を曲がった。


 しばらく進むと——


 街の雰囲気が、はっきりと変わった。


 人通りが少ない。

 どこか張り詰めた空気がある。


 通りに立つ街灯は、これまで見たものよりずっと大きい。

 魔石が、立派な装飾の中で淡く光っている。


 そして——


 空を飛ぶ魔法使いの姿。


 ひとり、ふたりではない。

 王都の他の場所より、明らかに多い。


 私は思わず見上げた。


「……すごい」


 小さく呟く。


 ルーカスが自転車を止める。


「ここが、中央監査庁」


 目の前には、大きな建物があった。


 白い石で造られた、重厚な建物。

 高い塔がいくつも突き出し、壁面には魔法陣のような紋様が刻まれている。


 入口には、厳かな扉。


 近づくだけで、空気が変わるような感覚があった。


 私は、その建物を見上げる。


 ——ここが。


 エルンストやアルドが所属している、魔法使いのエリートが集う場所。


 こんなところで、ルーカスは昨日報告してきたのか。


 ——すごいな。


 私は建物から視線を外して、隣を見る。


 ルーカスはいつも通りの顔で、こっちを見ていた。


「どうする?中はさすがに入れないけど」


 そう言って、少し笑う。


 ——入れない。


 そうだ。私は、ここには入れない。

 それは、ずっと変わらない。


 でも、昔とは違う。


 あの頃の私は、空を見上げたまま、立ち尽くしていた。

 今は、ここまで来ている。


「……うん。次、行こっか」


 私はそう言って、自転車に手をかけた。

これからは三日に一回更新します。すみません。

とりあえずストックなくなるまではそのペースで。

ストックがなくなったら、また更新できるペースでしていくか、一旦お休みして最後まで書くか、迷ってます……

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