王都への道
王都へ向かう日。
私は商会の前で、クララと馬車を待っていた。
胸の奥が、さっきから落ち着かない。
期待で、心臓が少しうるさい。
エミールは、王都へ行くと聞くと一緒に行きたいと駄々をこねた。
いつか魔石付きの自転車を作れたら、連れて行ってあげたい。
作れるかどうかも分からないのに、そんなことまで考えてしまう。
通りの角から、馬の蹄の音が近づいてきた。
やがて馬車が姿を現す。
手綱が引かれ、馬が私たちの前で止まった。
——大きい。
そう思って見上げたとき、御者台が目に入る。
そこに座っていた人物を見て、私は思わず目を見開いた。
——バルトロ。
馬車組合の御者だ。
以前、ギルドで自転車の増産の相談をしていたとき、話を聞きつけて現れた人物だった。
バルトロが御者台から軽やかに降りてくる。
壮年だが、動きは無駄がなく、慣れた様子だった。
「御者のバルトロだ。あんたたちを王都まで送る。よろしく頼む」
クララが落ち着いた声で応じる。
バルトロは私たちの顔を見比べ、口を開いた。
「王都で自転車を売り出すのか?」
「ええ。王都に支店を作りましたの」
クララが答える。
バルトロは小さく鼻を鳴らした。
「ギルドで言ったはずだ。
新しい乗り物を広めるなら、責任を持てってな」
思わず体が固まる。
それを見て、バルトロはため息をついた。
「……聞き入れられなかったみたいだな」
真っすぐこちらを見据える。
「俺はこの仕事に誇りを持っている。
思うところのある相手でも、必ず安全に王都に送り届ける」
クララが一歩前に出る。
「以前いただいたご意見は、参考にさせていただきましたわ」
静かに続けた。
「自転車にはルールを設け、保険組合も作ることにしましたの。
私たちも、責任を持つつもりです」
バルトロの眉がわずかに動く。
クララはさらに言った。
「王都だけでは終わらせませんわ。
いずれは、この国中に広げます」
そして、微笑む。
「バルトロさんのおかげで、私も覚悟が持てました。ありがとうございます」
「……」
バルトロは一瞬黙った。
「たいした大風呂敷だ」
腕を組み、小さく肩をすくめる。
「……まあいい。うまくいくといいな」
私は二人のやりとりを、固唾を飲んで見守っていた。
一触即発になりそうだった空気が、どうにか収まる。
内心、ほっと胸をなで下ろした。
私たちは馬車に乗り込む。
中は思ったよりも豪華な造りだった。
座席のクッションはふかふかで、長時間乗っても痛くなりそうにない。
足元には厚いカーペットまで敷かれている。
六人ほどは乗れそうな広さの馬車だった。
クララと向かい合って腰掛け、ようやく落ち着く。
私はクララに尋ねた。
「そういえば、馬車に乗るのは私とクララさんだけなんですね」
「ええ。一緒に王都に行く商会のスタッフたちは、今朝早くに出発しているわ」
クララが答える。
「向こうでまだ少し準備が残っているの。
王都にも人はいるけれど、それだけでは足りなくてね」
私は小さく頷いた。
王都。
その言葉を聞くと、胸がまた少し高鳴る。
どんな道があるのだろう。
自転車で走ったら、どんな景色が見えるのだろう。




