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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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王都への招待

 扉が音を立てて開いた。


「大丈夫だって言ってるでしょ」


 クララの声だった。


 私は振り返る。


「支店の準備は大事です。ですが、指示していただければ他の者にもできます。

 商会長、貴方のお体は一つしかありません。

 貴方が倒れれば、この商会自体が止まってしまいます」


 クララと話していたのは、商会に来るといつも迎えてくれる眼鏡の男性だった。


「ほら、ウォルター。お客様の前よ。この話はもう終わり」


 クララが私とオリバーを示すと、ウォルターははっとした顔になった。


「これは失礼いたしました」


 一礼して、部屋を出ていく。


 クララは小さくため息をつき、ソファに腰を下ろした。


「お待たせしてごめんなさいね」


 顔色が悪い。

 声も、いつもより元気がない。


 さっきの話を思い出す。


 ……かなり無理しているのではないだろうか。


 私は思わず訊ねる。


「クララさん、顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」


 クララは少し苦笑した。


「支店の準備が忙しくてね。ちょっと寝不足なのよ」


 そう言いながらも、背筋を伸ばす。


「でも大丈夫。もうすぐ一段落つくから」


 それから、こちらを見る。


「今日あなた達を呼んだのはね。

 王都の支店を、見に来ないかっていうお誘いなの」


 思わず目を上げる。


「頑張って自転車を作ってくれてるでしょう?

 ご褒美というか、お礼というか」


 クララは少し楽しそうに続けた。


「自分たちが作った自転車が、王都のどんな場所で売られているか。見てみたくない?」


 ——それは、見たい。


 でも。


「王都まで、どうやって行くんですか?」


 クララは当然のように言った。


「馬車よ。こちらで手配するわ」


 さらりと続ける。


「ここからだと、六時間くらいかしらね」


 六時間。


 往復するには、かなり遠い。


「日帰り……ですか?」


「いいえ」


 クララは首を振る。


「正確な日数はまだ決めてないけど、数日はいる予定よ。

 支店の従業員用の宿舎も用意してあるの。そこに泊まってもらうわ」


 少し笑う。


「もちろん、宿の方が良ければそちらも手配するけど」


 私は慌てて首を振った。


「いえ、宿舎で大丈夫です。ぜひ、行きたいです」


 隣でオリバーが腕を組む。


「悪いが、俺は遠慮しとくわ」


 クララが目を瞬く。


「まだ予定台数できてねえんだ。懸念事項抱えたまま遊びに行く気にはなれねえ」


「そう、残念ね」


 クララはあっさり言った。


「でも、また行きたくなったらいつでも言ってちょうだい。連れて行ってあげるわ」


 オリバーは軽く頷いた。


 そのあとクララは、いくつか日程の案を出した。


「エルンストさんに相談して、都合のいい日を教えてちょうだい」


 私は頷いた。


———


 商会から倉庫に戻ると、エルンストとルーカスが来ていた。


 二人で何か話している。


 私は少し待ってから声をかけた。


「エルンストさん、少しいいですか?」


「フィーネか。どうした?」


 ルーカスと話を終えたエルンストがこちらを見る。

 私は、王都の支店を見に行く話を伝えた。


「行ってきてもいいですか?」


 エルンストはすぐに頷いた。


「問題ない。今は急いで進める実験もない」


 少し考えてから続ける。


「それに、その日程なら、ちょうど私とルーカスも王都へ行く予定だ」


「ルーカスと王都に?」


「ああ。沈石粉の観察条件の最適化実験の結果を報告しに行く」


 ルーカスが肩をすくめる。


「また雑用だよ」


 不満そうな口調だが、楽しそうな顔をしている。


「報告の議事録作れってさ。中央で変な人に目つけられたらどうするんだよ」


 エルンストが淡々と言う。


「むしろ目をつけられた方がいいかもしれんぞ」


 ルーカスが笑った。


 エルンストは私に向き直る。


「君の魔石の件も、その時に内密に相談してくる」


 私は頷いた。


 話が終わり、皆が散っていく。


 そのとき、ルーカスが後ろから声をかけた。


「フィーネ」


「ルーカス、どうしたの?」


 少しだけ言いにくそうにしてから言う。


「前に言ってた、デートのことなんだけど」


 心臓が跳ねた。


「なかなか日程合わないからさ」


 ルーカスは少し笑った。


「王都で会わない?」

次から一旦、ニ日に一回更新にします。



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