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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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めぐりあわせ

 数日後。

 倉庫で、相変わらず私は魔石を削っていた。


 削る。

 流れを確かめる。


 その繰り返し。

 地道な作業だけど、嫌いじゃない。


 ちょっとずつ、呪文の流れができてくる。

 それが、嬉しい。

 

 長時間作業しすぎて、目が霞んでくる。

 

 私は、一度手を止めた。


 作業台の端に並べてある魔石を見る。


 軽量化。安定化。加速。


 呪文の流れを、削って再現した魔石たち。

 全部、自転車につけたい魔石ばかりだ。


 まだ、形にはならない夢だけど、

 一つずつ、確実に増えていっている。


 そして、これからは徐々に他の種類の呪文もやっていくつもりだ。


 そのとき、背後から声がかかる。


「うわ、また呪いの魔石が増えてるよ」


 アルドだった。私の作業台の上を覗き込んでいる。


 私は首を傾げる。


「なんで、呪いなんですか?」


「君の執念が形になってる、ものすごい魔石だから。見た目もスペックもやばすぎて、もはや怖いよ」

  

 アルドは自分の腕を両手でさすった。


「そうですか?自分でも諦めは悪い気はしますけど。そんな風に言わなくても…」


 怖いと言われて少し落ち込む。


「褒めてるんだから落ち込まないでよ」


 褒められているのだろうか。微妙な線だ。


 アルドが時計を振り返って言う。


「ところでさ、君、今日は商会に用事があるって朝に言ってなかった?」


「あ、そうでした」


 今日はクララに呼ばれている。

 削ることに集中して、完全に忘れていた。

 

 私は急いで片付けをして、商会に向かう。


 クララには、しばらく会っていない。

 王都の支店の準備で忙しいはずだ。


 ——今日は、何の用だろう。

 

 急いで応接室に入る。

 

 そこで、珍しい顔を見て驚いた。


「オリバーさんも呼ばれたんですか?」


 鉄の自転車を作ってくれている、ミゲル工房のオリバーだ。


 オリバーは頷く。

 

「ああ。…まだ自転車が予定台数出来てないんだが。フィーネも呼ばれてるってことは、その催促じゃあ、なさそうだな」


 オリバーの隣に腰掛ける。


 私は、アルドに持って行ってもらった、壊してしまった鉄の自転車を思い出した。

 

 ぶつかった衝撃で魔石が爆発して、歪んでしまった自転車。


「そういえば。前の、壊れてしまった自転車、直せました?」


 オリバーは首を振った。


「あんだけ歪んだら直せねえよ。溶かして材料にしちまった」


 やっぱり。


「そうなんですね…。すみません」

 

 折角作ってもらった、一台目の鉄の自転車だったのに。

 あんな風にしてしまって、改めて申し訳ない気持ちになる。


「持ってきたやつにも言ったが、動くものはちゃんと止める手も考えろよ。じゃないと大怪我する」


 私は頷きながら、思った。


 その言葉、どこかで。


 記憶を辿る。


 そして、思い出した。


 ——鍋の魔具が暴れた時の、老婆。


「オリバーさんって、お婆さん、いらっしゃいます?」


「あ?いるが?」


 オリバーは、突然の話題に首を傾げた。


「市場で屋台、やってらっしゃいます?」


「そうだ。知り合いか?」


「知り合いというか…」


 私は言葉に詰まる。


 なんと言ったらいいのだろう。

 暴走した魔具から、彼女を助けたなんて、自分で言いにくい。


 そこで、オリバーは急に私の眼をじっと見た。


「金の眼だな…」


「はい?」


「いやな。婆さん、この前、鍋の魔具を落っことして、そのせいで爆発しそうになったらしくて。

 それを、珍しい金の眼の少女が助けてくれたって」

 

 言いながら、オリバーの目が大きくなる。


「もしかして…その少女ってフィーネか?!」


 私はその勢いに驚きながら、小さく頷いた。


「…そうです」


 オリバーががばっと頭を下げる。


「俺も、その恩人に会って、感謝を伝えたいと思ってた。

 婆さんを助けてくれて、本当にありがとうな」


 真っ直ぐに感謝を伝えられて、私は思わず言葉を失った。


「あの、顔をあげてください。あのときは偶然助けられただけで」


 感謝されたいと思ってやったわけじゃない。

 あのときは、ただ必死だった。


 でも、こうやって、オリバーが悲しむ出来事を一つ減らせたと思うと、やってよかった。


 今思えば、あの事件がきっかけだった。

 

 あれがなければ、きっと今も工房にこもって、一人で何かを作っていたはずだ。


 輪の外側で。


 エルンストにも、アルドにも、クララにも会わずに。


 あれがあったから、いろんな人と関われている自分がいる。

 憧れていた魔法の、すぐそばにいる。


「こう言うのも変ですけど。

 私も、お婆さんを助けたおかげで、いろいろと踏み出せたことがあるんです」


 オリバーは顔をあげた。


「そう言ってくれると本当にありがたい。

 だけど、怪我をしてまで助けてくれたとか。

 婆さんの命の恩人は、俺の恩人でもある。  

 これは、頑張って自転車作らにゃならんな」


 胸の奥が、あたたかくなる。


「自転車は、頑張って作ってくださいね」


 冗談っぽくそういって、オリバーと笑い合う。


 そのとき、廊下で声がした。

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