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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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衝撃試験

 エルンストが顔を上げてこちらを見る。


「確認したいこととは、衝撃実験か?」


 私は頷いた。


「はい。

 衝撃で詰まりができたり、爆発したりしないか確認したいです。

 もともと、そのためにこの魔石を作りたかったので」


 もし、衝撃を受けても詰まらない。爆発もしない魔石だったら。


 自転車に、つけられる。


 もっと遠くへ行ける。

 

 広い世界を、見ることができる。


 そこまで考えて、はたと止まった。


 ——外に出すのは一旦保留だ。


 さっき、そう言われたばかりだ。

 自転車には使えないかもしれない。


 私は思考を追い払うように小さく首を振った。


 それを見ていたルーカスが、少し笑う。


「爆発しなければ、自転車につけられるって考えてた?」


 ぎくりとする。


 ルーカスは本当に、私の考えていることを読むのがうまい。


 アルドが肩をすくめた。


「君、ぶれないねえ。

 すごいんだかポンコツなんだか、わかんなくなってきたわ」


 エルンストがアルドに向き直る。


「アルド、実験はどこまで進んでいる?」


 アルドはすぐに答えた。


「新品の魔石で、詰まりが発生する衝撃と、爆発する衝撃。

 一応、大体の目安は出てるよ」


 エルンストは頷いた。


「では、それで確かめよう」


 アルドの実験スペースは、四隅に魔石が置かれ、防護結界が常に張られている状態になっていた。


 私は結界の中に入り、魔石を台の上に置く。

 沈石粉を軽く振ってから、外へ出た。


 アルドが魔力を練る。


「まずは、詰まりができる衝撃から」


 アルドが手を振り下ろした。


 ——ガンッ。


 魔石が揺れる。


 ルーカスが結界の中に入って確認する。


「詰まり、できてない」


 アルドがエルンストを見る。


「もう一回やる?」


「ああ」


 エルンストは即答した。


 ——ガンッ。


 魔石が跳ねる。


 それでも、詰まりはない。


 一回。

 二回。

 三回。

 四回。

 五回。


 何度繰り返しても、流れは乱れなかった。


 エルンストが口を開く。


「次は、爆発する衝撃で」


 アルドが肩を回す。


「りょーかい」


 私は思わず身構えた。


 ——ドォン。


 衝撃。


 魔石が大きく浮き上がり、台に落ちる。


 しん、と静まり返った。


 魔石は、何も起こさない。


 アルドが結界の中に入り、沈石粉を覗き込む。


 少し黙ったあと、言った。


「……詰まりすら、できてない」


 ルーカスと私は結界の中へ入る。


「本当だ」


 アルドが小さく息を吐いた。


「これは……やばいね」


 魔石を見つめたまま言う。

 普段のふざけた様子はない。


「本当に、やばいものを作っちゃった。世界がひっくり返る」


 ルーカスは興奮した様子で言う。


「今の魔具って、衝撃で魔石の不具合が出ること多いんだ。

 もしこれを使えたら、魔具の耐久性が一気に上がる」


 彼らの様子を見て、ようやく気付いてきた。

 

 どうやら私は、とんでもないものを作ってしまったらしい。


 エルンストが腕を組む。


「……だが、この結果で、ますます軽々しく外には出せなくなった」


 少し考えてから続ける。


「まずは、ルーカスが行った沈石粉による流れ観察の研究成果を報告する。

 その際、信頼できる上司にだけ、この魔石の件も伝えよう」


 一度言葉を区切る。


「その後の扱いは、そこで決める」


 エルンストがこちらを見る。


「それまでの間、フィーネ。

 君は他の呪文の流れの再現を試してもいい。

 あるいは、自転車づくりを進めてもいい」


 私は迷わず答えた。


「他の呪文の流れも試してみたいです」


 エルンストは頷いた。


「わかった。

 ただし削る作業は、この倉庫の中だけで行え」


 視線が全員に向く。


「そして、この件はまだ外に漏らすな。

 アルドもルーカスも、いいな」


 私たちは黙って頷いた。

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