開いた出口
工房には、私一人だった。
夜の静かな空気の中で、ノミの音だけが響く。
ノミを当てる。
カチッ。
沈石粉を見る。
それでも、流れはまた同じ出口へ向かう。
今はもう、流れのないところまで手当たり次第に削っている。
何かが変わるまで。
私は、ひらめきで答えにたどり着くような人間ではない。
だから時間をかけるしかない。
同じことを、何度も繰り返す。
少しずつ削って、
違えば戻って、
また削って。
空を飛べるわけじゃない。
だから、地面を這うように進むしかない。
しんどい。疲れる。
それでも、前へ進む。
ノミを当て直す。
カチッ。
叩いた。
その瞬間。
「……?」
手応えが、少し軽かった。
私はノミを止める。
今の感触は、いつもと違う。
石の奥に、薄い層があるような——
そんな手応え。
もう一度、同じ場所に刃を当てる。
カチッ。
欠片が落ちる。
やはり軽い。
私は魔石を持ち上げた。
削れた面を見る。
「……?」
そこは、少しだけ光り方が違った。
薄く、平らな面。
まるで——
割れた跡のようだった。
流れを見る。
そして、息を止めた。
線が——
そこから、外へ出ていた。
「……え?」
私は魔石を回す。
さっきまでは違った。
流れは前方の出口へ向かっていた。
でも今は——
ここから抜けている。
「出口……?」
小さく呟く。
さっきまで前へ向かっていた線が、
今度はこの面へ向かって流れていく。
それに引きずられるように、
石の中の流れ全体がゆっくり形を変えていた。
「流れも、変わってる……」
私は削れた面を見つめた。
平らで、妙に整った面。
たまたま削れただけにしては——
不思議なくらい、きれいだった。
その時、ふと思い出す。
実験を始める前。
魔石が爆発しないか確かめるため、衝撃を与えた。
あの時、魔石は割れ——
そこから新しい出口ができていた。
「……」
私は魔石をもう一度回す。
割れやすい面は、出口になるのかもしれない。
沈石粉の線は、静かに揺れている。
そして。
確かに、ここから外へ抜けていた。
もし——
出口を作れるなら。
呪文の流れも、再現できるかもしれない。




