変わらない出口
削る。
沈石粉を振る。
線が浮かび上がる。
そして——
また同じ出口に集まる。
私は息を吐いた。
もう、何日も同じことをしている。
魔石の表面、出口のすぐ手前にノミを当てる。
叩く。
カチッ。
欠片が落ちる。
流れは削った面を避けるように曲がり、石の中を回り込む。
そして——
やはり同じ出口に出てくる。
「……」
私は黙って、もう一度ノミを当てた。
今度は、出口そのものに。
削る。
流れは少しだけ揺れ、出口の位置を同じ面でほんのわずかにずらした。
だが——
結局、同じ方向へ抜けていく。
「出口が、変わらない」
私は小さく呟いた。
削れば流れは変わる。
だが最後には、必ず同じ場所へ集まる。
「どこを削っても……」
出口の手前。横。
そして、出口そのもの。
削るたびに流れは逃げる。
けれど——
必ず戻ってくる。
「一度休め。根を詰めすぎだ」
後ろで見ていたエルンストが言った。
私は振り返る。
「あの、まだ大丈夫です」
エルンストは腕を組み、顔をチラリと見た後、私の手元を見る。
手が、震えていた。
ノミを握りすぎて、手が痺れてしまっている。
思わずもう片方の手でその手を押さえる。
エルンストはそれを見てから静かに言った。
「大丈夫そうには見えないな」
そのとき、近くで作業していたルーカスがこちらに寄ってきた。
「一回休んだ方がいいかもよ」
沈石粉の線を覗き込みながら言う。
「もう何時間もやってるし」
その様子を見て、アルドが椅子を引いて近づいてきた。
「俺も休憩ー」
エルンストが眉を上げる。
「お前は休憩しすぎだ。さっきもしていただろう」
「いいのいいの」
アルドはひらひらと手を振る。
「俺は長時間悩むタイプじゃないの。思いついたら一気にやる派」
それを聞いて思う。
私は、同じことをどれくらい繰り返しているんだろう。
削って。
粉を振って。
流れを見て。
そして——また同じ出口。
ルーカスが私の方を見る。
「出口、やっぱり変わらない?」
「うん……」
私は頷いた。
「削ると流れはちょっとずつ変わるんだけど」
沈石粉の線を見る。
「出口が変わらないから、呪文の流れには近づかない」
アルドが机に肘をつく。
「削るだけで呪文の流れにする?
それはもう奇跡だよ」
彼は少し笑った。
「呪文ってのはさ、本来の流れを無理やり捻じ曲げてる。
だから詰まるし、暴れる」
沈石粉の線を指でなぞる。
「それを削るだけで同じ流れにする?そんな都合よく石が出来てるわけない」
肩をすくめる。
「できないのが普通さ。俺はできないと思うね」
胸が沈む。
その空気を変えるように、ルーカスが言った。
「でもさ」
沈石粉の線を指でなぞる。
「削って流れが変わるってだけで、もう大発見じゃない?」
私は小さく頷いた。
それから、エルンストの方を見る。
ずっと後ろで見ていてくれている。
万が一、魔石が詰まったり暴れたりしたときに備えて。
それなのに——
私は、同じところで止まったままだ。
私は少し迷ってから言った。
「魔石、削っても詰まったり爆発したりはしないみたいなので」
エルンストがこちらを見る。
「もう、見ていてもらわなくても大丈夫だと思います」
ずっと付き合わせてしまっているのが、少し申し訳なかった。
エルンストは少し黙った。
それからゆっくり言う。
「爆発はしないかもしれないが」
私の手元を見る。
「君は大丈夫か」
私は少しだけ笑った。
「大丈夫です」
それから言う。
「魔石、持ち帰ってもいいですか」
エルンストが眉を上げた。
「家でもやるのか?」
「はい」
私は頷く。
「自転車づくりの合間に、少しずつ試してみたいんです」
エルンストはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「……構わん」
そして付け加える。
「だが、無理はするな」
私は魔石を布に包んだ。
石の中の線は、静かに揺れている。
そして——
やはり同じ出口へ流れていた。
どうして、変わらないのだろう。




