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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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出口

 机の上には呪文をかけていない魔石。

 その隣に、呪文をかけた魔石を置いた。


 沈石粉を振ると、二つの魔石の中にそれぞれ線が浮かび上がる。


 この二つは、相性の良かった組み合わせだ。

 流れもできるだけ単純なものを選んである。


 二つの流れは、どことなく似ていた。


 呪文の流れは、下から上へ。

 中央で右に緩やかにカーブし、最後はやや後方へ抜ける。


 一方で、呪文のかかっていない魔石の流れは、下から上へ進んだあと——

 中央で、左へ折れてしまう。


 出口はやや前方。


 二つの線を見比べる。


 そこで気づく。


「……この左折がいらない」


 私は小さく呟いた。


 ここを変えられれば、呪文の流れに近づくはずだ。


 左に折れている部分の少し手前。

 流れを断ち切るようにノミの刃を当てる。


「削ります」


 エルンストに声をかけた。


 今度は制止されない。

 エルンストは静かに頷き、いつでも魔法を使えるよう魔力を練り始める。


 私は小さく息を吐いた。


 そして——


 ノミを叩く。


 カチッ。


 小さな欠片が落ちる。


「あ……」


 流れが変わった。


 削った面を避けるように、線が折れる。

 右へ。カクン、と。


 だが——

 そのあと石の中をぐるりと回り、やはり同じ出口へ出てくる。


 もう一度、右折する手前を削る。

 流れを断ち切るように。


「あれ?」


 今度は左に折れた。


 それでも、やはり同じ出口に出てくる。


 もう一度削る。

 また左折。


 場所を変え、今度は左折した後を削ってみる。


 流れは削った面を避け、石の中を迂回する。


 そして——

 また同じ出口に戻ってくる。


「出口は……固定なんだ」


 私は呟いた。


 削れば流れは変わる。

 曲がる。迂回する。


 だけど——

 呪文の流れのようにはならない。


 出口が変わらない。


 出口が変わらない限り、呪文の流れにはならない。


「……だめです」


 エルンストが腕を組んだ。


「そう簡単にはいかないだろうな」


 私はノミを机に置く。


 削り屑が、台の上に小さく積もっていた。


 魔石の中の線は、静かに揺れている。


 そして、やはり——

 前へ流れていた。


 同じ出口へ。


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