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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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割れた魔石

 次の日。

 倉庫で、私は早速実験の準備をしていた。


 倉庫にはエルンストとアルドがいる。

 ルーカスは、今日はギルドの仕事でいない。


 机の上に置いたのは、呪文のかかっていない魔石。

 そこへ沈石粉を軽く振りかける。


 淡い線が、魔石の内部に沿うようにゆっくりと流れを描いた。


「……流れは問題なし」


 私は頷き、ノミを取り出して机に置く。

 削って、流れがどう変わるかを見る。


 そのつもりだった。


 背後に立つエルンストに声をかける。


「じゃあ早速、削ってみます」


「待て」


 短く止められた。

 振り向くと、エルンストが腕を組んで魔石を見ている。


「呪文をかけていない魔石が、衝撃で詰まりを起こさないか。先に確認しておくべきではないか?」


 はっとした。


「……そうですね」


 もし衝撃で詰まるなら、削る研究をする意味がなくなる。


「どうやって確かめましょう」


 エルンストは倉庫の奥を顎で示した。


「ちょうどいい。アルドが衝撃実験をしている」


 視線を向ける。


 倉庫の隅。

 半透明の結界の中で、アルドが魔石に向かって手を振った。


 次の瞬間。


 ——ドォン!!


 激しい爆発音。

 閃光。


 私は思わず身を引いた。


「……だ、大丈夫なんですか?」


 結界の中ではアルドが平然と何かを帳面に書き込んでいる。


「問題ない。君はここにいろ」


 エルンストは迷いなく結界へ歩いていく。


「え、入るんですか?!」


 私が止める間もなく、結界を通り抜けた。


 ——ドォン!!


 再度爆発。


 私は思わず目をつぶる。


 しばらくして、閃光が収まった。

 結界の中でエルンストが何か短く呪文を唱える。


 爆発が止まった。


 やがて二人が結界から出てくる。

 アルドが煤だらけの顔でこちらを見た。


「お、フィーネ。何?」


「あ…呪文のかかっていない魔石が、衝撃で詰まるか確認したいんです」


 アルドは少し考える。


「今日始めたばっかりだから、まだあんまりわかってないけど……」


 肩をすくめる。


「前の自転車がぶつかったくらいの衝撃なら再現できるよ」


 魔石を自転車につけた時の衝撃。

 あの爆発を思い出して、少し背筋が冷える。


 だけど。


「それで試してみたいです」


 詰まりのなかった魔石でも、詰まって爆発するほどの衝撃。

 それで詰まらなければ、きっと大丈夫だ。


 アルドはにやりと笑った。


「いいね。じゃあ一回やってみようか」


 私は呪文のかかっていない魔石を台の上に置いて沈石粉を軽く振りかけた。

 それから、結界の外へ下がる。


 エルンストは、じっと魔石を見ている。


 アルドが結界の中で手を上げた。


「じゃあ、いくよ」


 短い詠唱。そして。


 ——ドン!!


 空気が叩かれるような衝撃が走る。

 魔石が台の上で大きく跳ねた。

 沈石粉が、ふわりと舞う。


 私は思わず一歩近づいた。

 そして目を凝らす。


 流れは——


「……」


 乱れていない。


 粉の線は、わずかに揺れただけで、そのまま流れ続けている。


 アルドが目を細めた。


「どう?」


「詰まりは、ないです。流れも乱れていません」


 エルンストが低く言う。


「もう一度」


 アルドが頷いた。

 二度目の詠唱。


 ——ドンッ!


 衝撃。


 魔石がまた跳ねる。

 沈石粉が散り、そして落ち着く。


「あ…」


 魔石が、割れていた。真っ二つに。


 アルドが眉を上げる。


「おっと。思ったより強かったか」


 私はすぐに机へ近づいた。

 割れた魔石に沈石粉を振る。


 粉は、ゆっくりと動き出した。


 目を凝らして粉を見つめる。


 割れた二つの魔石。


 その両方に、流れがあった。


 私は思わず息を呑む。


「……詰まりは、ないです」


 そして——


「流れが、変わってます」


 エルンストが割れた断面を覗き込む。


「……なるほど」


 割れたことで、新しい面ができている。


 元の入口側では、その面が出口になっていた。

 逆に、元の出口側では——


「入口ができているな」


 エルンストが低く言った。


 流れが、変わっている。


 アルドが感心したように言う。


「へえ……」


 指先で顎をかいた。


「詰まらないだけじゃなくて、割れたら流れが変わるってことは……」


 少し笑う。


「削ったら、流れを変えられるかもしれないね」


 私は割れた魔石を見つめた。


 爆発しない。


 詰まらない。


 ただ、形に従って流れが変わる。


 なら——


 私はノミを手に取った。


 今度こそ。

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