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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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衝撃の後で

 焦げた匂いが、まだ空気に残っている。


 そのとき、背後で、足音がした。


 商会側の通路から、クララがやってくる。


「鉄の自転車ができて、フィーネが持ってきてくれたと聞いたのだけど」


 そう言いながら私たちを見て、中央にある歪んだ塊へ視線を移す。


 そして、目を見張った。


「……まさか、それ、なんてことないわよね?」


 アルドが肩をすくめる。


「うん、その“まさか”だね」


 軽い調子だが、どこか満足げでもある。


「派手にやったわね……どうしてこうなったの」


 クララはしゃがみ込み、焦げたフレームを覗き込む。


「安定と軽量と加速の魔石をつけて、試走を——」


 私は経緯を説明する。


 クララは数秒固まった。

 それから——


「なんですって?!」


 クララがずい、と顔を近づける。


「どのくらい速度出たの? 私も見たかったわ!」


 怒られると思っていた私は、拍子抜けする。


「え、えっと……今まで見た中で一番速かったです」


 エルンストが淡々と言う。


「熟練の魔法使いが空を駆けるよりも速かった。

あれは、人の脚で制御できる速度ではない」


「素敵だわ!」


 クララは目を輝かせる。


「でも、ぶつかった衝撃で魔石が爆発するのはいただけないわね。それは防げないの?」


 私は言葉に詰まる。


「今のところは……」


「残念ね。でも改良できたら、次は必ず見せてちょうだい」


 そう言って、にっこり笑う。


 改良。できるのだろうか。

 そう思いながらも私は頷いた。


 ルーカスが歪んだ自転車を見ながら言う。


「これ、どうする? 直せるかな」


「ミゲル工房のオリバーさんは、壊したら直すって言ってたけど……」


 こんなに壊れていたら、流石に直せないだろう。

 言い終わる前に、アルドがひょいと担ぎ上げる。


 鉄製のはずなのに、やけに軽々と。


「とりあえず持っていくよ」


 私は頷いてミゲル工房の場所を伝える。


 アルドの短い詠唱。

 彼の身体がふわりと浮かび上がる。


「やべ、俺もそろそろ行かないと」


 ルーカスが時計を見て慌てる。

 王都の魔術院へ向かう時間だ。


 自然と解散の流れになり、クララも戻っていく。


 残ったのは、私とエルンストだけ。

 エルンストが静かに言う。


「やらないとは思うが……一人で加速魔石をつけるなよ」


 私は頷く。


「やりません。まだ、扱いきれないってわかりました」


「……そうか」


 短い返事。


 私は地面の焦げ跡を見つめる。


 事故の衝撃で爆発する魔石。

 そんなものを、地上の乗り物に使うわけにはいかない。


 使うなら——

 衝撃で乱れない流れを持つ魔石。


「衝撃で乱れない魔石って、あるんでしょうか」


 エルンストは少し考える。


「呪文をかける以上、内部の流れは上書きされる。不安定になるのは避けられん。今の理論では、ない」


 呪文をかけるから、不安定になる。


 では。


「呪文をかけずに、呪文の流れを再現できたら?」


 エルンストが視線を上げる。


「……理論上は、可能性はある」


 胸の奥で、何かが噛み合った気がした。


「呪文なしで、流れを変えられないか、試してみたいです。例えば、削ったりして」

 

「果てしないぞ」


 呆れたように、しかし止めない声。


 私は小さく笑う。


「もうすぐ、自転車の目標台数が揃います。それが終われば、少し手が空きます」


 自転車を作りながらでも、研究には戻れる。


 エルンストは頷く。


「相性チェックも終盤だ。君が戻る頃には、次のテーマに入ることができるだろう」


 私は、地面の爆発の跡をもう一度見た。


 壊れた。


 でも、きっかけを得た。


 衝撃で乱れない流れ。

 呪文に頼らない魔石。


 削って、刻んで、形にする。


 次に壊すのは、魔石じゃない。


 ——限界だ。

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