赤熱
商会の帰りに倉庫に行くと、いたのはアルドだけだった。
倉庫の中はひどく静かだ。
外の音も、ここまでは届かない。
アルドは本を顔に被せて、長椅子に寝転んで寝ている。
本当に自由な人だ。
壁に目を向ける。
相性のチェックは順調に進んでいるようだ。
升目の表が、半分ほど埋まってきている。
机の上には、相性をチェックしているのか、沈石粉がかけられている魔石があった。
沈石粉がずるずると動いている。
「!」
魔石の流れと呪文の流れの相性が良くない組み合わせだったのか、大きな詰まりが複数できている。
——これ、呪文何回目なんだろう。
魔石に手をかざす。
詰まり部分が確実に熱を持っている。
ほんのわずか、ではない。はっきりわかるほどだ。
このまま放っておくと、危ない。
私は急いでアルドを起こす。
「アルドさん、起きてください。魔石、詰まりができてますよ!」
声をかけても起きないので、肩を持って揺さぶった。
「アルドさん、アルドさんってば!」
そうこうしているうちに、魔石が光り出す。
赤い。
熱の色だ。
暴走した、鍋の魔具や暖房魔具の魔石を思い出す。
あの時と、同じ。
「アルドさんっ!アルドさん起きて!」
なりふり構わずアルドを激しく揺さぶる。
本が顔からずり落ちていく。
しかし、起きる気配がない。
——どうしたらいいの。
鍋の時のような、魔石に穴を開けて沈石粉を詰めるなんて荒療治は、できない。
もうやるなと言われているし、そもそも今日はノミを持っていない。
——強烈な赤。
表面に細い亀裂が走る。
空気が、焼ける匂いに変わった。
——熱が、来る。
その予感とともに私はアルドを背に庇い、目を瞑った。
そのとき。
後ろで、短い呪文が聞こえた。
目を開けると、アルドが魔法で魔石の流れを止めていた。
「ア、アルドさん…」
私は足の力が抜けてその場に座り込んだ。
「お、起きたんですね…」
アルドはこちらをみて頷いた。
私は何とか立ち上がる。
アルドは魔石の近くに寄って行って指で弾いた。
赤い光が、すっと消える。
「うん。大体、想定通り」
「想定通りって……」
私はまだ膝が震えている。
「ちょうどさ。相性が悪い魔石と呪文が見つかったから、どれくらいで爆発するか気になって。試してた」
焦ってもいない、普通の声。
しばらく、言葉の意味が入ってこなかった。
「な、何で!そんな危険な実験の時に寝るんですか!!」
思わず大声が出る。
アルドは首を傾げる。
「寝てたように見えた?」
「見えましたよ!」
私は即答した。
「君さあ、一般人なのに魔法使い庇うって何やってんの」
「それは、アルドさんが起きないからじゃないですか!」
そう言ってから、アルドが間一髪の良すぎるタイミングで魔石を止めたことを思い出した。
「まさか、起きてた?…し、信じられない、何でそんなことするんですか!」
私が詰め寄ると、アルドは軽い調子で答えた。
「いや〜、反応を見たかったからさ」
「……は?」
「危険を前にして、君がどう動くのか」
どう言うことだ。
こっちは死ぬかと思ったのに、試していたということか。
この人は、何なのだ。
人の命も、反応の一つとして数えるのだろうか。
付き合いきれない。
「もういいです、帰ります!」
私はそう言って、出口の方に向かおうとする。
すると、アルドが普段通りの軽い声で静止をかける。
「待って待って」
何が、待って、だ。




