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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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誤解

 この期に及んでまだ何があると言うのだろうか。

 さっきまでの赤が、まだ視界の奥に残っている気がした。


 アルドが体で進路を塞ぐ。

 狭い通路でそれをされたので、仕方なく私は立ち止まる。


 だが、気が収まらない。


「どいてください!」


 強い力で腕を押して通り抜けようとした。

 

 だけど、硬くて重い。全力で押しているのに、アルドはふらつきもしない。

 この人、細身に見えて、相当しっかりしてる。


 私が一人で押し問答をしていると、逆にがしりと腕を掴まれる。


 痛くはないが、振り解けない強さ。


「なんですか、離してください!」


 指を掴んで離そうとしていると、上から声が降ってくる。


「待って、君に聞きたいことがあるんだ」


 話を聞かないと離してくれそうにないので、仕方なく諦めた。


 深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 それから、アルドを見上げた。


「…聞きたいことって、何ですか?」


 こちらを見る赤い眼と、目が合う。


「自転車の増産が止まった話、何でエルンストの助力を断ったの?」


 思わぬ話題だったので、私は目を丸くした。


「はい?何で断ったか、ですか?

 …自転車は、私の作ったものですから。私が責任持って対処したいと思ったからです」


 何でそんなことを聞くのかと、首を傾げる。


「でもさ、エルンストに頼んだら、すぐ解決して増産できるかもしれないよ?楽じゃん?」


「そんな人任せなことできないです。

 そもそも、エルンストさんは自転車に関係ないので、そんなこと頼むのはお門違いです」


「ふーん」


 わかったのか何なのかよくわからない返事。


 ようやく腕を離してくれる。

 そして、こちらを見下ろしていたアルドの視線が、細くなる。


「俺が手伝ってあげようか?

 中央監査庁に所属してるから、案外権力あるんだ。

 本気出したらギルドや馬車組合の言い分なんて圧力で簡単に黙らせちゃえるよ」


 私はもう一度目を丸くした。


「アルドさんも自転車に全く関係ないじゃありませんか。

 そんなことして、私にもアルドさんにも何のメリットがあるんですか」


 アルドがとぼけたように言う。


「君にもメリットないの?」


 私は頷いた。


「全くありません。

 ちゃんと言われたこと解決しないで、圧力で黙らせるなんて。その人たちの不満を増やして恨まれるだけです」


 しかも、アルドに頼むなんて、何が起きるかわからず怖い。

 アルドは、再度、わかったのかわからないのかよくわからない返事をした。


「もういいですか、帰ります」


「俺、なんか君のこと誤解してたみたい」


 急な話題展開に、ついていけない。


 嫌な予感がした。


「……何をですか」


「火種だけ蒔いて、後ろで守られて、それを当たり前にする人だと思ってた」


 空気が止まる。


「困ったらあいつに背負わせて、自分は守られる人」


 私は即座に首を振る。


「そんなこと、しません」


 人に責任を押し付けるくらいなら、自分が苦労するほうがましだ。


「うん。しないね。自分で背負う人だった」


 アルドは私の目をまっすぐみて言う。


「今まで冷たくして悪かったね」


 冷たさというか、警戒されている感じはしていた。

 私はため息をついた。


「わかりました、もういいですから」


 ようやくアルドは、道を開ける。


「圧力は使わない」


「……はい」


「その代わり、ちゃんと勝ちなよ」


 私は思わず顔を上げる。


「君が、自分で決めたやり方で」


 軽い口調なのに、目は真剣だった。


 私は、ゆっくりうなずく。


 倉庫を出る。

 

 背後から、声が飛ぶ。


「フィーネ」


 振り向く。


「次はちゃんと起きてるから」


「寝ないでください!」


 思わず言い返してしまう。


 アルドが笑う。

 その笑いは、今までより少し柔らかかった。

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