再出発と条件
倉庫の中は、外よりもひんやりとしていた。
分厚い壁。
高い天井。
石造りの床には余計なものがなく、音が低く吸い込まれていく。
「防爆加工済みよ。音も外に漏れにくいわ。多少派手にやっても問題ない」
クララの声が、静かに響く。
エルンストはゆっくりと空間を見渡した。
掌から魔力を流し、壁と床の反応を確かめる。
わずかな沈黙のあと。
「……悪くない」
短い評価。
ルーカスも無言で壁に触れ、魔力の流れを確かめている。
その横顔は、もう見習いのそれではない。
彼は何も言わない。けれど、ちゃんと確かめてくれている。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
戻れるかもしれない。
また、実験ができるかもしれない。
クララが扇を閉じた。
「ただし、完全な無償ではないの」
空気が、わずかに引き締まる。
「倉庫の使用料は、維持費程度で構わないわ。その代わり――」
一拍。
「自転車の販売について、優先的にクレセント商会に扱わせてほしいの。独占とまでは言わない。でも、最初の窓口はうちに」
エルンストが視線を向ける。
「利益配分は」
「書面にするわ。透明に。フィーネの取り分を侵すつもりはない」
「権利の帰属は」
「設計者はフィーネ。そこは動かさない」
迷いのない答え。
名前を出されるたびに、背筋が伸びる。
アルドがくすりと笑う。
「ずいぶん誠実じゃないか」
「長く儲けるには、信用が必要なのよ」
クララはさらりと言った。
その顔は、利益よりも、未来を買っている顔だった。
エルンストは数秒だけ考え、
「契約書を作成してもらおう。内容は私が精査する」
低く、はっきりと告げる。
「問題がなければ、正式に合意しよう」
クララは満足げに頷いた。
「ええ、もちろん」
私は、小さく息を吸う。
また、始められる。
「お願いします」
自分でも驚くほど、声はまっすぐだった。




