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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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報告

 倉庫に足を踏み入れるのは、久しぶりだった。


 魔石と沈石粉が、たくさん置いてある。

 作業台の上には、きちんと揃えられた帳面。


 胸の奥が、少し落ち着いた。


「来たか」


 エルンストが短く言った。


 アルドは壁にもたれ、腕を組んでいる。

 ルーカスは机の横に立っていた。


 空気が、軽くない。


「報告がある」


 エルンストが言う。


 私は頷き、机のそばに立った。


「先に僕から」


 ルーカスが、一枚の書類を差し出す。


「ギルドにかかっている圧力の出所が分かりました」


 紙が、やけに硬い音をたてた。


「魔術院です」


 静かに、言い切った。


「正式な通達ではありません。ですが、審査保留の指示、流通制限の勧告、すべて同じ経路を通っています」


 私は紙を受け取る。


 見慣れない紋章。月が3つと星が一つ描かれている。


 喉が、少しだけ乾く。


「すべて、魔石研究を始めたころに行われています」


 時期が、揃いすぎている。


 倉庫が、しんと静まった。


「こちらも報告だ」


 エルンストが別の紙を机に置く。


「爆発した荷の搬入経路を追った」


 経路が図で書かれている。

 指で一点を示す。


「ここだ」


 そこにも、同じ紋章。


「魔術院を経由している」


 私は息を吸う。


 二つの報告が、机の上で並ぶ。


 重なる。


 アルドが低く言った。


「……分かりやすいね」


 皮肉は薄い。首を振り、呟くように言う。


「魔法使いの面子ばかり気にする連中だからさ」


 エルンストは腕を組む。


「放置は、できないな」


 短い一言。


「悪意が露骨だ。内部の判断とは思えん」


「内部?」


 私が聞き返す。


「魔術院の総意ではない可能性がある」


 エルンストは淡々と続ける。


「だが、責任は組織にある」


 しばらく、誰も口を開かなかった。


「早急に対処する。私が出向く」


 それは、決定事項だった。


 空気が、わずかに張りつめた。


 魔術院へ。


 私は思わず顔を上げる。

 でも、すぐに俯く。


 ——私は何も、できない。


 魔術院に単身乗り込むのは、危険なはずだ。


 けれど。


 私が行っても、足手纏いになるだけだ。


 研究も、止まっている。


 調査も、任せきりだ。


 悔しい。


 ——違う。


 思考を止めるな。


 魔法が使えないのは、最初から分かっていた。


 なら、別の武器を探せ。


「資料はまとめておきます」


 なんとか、そう言った。


 エルンストは頷く。


「研究結果も持参する。理論として成立していることを示す」


 アルドが静かに笑う。


「認めないなら、責任問題になるってわけだ」


 誰も否定しない。


 ルーカスは何も言わない。

 けれど視線だけは逸らさなかった。


 机の上の書類が、やけに白く見えた。


 倉庫の窓の外で、風が鳴る。


 こちらを、試すように。


 なら、応えるしかない。

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