研究の再構築
倉庫の中央に、作業台を置いた。
それ以外は何も置かれていない広い空間は、
再出発を静かに待っているみたいだった。
「正式に使用許可が降りた」
エルンストが言う。
「今日からここを使う」
私は小さく息を吐いた。
戻れる。
でも、前と同じではいけない。
机の上に帳面を広げる。
「今までの内容を、整理します」
順番に書き出していく。
・魔石には固有の流れがある
・呪文はその流れを上書きする
・上書きの流れは元に戻ろうとする
・その反発が詰まりを生む
・詰まりが爆発になる
エルンストが言う。
「次は、何を検証するかを決めたい」
私は考えを口にする。
「やはり、詰まりを生まない方法を探るべきだと思います」
アルドが帳面を見ながら机に頬杖をついた。
「詰まるってことは、合ってないってことだよね」
「合ってない?」
何が合っていないのか。
アルドの方を見る。
「魔石の流れと、呪文の流れの型。相性悪い組み合わせで爆発してんじゃない?」
「逆を言えば、合う型があるかもしれない」
思わず漏れたように、ルーカスが口を挟む。
はっとするが、そのまま続ける。
「相性が良いと、戻ろうとする力が弱いから、詰まりを生まない可能性があるってことですよね」
「そうそう。ちゃんと考えてんじゃん。君も入れば?どうせ今まで外から見てただけなんでしょ」
アルドは薄く笑いながら言う。
ルーカスは少しだけ黙る。
「……邪魔にならないなら」
私は即座に言う。
「邪魔なわけない」
エルンストも頷く。
「拒む理由はない。参加しろ」
少しだけ間があって。
「分かりました。やります」
静かだが、はっきりと言った。
エルンストは机を軽く叩く。
「相性を確かめるには、前提が要る。
まずは、魔石の流れに、傾向があるかどうか確認が必要だ」
「そこからだね」
アルドが近くにあった魔石を摘みながら頷いた。
私も口を開く。
「呪文の方は、流れごとに型が決まっています。そちらも再整理するのがいいと思います」
エルンストが頷いてまとめる。
「では、研究の軸は三つ」
指で机を叩く。
「第一に、魔石の流れに分類の可能性があるか検証する」
「第二に、呪文の構造も整理する」
「第三に、両者の組み合わせと安定度を記録する」
「安定度は、爆発を待つのではなく、途中で評価する、ということですか?」
ルーカスが質問する。
エルンストは腕を組みながら言った。
「そうだ。爆発の有無ではなく、戻りの強さを測るのがいいだろう。一定時間呪文をかけ、解除し、戻り時間と揺らぎを記録する」
アルドが付け加えるように聞く。
「それを何度も繰り返す?」
エルンストは頷いた。
「負荷循環試験だ」
私は、次の研究内容を帳面に書き込んだ。
道筋が、ようやく見えた気がした。
そのとき、エルンストが私を見る。
「フィーネ」
「はい」
「自転車の生産が軌道に乗るまでは、そちらを優先しろ」
一瞬、迷う。
胸の奥が、ほんのわずかに沈んだ。
けれど、頷く。
「……わかりました」
アルドが手をひらひらさせる。
「こっちはこっちで回すから。気にしなくていいよ」
軽い。
少しだけ、線を引くような響き。
気にしないでいられたら、どれだけ楽だろう。
ルーカスが、静かに言う。
「記録は必ず共有するよ」
視線が合う。置いていかないという意思が見えた。
だけど、”共有”という言葉が、少しだけ遠く聞こえた。
私は頷く。
魔石の研究は、したい。
でも、自転車も私が責任を持たなければならない。
今は、それぞれの持ち場がある。
私は、私の場所で進めばいい。
選んだのは、私だ。
倉庫の空気が、わずかに震える。
再出発は、今度こそ前に進む形で始まった。




