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滞る供給

「……まだ?」


 帳面の端に書いた日付を、指でなぞる。

 魔石の追加申請を出してから、もう十日以上が経っていた。


 作業台に置かれた新品の魔石を見下ろし、私は唇を噛む。


 呪文の重ねがけによって、詰まりが爆発に繋がることは、すでに確認できている。

 次に知りたいのは、なぜ詰まりが生まれるのかだ。


 そのために必要なのは、新品ではない。

 使われ、負荷を受け、流れに歪みが出始めた魔石。


 だから申請書にも、はっきり書いた。


 ——劣化品、もしくは使用済み回収予定品。

 ——検証用。出力不要。


 それなのに。


 却下ではない。

 理由もない。

 ただ、進まない。


 エルンストも、少しだけ悩ましそうに言う。


「追加申請自体は通っている。ただ……優先度が低い」


「……低い、ですか」


「正式な研究枠ではない以上、仕方ないな」


 正論だった。

 誰かを責められる話ではない。


 それでも。


「詰まりの原因を調べるには、詰まった石が必要なのに……」


 エルンストは、頷いた。


「その通りだ」


 そして、付け加える。


「露骨に反対されてはいない。ただ、積極的に協力する理由も、彼らにはない」


 無関心。

 それが、一番やっかいだった。


 エルンストはさらに、私の方を見て釘を刺す。


「だからといって、君はまた何か危険なことを思いついても、すぐには実行しないでくれ。

何かする前に、必ず私に言ってくれ」


 完全に、危険人物として見られている。

 それだけは、わかった。


 ——そんなに、危険に飛び込んで行ってるつもりは、ないのだけれど。


「…わかりました」


 渋々そう答えた。



 その日の帰り、ギルドを出たところで、ルーカスと鉢合わせた。


「あれ? ルーカス? なんでここに?」


「ん?父さんの仕事手伝ってるから。知らなかった?」


「え、知らなかった……」


 ルーカスの父親がギルド所属の魔法使いだということは知っていたが、

 こうして顔を合わせることは、ほとんどなかった。


「フィーネ、俺に興味ないもんな……」


「ちがうから!」


 慌てて否定すると、ルーカスはすぐに笑った。


「冗談。俺の父さん、魔石の仕分け部署にいるんだよ。魔術院から送られてきたやつとか、市場から回収したものの魔石のチェックしてるんだ」


「そうなんだ…」


 私が今喉から手が出そうな程欲しい魔石が、ごろごろありそうな部署だ。


「で、さっきから難しい顔してたけど、何かあった?」


 どうやら、考え込んで歩いていたのを見られていたらしい。

 事情を話すと、ルーカスは小さく息をついた。


「……ああ、なるほどな」


「なにが、なるほど?」


「よくあるやつだよ。“止めないけど、助けない”ってやつ」


 歩きながら、彼は言う。


「現場からしたらさ。

 ギルドで問題なしって出してる魔石に、実は危険があるかもしれない、って話は、面倒なんだ。

 今までのやり方が、間違ってたってことになるから」


 エルンストとは、違う種類の視点だった。


「……そっか」


 胸の奥が、少しだけ重くなる。


 ルーカスは、一瞬だけ迷ってから、言った。


「そういえばさ。処分前の照明魔具が、倉庫に溜まってるんだ。最近、不具合出たやつ」


 私は、顔を上げた。


「処分前……?」


「正式には廃棄予定品。でも、同じ時期に使い始めて、問題出てないのも一緒にある」


 彼は、こちらを見る。


「比較するには、ちょうどいいだろ」


 胸の奥に、ぱっと火がつく。


「……それ、見てもいい?」


「たぶん。父さんがチェックしてたから、明日一応確認してみるよ」


「ありがとう」


 本当に、欲しかったものだった。


 私は、深く息を吸った。


 供給は、滞っている。

 でも、流れは、まだ完全には止まっていない。

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