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はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


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仕訳の横道

 倉庫は、ギルド本館の裏手にあった。


 表の執務棟と違い、人の出入りは少ない。

 棚に積まれているのは、役目を終えた魔具や、修理待ちの器具、処分予定の箱ばかりだ。


「この辺だな」


 ルーカスが、奥の棚を指さした。


「最近、不具合が出た照明魔具。点いたり消えたりするってやつ」


 木箱の中には、見慣れた形の照明魔具が並んでいる。

 使い込まれてはいるが、外見上、大きな破損はない。


「こっちは?」


 私が隣の棚を指すと、よく似た箱があった。


「同じ時期に使い始めて、不具合が出てないやつ。後からちょこちょこ不具合出ると困るからさ、こういうのは一斉に変えるんだ。比較するのにちょうどいいだろ」


 ——あまりにも、都合がいい。


 ルーカスに感謝した。



 二人で魔具を作業室に運び、机の上に並べた。


 不具合ありと不具合なし。

 見た目は、ほとんど同じだ。


 帳面を開き、使用年数と呪文の付与時期を確認する。


 どちらも一致していた。


 事前に連絡していたエルンストが、作業室に入ってくる。

 二つの魔具を一瞥し、短く頷いた。


「外見からは判断できないな。始めてくれ」


 私は沈石粉を取り出し、まず不具合のない方に振りかけた。


 流れは、滑らかだった。

 引っかかるところもなく、自然に出口へ向かっている。


 次に、不具合のある魔具。

 沈石粉が線を描いた瞬間、思わず息を止めた。


 似ている。

 不具合のないものと、あるもの。


 細かいところは違う。分岐の数も、太さも。

 それでも、流れ全体の形が、どこか重なる。


「似ているな」


 エルンストが、私の考えを読んだように言った。


 彼には、以前発見した呪文の癖をすでに報告している。


「何が似てるんだ?」


 ルーカスが首を傾げる。


「同じ呪文だと、流れの形がよく似る」


 エルンストは無言で魔石をつまみ、くるりと回転させた。


 流れの入り口と出口を同じ向きに揃える。


「あ……確かに」


 ルーカスが、納得したように息をついた。


 私は、二つの流れをもう一度なぞる。


 不具合のある方。その一点に、視線が止まった。


 分岐の、一部。向きが、逆だ。


「……ここ、向きが違います」


 指差すと、エルンストが確認し、頷いた。


「分岐の一部だけ、逆を向いている」


 そのせいで流れ同士がぶつかり、速度が落ちている。


 沈石粉が、そこだけ薄く溜まっていた。


「詰まりかけてますね」


 私は、その部分をじっと見つめた。


 以前、魔具店で気になった質感と温度の違い。

 同じものが、ここにも出ているかもしれない。


「……たぶん、気のせいじゃない」


 そこだけ、わずかに光が鈍く見える。

 触れると、ほんの少し温度も違った。


 エルンストに伝えると、彼は黙って魔石を観察し、手をかざして温度を測った。


 しばらく、何も言わない。


 やっぱり、違ったのかもしれない。私の目は、まだ未熟で——


「……言われてみれば、そうかもしれない」


 エルンストは、首を振った。


「これを通常の検査で見抜くのは無理だな。意識して探しても、気づくのは難しい」


 確かに、光の悪戯で済まされてしまうような差だ。


 私は帳面に書き込んだ。


 ——局所的な質感差

 ——微弱な温度差

 ——一般的検出は困難


 もう一度、二つの魔具を見比べる。

 使用年数も、呪文も同じ。形状も似ている。


 違うのは、流れだけだ。


 同じ条件で、なぜ片方だけ歪むのか。


 私がまだ、知らないだけなのだろうか。

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