与えられた魔具
扉を開けて中に入ると、すぐ正面にカウンターがあった。
部屋は広い。
奥には、いくつもの机が整然と並び、そこに座る人たちが書類に向かっている。
紙をめくる音、筆記の音。小さな会話や、時折混じる笑い声。
ざわざわとした空気が、耳に心地よく広がる。
——少し、ギルドの受付に似ている。
そう思うと、ほんの少し肩の力が抜けた。
エルンストは迷いなくカウンターへ向かう。
「研究補助員の所属手続きを頼む。この二人だ」
簡潔な言い方。
カウンターにいた受付の女性が顔を上げた。
エルンストを見てから、私とルーカスに視線を移し、にこりと微笑む。
「承りました。身分証明はお持ちですか」
思わずエルンストを見る。
「こちらに」
エルンストが書類を差し出す。
受付はそれを受け取り、素早く目を通した。
「……確認しました」
顔を上げる。
「新規所属ですね。登録手続きを行いますので、こちらにお名前と必要事項をご記入ください」
差し出された書類に記入し、しばらく待つ。
席を外していた受付が、トレイを手に戻ってきた。
その上には、銀の紋章が刻まれたバッジが二つ。
「こちら、身分証明も兼ねておりますので、紛失なさらないようご注意ください」
手に取って裏を見る。
——中央監査庁 魔石研究 研究補助員 フィーネ
その文字を見て、ようやく実感が湧いた。
——本当に、所属するんだ。
「手続きは以上です」
受付はそう言ってから、書類にもう一度目を落とし、首をかしげる。
「あら……フィーネ様は、魔具の貸与申請も出ていますね」
「え?」
思わず声が出る。
身に覚えがない。
書き間違えたのだろうかと、胸がざわつく。
「私が申請した」
エルンストが淡々と言う。
「魔具は自分たちで選ぶ。部屋への案内だけでいい」
「承知しました。現在ですと、D3の部屋が空いております。そちらでお選びください」
エルンストは頷き、そのまま歩き出す。
私とルーカスは慌てて後を追った。
同じ部屋の壁際には、扉がずらりと並んでいる。
その中の一つ——「D3」と記された扉の前で、エルンストが足を止めた。
扉を開ける。
「わあ……」
思わず声が漏れる。
中には棚がずらりと並び、その一つ一つに箱が収められている。
箱の中には、さまざまな魔具。
「フィーネには、保護のために魔具を持ってもらう」
エルンストが箱から一つ取り出し、私に差し出す。
丸みのある、小さな魔具。
中央監査庁の銀の紋章が刻まれていて、手のひらに収まる大きさだった。
「これは……何の魔具ですか?」
「衝撃を受けた際に防護結界を展開する。加えて、指定した別の魔具へ信号が送られる」
エルンストはわずかに間を置いてから言う。
「ただし、防護結界は一度きりだ。発動すれば魔石は消耗する」
——一度きり。
使えば、それで終わり。
「こんな魔具、初めて見た」
ルーカスが覗き込む。
「主に軍や貴族が使うものだ。一般市場には流通していない」
言われて、今度は裏を見る。
魔石をはめ込むための空間が、二つ空いている。
「魔石は、入っていないんですね」
「後で自分で魔法を付与して入れる」
「二つあるな」
ルーカスが指を差す。
「防護用と、信号用だ。入れる魔石は——フィーネが削ったものを使え。そちらの方が安全だ」
私は小さく頷いた。
「帰ったら、加工して入れておけ」
「はい」
「それと、その魔具は常に携帯しておけ」
「……わかりました」
私はもう一度、手の中の魔具を見つめた。
これを使う日が来ない方がいい。
そう思いながら——
私は、それをそっと握りしめた。




