道が開く
中は、静かだった。
足音が、やけに響く。
磨き上げられた石の床。無駄のない直線で構成された空間。
壁も柱も、装飾はほとんどないのに、どこか圧迫感がある。
空気そのものが、冷たく感じられた。
行き交う人たちは、皆、整った服装で、無駄な動きがない。
エルンストと同じ、胸元に銀の紋章が入った黒い外套を着ている者もいる。
誰もが忙しそうなのに、慌ただしさはない。
ただ、淡々と動いている。
その人たちの視線が、一瞬だけこちらに向く。
何かを測られているような、そんな視線。
ひゅっと、息が詰まった。
この人たちは、みんな魔法使い。
それも——選ばれた側の。
ただの一般人の、私。
場違いだ、と。
自分で、そう思う。
こんなところに、本当に私がいていいのだろうか。
エルンストの背中を見る。
迷いなく歩くその背は、この場所にも馴染んでいる。
隣を歩くルーカスも、気負いなく前を向いている。
「フィーネ、不安?」
ルーカスが、少し身を屈めてささやいてくる。
「あ……ちょっと。場違いかなって」
そう答えた瞬間、前を歩いていたエルンストが振り向いた。
「ここにも、いろんな人間がいる。気にしなくていい」
はっきりとした声。
「君がここにいるのは、れっきとした理由がある」
そのまま、また前を向く。
少しだけ、気持ちが落ち着いた。
奥へ進むと、いくつもの扉が並んでいた。
それぞれの前には、人が一人ずつ立っている。
脇には、立ったまま使える小さな机。
エルンストは、そのうちの一つへ迷いなく向かう。
扉の前に立っていた人物が、エルンストを見るとすぐに道を開けた。
そのまま、ルーカスも通される。
——そして。
その人の視線が、私で止まった。
一歩、身体をずらされる。
行く手を、塞がれた。
どきり、と心臓が音を立てる。
「君は……魔法使いではないな?」
心臓がさらに跳ねた。
——見抜かれた。
やはり、魔法使いでない私は、ここに入れないのだろうか。
喉が、ひどく乾く。
「一般人だが、研究補助員となる予定だ。証明もある」
エルンストが一歩前に出る。
懐から書類を取り出し、差し出した。
相手はそれに目を通す。
短い沈黙。
やがて、小さく頷いた。
「……通っていい」
道が、開く。
私は、ほっと息をつきながら、急いで扉をくぐった。
しばらく歩いてから、ようやく息を吐く。
胸の奥で、強く打っていた心臓が、少しずつ落ち着いていく。
「大丈夫?フィーネ」
ルーカスが、隣で声をかける。
「う、うん……大丈夫。ちょっとびっくりしちゃって」
「だよね。俺もびっくりした。魔法使いじゃないって、わかるんだな」
ルーカスの言葉に、エルンストが淡々と答える。
「扉の門番は、特殊な魔具を持っている。魔法使いかどうかを判別するものだ」
そんなものがあるのか。
「勝手に忍び込もうとする一般人がたまにいるからな。……ここだ」
エルンストが足を止める。
私は、目の前の扉を見つめた。
ここに進めば、もう後戻りできない。
そんな予感がした。




