不意の呼び出し
クララの自転車店に、やってきた。
店は、大通りから少し外れた場所にある。
だが、人通りは多く、店にはひっきりなしに人が出入りしている。
「いらっしゃい……って、あら?」
店の奥から顔を出したクララが、私たちを見て目を丸くする。
「フィーネにルーカス。それに……ずいぶん賑やかね」
クララの視線が、魔法学園の制服を着たレオンたちに止まる。
「自転車を見たいそうで」
「へえ」
クララは状況を察したように笑った。
「いいわよ。スタッフは空いてないけど、フィーネがいるし大丈夫よね。好きに見ていって」
店の中には、何台もの自転車が並んでいる。
「うわ、すげえ……」
「これ全部そうなのか?」
「おい、金属のものもあるぞ!かっこいい!」
レオンの友人たちが一斉に食いつく。
さっきよりも、さらに騒がしい。
「金属製だと、木製より少し値が張ります。ただ、木製よりも丈夫で長持ちすると思います」
私は簡単に説明する。
友人の一人が、木製の自転車を指した。
「俺は木製の方がいいなあ。温もりがあるもん。な、レオン、これ買って」
「買うがお前には貸さねえからな」
「なんでだよ〜」
項垂れていた友人が、ふいに顔を上げてこちらを振り向く。
「ていうかさ、君、同い年だよね? 敬語じゃなくていいよ〜普通に喋ろうよ」
唐突に言われて、少し戸惑う。
それでも、小さく頷いた。
「え? えっと、わかり……わかった」
「フィーネちゃんって呼んでいい? 俺、ラルフ」
子犬のような人懐っこい顔で、ラルフはさらに距離を詰めてくる。
ごん、と鈍い音。
レオンがラルフの頭に手刀を落とした。
「だからお前は馴れ馴れしいんだよ」
「あだっ。……いいじゃん、俺は可愛い子と仲良くなりたいんです〜」
その言葉に、レオンの眉がぴくりと動く。
「……おい、調子乗んな」
低い声。
ラルフはひるむどころか、びしっと指を突きつけた。
「ツンデレレオンくん。君も実は仲良くなりたいんだろう。わかってるから怒んなって。素直になれよ」
「なっ、ちがっ!……怒ってねえし!」
顔を真っ赤にして言い返す。
そんな二人のやり取りに、思わず笑いそうになる。
——賑やかで、面白い。
「フィーネ、こっち」
後ろから声をかけられる。
ルーカスに腕を引かれ、二人から少し離れた。
「あいつらに付き合ってたら大変だから」
自然な動作で、隣に引き寄せられる。
「ほっといても買うだろうし」
ちらりと視線を向けて、わずかに笑った。
「うん……」
並んで自転車を見ていると、視界の端で、動くものを捉えた。
店の入り口付近の通りに、空から、人が降り立つ。
思わず、そちらを見る。
「……エルンストさん」
黒い外套に身を包んだ姿が、扉をくぐる。
いつも通り、隙のない佇まい。
その存在感に、店の空気がわずかに静まった。
客たちも、レオンたちも、自然と視線を向ける。
「あの人、もしかして……」
レオンが眉を寄せて呟く。
「どうかしたのか?」
ルーカスがエルンストに聞いた。
エルンストは私たちに視線を向けて、静かに言う。
「ルーカス、フィーネ。時間をもらえるか。話がある」
私はルーカスと顔を見合わせる。
——何か、あったのだろうか。
周囲には、人がいる。
おそらく、研究に関係する話だ。ここでできる内容ではない。
断る理由も、特には思い当たらなかった。
「行くか」
「……うん」
短く頷く。
エルンストは、それ以上何も言わず、踵を返した。
そのまま、店の外へ向かう。
少し遅れて、私たちも歩き出す。
ちらりと振り返ると——
レオンたちが、こちらを見ていた。
さっきまでの軽い空気とは違う、探るような視線。
「悪い、ちょっと外す」
ルーカスが軽く言う。
「は?」
レオンが眉を寄せる。
「急にどこ行くんだよ」
「用事ができた。自転車はちゃんと買えよ」
軽く手を振る。
レオンは一瞬、言い返しかけて——やめた。
何も言わず、ただこちらを見る。
その視線を背に受けながら、私たちは店の外へ出た。




