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綺羅五芒星  作者: 床擦れ
自軫之章至井之章

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井之章「孟章は来援したり、泰山の区園を探る」 二話

──どのようにうごけば

 などとかんがえられるほど、いま状況じょうきょうこのましくない。

 すく陵光りょうこうらのまえ数多あまた警察ジンチャや、特殊とくしゅよろいらしき装束しょうぞくまとっているものる。

 こうはこうなりに、本意ほんいとして逐捕ちくほせんとしているのだ。それでもうごかないのは、三柱みはしら西方せいほうおおまわりをしたからかもしれない。

 陵光りょうこうおのれみぎを、ひとみだけうごかしてた。

 ほんの一瞬いつしゅんである。その一瞬いつしゅんでは路面ろめんと、前面ぜんめんおなじようにめている警察ジンチャくらいしかわからなかった。

 ただそれしかえなかったのなら、監兵かんぺいらはうしろにひかえているということだろう。

 陵光りょうこう丹田たんでん使つかって、肺腑はいふいきした。

 ちかくには怒号どごうる。陵光りょうこうらはうごいていない。だが警察ジンチャらかられば、そのかぎりの認識にんしきではい。

 執明しゅうめいチェうえで、加特林机ジャトゥリンチーたずさえているのか。その姿すがたも、相手あいて刺戟しげきしていないか。そうかんがえるのなら陵光りょうこう大桿刀だいかんとうしているのも、威嚇いかくちかいのだろう。すくなくともここまでおおきな得物えものは、三柱みはしら以外いがいっていないのである。

 陵光りょうこうてのひらひらいて、大桿刀だいかんとうなりいた。

 そしてすこしずつ、警察ジンチャへと近寄ちかよっていく。

 あるく、というかんじでもかった。

 陵光りょうこう背後はいごに、すこしくらいだのをかんっていた。たぶん監兵かんぺいあたりがいきみだしたのだ。

 かこんでいる者共ものどもおなじらしい。陵光りょうこう異物いぶつとしてにらが、さきよりもつよくなっていた。

 それでいとおもっている。つかまりたいわけではいし、無用むよう警戒けいかいをさせないことが先決せんけつなのだ。そのすじたがえないかぎりは、陵光りょうこうだけでも対処たいしょしきれる。

 陵光りょうこうこしくつし、ゆうかたった。

南方なんぽう朱雀すざく神君しんくん陵光りょうこうもうします。鳳凰ほうおうにしててん祭禮さいれいひもとあらわ大壇だいだんあらわしたるに天效地宜てんこうちぎ畢々ひつひつならして鐘鼓しょうこ笙笛しょうてき塤磬けんけい琴瑟きんしつらをらし──」

 呪文じゅもんように、おのれてんつかえている職務しょくむ次々つぎつぎとなはじめた。

 単純たんじゅん自己紹介じこしょうかいではい。知識ちしき駆使くしして、相手あいて判断はんだんにぶらせるのである。

 だますというのは普段ふだん陵光りょうこうにとって不愉快ふゆかいうちであった。だが文吏ぶんりというくくりとしてうのならば、当然とうぜんごとけている技能ぎのうでもある。

 千文万言せんぶんまんげん滔々とうとうながし、言葉ことばかえさせない。次第しだい眼前がんぜんしゅうがっていった。

──このままけば

 そうかんがえた陵光りょうこうつぎに、かおやわらかいみをあらわした。思考しこうにぶったところ今度こんどうやうやしくして、信頼しんらいじょうける。そしておのれらの言葉ことば思惑おもわくとおやすくするのだ。

 陵光りょうこうはなけている警察ジンチャとのあいだには、数丈すうじょうる。

 一対一いちたいいちじた空間くうあんならば近付ちかづいてるのもかった。だがひらけていて、尚且なおか多数たすうかこまれているのなら、なおしてかねようこえ堂々どうどう演説えんぜつすべきであった。なるべくおおくのものに、陵光りょうこうこえかせておくのである。

 まわりは陵光りょうこうこえを、注意深ちゅういぶかいているらしい。陵光りょうこう言葉ことばいんんだときに、かすかにからだらすものてきていた。

 陵光りょうこう言葉ことばえらこと得意とくいである。祝詞しゅくしをいう役目やくめおおい。こえはつ俯瞰ふかんしつつ

──余計よけいことはするな

と、うしろに監兵かんぺい執明しゅうめいねんじていた。

 騒々そうぞうしさはついえている。

 いまなら平気へいきだろうか。かんがみた陵光りょうこうは、二足にそくばかりまえすすめた。

 すこまった。また数足すうそくすすんだ。間近まぢかにまですすんだときであった。

 おおきなこえがあった。

 陵光りょうこうは、こえほうから何者なにものかがけてくるとはわかっていた。ここまでしておきながら今更いまさらくずわけにもいかないと、無抵抗むていこうえらんでいた。

「やめろ!」

 監兵かんぺいが、ってきたものしかりながらばした。陵光りょうこうはかったとおりにはならなかったのだ。

 かかえていたものがくずれたとって、陵光りょうこうはすぐさまきびすかえした。

監兵かんぺいい!」

 陵光りょうこう號声ごうせいげた。

 監兵かんぺいはすぐさま、そのかたまった。大桿刀だいかんとうあらわしながら、陵光りょうこう監兵かんぺい仕草しぐさにらんだ。

 なにもつばしたのか。からだあしか、鉤爪かぎつめ使つかっていたなら、たぶんってきたもの寸断すんだんされていたはずだ。ばされたからだに、られたあとい。

 観察かんさつするうちいくらかたままれたが、陵光りょうこう大桿刀だいかんとう水車みずぐるままわしてけている。

 うしろにがったから、執明しゅうめいとはすこしやりりができるようになっていた。

監兵かんぺい徒手としゅでしたか!」

 それぞれの位置いちからって、もっと俯瞰ふかんできていたのは執明しゅうめいであった。監兵かんぺい鉤爪かぎつめあらわしたままではなかったか、と陵光りょうこういたつもりである。

ほかよ」

 執明しゅうめい静観せいかんしているらしい。加特林机ジャトゥリンチー包囲ほういけているだけである。監兵かんぺいかこまれているが、陵光りょうこうこえもあってかまわりへとしてはいない。

 すこしずつかこみがちいさくなっている。監兵かんぺいとどきかけていた。

ってまいる」

 陵光りょうこうみじか執明しゅうめいげた。執明しゅうめいなにわなかったが、かまわずに陵光りょうこう監兵かんぺいかこみからだつせんとするためかった。

 大桿刀だいかんとうなが使つかって、まわりの者共ものどもなしていく。けんではできなかった芸当げいとうであった。うんかったともおもっていた。

監兵かんぺい!」

 陵光りょうこう監兵かんぺいつかんだ。強引ごういんせてこしかかえると、執明しゅうめいちかくに退いた。

 監兵かんぺい虎頭とらがしら装飾そうしょくこしらえた、丁字状ていじじょうこんにぎられている。あのときは、これでばしていたのだろう。

よし

 陵光りょうこうくちからおもわずれた。まわりの様相ようそういまいちどうかがって、そんなことをっていられないと自省じせいした。

 陵光りょうこうはそのままかえりみた。

──やまげるか

 そのようはかっている。

 西宁シーニイときごとく、火焔かえんかべようはなっておとりにする。そのまえ丁淩ディンリンそとさねばならない。

 陵光りょうこう舌打したうちをした。

 執明しゅうめい牽制けんせい程度ていどならしているが、直接ちょくせつ相手あいててないようはらっている。監兵かんぺいもあまり、たたかいにとうじられる気配けはいではい。陵光りょうこうおのれでやらねばならないらしいのだ。

 意気いきめたばかりであった。

 へいわめこえこえる。こえ方角ほうがくらすと、青々あおあおとしたつる包囲ほういんでいる様子ようすえた。

 真実しんじつか、と陵光りょうこうにはおもえた。あきらかにひとのやることではかったし、陵光りょうこうあたまなかなにかがつながっている。

 つるもとである。

 隆々りゅうりゅうたる一丈いちじょう二尺にしゃく碧緑へきりょく毛髪もうはつ鬚髯しゅせんたかく、つのいた頭飾あたまかざり。それが猛烈もうれつに、こちらへけていた。

 間合まあいをわったとき警察けいさつらがってきたチェ片手かたてける。

「おらあ!」

 巨躯きょく軽々かるがるチェばした。五丈ごじょうばかりを滞空たいくうし、だれない場所ばしょへと落下らっかする。

 ばしたいきおいままに、逆側ぎゃくがわうでなぐけられた。そこからあらたにつる樹木じゅもく茂々ぼうぼうさかった。

「おい!」

わかった!」

 陵光りょうこうは己にけられたこえこたえて、なかこしかしている丁淩ディンリンチェなかからした。

 乱暴らんぼうではあったが、気遣きづかいをする状況じょうきょうでもい。

 執明しゅうめいにも使つかって、やまはいるとつたえた。うなずかれ、足並あしなみをそろえた。

 陵光りょうこう巨躯きょくけ、おのれっている呼称こしょうわせて言葉ことばえた。

孟章もうしょううしろはたのむ!」

「おし義兄弟きょうだいまかせろ! とっととけ!」

 陵光りょうこうかかえていた監兵かんぺいろし、わりに丁淩ディンリン背負せおった。このまま孟章もうしょううしろをまかせて、山中さんちゅうへとかくまわれにかうのだ。

 うしろから步枪ブーチアンおとひびいてくるが、孟章もうしょうしょうじた草木そうぼくはばまれているらしい。

 陵光りょうこうらはけ、一里いちりもしないうち孟章もうしょう歩幅ほはばわせてきた。

「そのおとこせや」

 孟章もうしょうは、陵光りょうこうへとあごけている。陵光りょうこうはすぐにあしめて、孟章もうしょうへと丁淩ディンリンわたした。

人々ひとびと無事ぶじか」

 陵光りょうこう丁淩ディンリンかたわたときに、おなじくして孟章もうしょうへといた。

にすんな。派手はでにしただけだ」

チェげていただろう」

だれねえのをえらんでんだよ。げる場所ばしょえらんだ」

 そういながら孟章もうしょうは、双肩そうけん丁淩ディンリンからだけさせた。

 そののち陵光りょうこう孟章もうしょうは、たがいに歩幅ほはば見合みあいながら、さきすすんでいた執明しゅうめい監兵かんぺいへといていった。

 六里ろくりばかりはしって、みちかれていないような山林さんりんなか四柱よはしらあしとどめた。

 やっと、みなかお見合みあわせるすきができた。丁淩ディンリンささえ、腰下こしおろさせた孟章もうしょう開口一番かいこういちばん

「てめえら、なにやったんだ」

と、とした口調くちょうけてきた。

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