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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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井之章「孟章は来援したり、泰山の区園を探る」 一話

 まえた。みちふさがれていない。

 うしろをた。何乗なんじょうかのチェが、陵光りょうこうらのチェよこけようとしている。

 济南チーナンから泰山タイシャンかえばひだり山肌やまはだり、それをあおぎながら南行なんこうをしていく。

 みちも、にならないほど緩慢かんまんがりの連続れんぞくであった。ゆえ丁淩ディンリンは、まわ一般いつぱんくらべて猛然もうぜんとした速度そくどチェはしらせている。

 それでもけない。

 追手おってチェぎょには手練てだれているらしく、一筋縄ひとずじなわではいかないとさつするところであった。

 柴油チャイヨウのこりをしめはりを、陵光りょうこうた。市街しがいつづいたこともあって、西海镇シーハイジェンから吕梁ルーリャン辿たどったときくらべれば余裕よゆうがある。

 これならば一息ひといきはしつづけていても、息切いきぎれしないかもしれない。

げるばかりだとならばれますな」

 陵光りょうこうちた。執明しゅうめいかってである。

 すこしばかり陵光りょうこうかんがえていたのは、この追手おってたいせるのは執明しゅうめい兵器へいきのみであろう、ということだった。

 陵光りょうこう監兵かんぺい使つかうようなけん鉤爪かぎつめは、追手おってとどめるという意味いみえばかない。

 執明しゅうめいしずかだった。しずかなままで步枪ブーチアンあらわした。

 六尺ろくしゃくばかりのながさ、つえのような形状けいじょうがややもがりひろがって、杠杆グアンガンなる護拳ごけんのようなつくりと懸刀けんとうる。つえ一端いつたんつつさきからたまたれていたのだろう。陵光りょうこうおのれ装備そうび敏感びんかんになったぶん、そういう観察かんさつはかどっていた。

 加特林机ジャトゥリンチーあらわさないのは、このでは相応ふさわしくないからなのだ。巨大きょだいすぎるし、過剰かじょうである。

 執明しゅうめい步枪ブーチアンつつさきを、ねらいをさだめるためチェそとへとほうしている。

 そうして執明しゅうめい目立めだっているうちに、陵光りょうこう反対側はんたいがわまどけた。監兵かんぺいおのれねばならなくなったときに、すぐられるようにするためだった。

い?」

 執明しゅうめい步枪ブーチアンかまえたまま、言葉ことばだけで確認かくにんをしてきた。

よろしい。車輪しゃりんを──」

わかってる」

 執明しゅうめいはやりりをえた途端とたん一発いつぱつたまはなった。步枪ブーチアンおとではい、つよ破裂音はれつおんそとからこえた。

 陵光りょうこう監兵かんぺいわせた。

監兵かんぺい、こっちにい」

「えっ」

やすいだろう」

 監兵かんぺい反応はんのうまないうちに、陵光りょうこうはそのうでつかんでまどそばへと監兵かんぺいうつした。しぜん執明しゅうめいとなりうごいた陵光りょうこうは、執明しゅうめいわきからそとうかがった。

 えた追手おってチェ五乗ごじょう監兵かんぺいとやりりしているうちにも二乗にじょうチェ車輪しゃりんを、執明しゅうめいいていた。各々おのおの一輪いちりんずつを使つかえなくしている。

二輪にりんとさぬのですか」

 陵光りょうこういぶかしんだことを、執明しゅうめいへといた。

「え?」

 執明しゅうめいはしを、すこしだけ陵光りょうこうけた。陵光りょうこうかおえて意図いとさつしたのか、執明しゅうめい鼻哂びしんしながらそとなおした。

わからないの?」

かずすくないほういのでは」

文吏ぶんりっぽいわね──完全かんぜんとどめないほういわよ」

「はあ」

けそうだとおもわせれば、いちばん消耗しょうもうさせられる。無理むりをしてもらうの」

 車輪しゃりんをまたひとつ、執明しゅうめいいた。

 陵光りょうこう言葉ことばった。納得なっとくできないもした。同時どうじに、将帥しょうすいたるとはこういうことなのだろうと肯諾こうだくできもした。

 執明しゅうめいなか判断はんだんとは、文吏ぶんりらしいかだけではがしたのだ。げんめないといつつも、追手おってチェ步枪ブーチャンけているのが証左しょうさである。

──このままなら、あまりくちすべきではないか

 陵光りょうこうかえりみた。監兵かんぺいこしからうえを、まどそとかわすようかたむけている。

 監兵かんぺいひだりひじを、陵光りょうこういた。まだくな、とつたえるためである。監兵かんぺいからかえされたちからつよい。

 それでもかせぬ、とするわりに陵光りょうこう監兵かんぺい

何乗なんじょうる。かぞえろ」

とだけ、指示しじをした。

 監兵かんぺいうごいているらしい。はぐれたか。

「たぶん、

か。突飛とつぴことをしてこないかぎりはえろ」

 もしかしたら、執明しゅうめいっているような步枪ブーチアン使つかわれるかもしれない。

 陵光りょうこうは、西宁シーニイひと步枪ブーチアンかぬとわかっている。監兵かんぺい同様どうようであろうとおもっている。執明しゅうめいたれるまえ対処たいしょできよう。ただ、丁淩ディンリン如何いかんとなるか。つつのようなものけられたときには監兵かんぺいひじはなそうと、陵光りょうこうおもっている。

 チェうなりをませず、左右さゆうやまひらけるあたりにまですすんだ。

 いままでの山隘さんあいみちから、また市街しがいべるところはいっている。いままでの、ただ交通こうつうためだけにったようなみちが、街衢がいくらしいまががりくねったみちへとわっていった。

 ぐは進めない。はやくもなれない。左右さゆうし、都度つどまりかけ、丁淩ディンリンぎょ仕方しかたはげしくなった。

 そして市街しがいはいった途端とたん追手おってえたようであった。このへいやら警察ジンチャという者共ものども加勢かせいしているのだろうとはわかった。

 面倒事めんどうごとである。泰山タイシャンには用事ようじがある。孟章もうしょうさがすこともそうだし、青海湖チンハイフー出会であった孰湖じゅくこという山神さんしんからわれた五岳ごがくかみにも、たし泰山タイシャンふくまれているとおぼえていた。

 すこし、監兵かんぺいひじゆるんだ。いかんとおもって、すぐにつかみなおした。

駄目だめね──」

 執明しゅうめい応戦おうせんつづけているが、ついにそのようなことはじめている。

 薄々うすうす陵光りょうこうもそのとおりであろうとかんじてきている。

「どこでりましょう。ひろところいともおもいます」

 陵光りょうこう言葉ことばはつした。ちがう、という仕草しぐさ執明しゅうめいからされた。

せまほういわね。せっかくやまる」

 ならばやまかげたよれということであろうとかいして、陵光りょうこう見開みひいてあたりをたしかめた。

──純然じゅんぜん市街しがいではないか

 そのようにしかおもわない。街衢がいく整備せいびされきっていて、くらますなどできそうにい。

 出来得できうるとすれば、やまそのものをたよるべきではないか。陵光りょうこうにとっては当然とうぜん帰結きけつであった。

やまへ」

かせる」

 執明しゅうめいは、陵光りょうこう言葉ことばさえぎってみじかこたえた。陵光りょうこうかんがえとおなじであったらしい。

 執明しゅうめい丁淩ディンリンへと言葉ことばけた。淡々たんたん相槌あいづちった丁淩ディンリンは、やまけてチェぎょった。

 まわりの追手おってかないものない。んでいたかのよう追走ついそうしてくる。

 そもそも相手あいてる。そのなかろうなどとは無謀むぼうにもちかい。そうかんがえるのならば、何所どこまで扞拒かんきょするかを陵光りょうこうおぼえておかねばならなかった。

 もう完全かんぜん非暴力ひぼうりょくというわけにもいかないし、かといって虐意ぎゃくいったやりかたもいけない。それを判断はんだんするのに監兵かんぺい無慮むりょであり、執明しゅうめい冷徹れいてつぎた。丁淩ディンリンは、そもそも判断はんだんできるたぐいものであろうか。

 陵光りょうこうかんがえにかんがえて、いつのにかやま眼前がんぜんった。嗚呼ああうなった。

 三柱みはしらって丁淩ディンリンチェなかいたまま、あしけた。

 執明しゅうめいるなり、螺旋らせんする機構きこうったおおきな器械きかい両腕りょううでげている。たまをばらために、加特林机ジャトゥリンチーえたのだ。

 監兵かんぺい何時いつ使つかっている、白金はくきん五刃ごじんけられた鉤爪かぎつめ手甲てっこうあらわしている。

 もう退しりぞけない。陵光りょうこうけんあらわそうとしたが、おもしたのもる。おのれ役割やくわりたのもある。両手もろて大桿刀だいかんとうした八尺はちしゃく兵器へいきあらわし、いしづきとした。

 どこまでろうかともおもった。

 警察ジンチャらがチェりて、陵光りょうこうらにおおきくいている。いくらかの警察ジンチャは、すでふところからちいさな步枪ブーチアンしてかまえをっている。

 赫怒かくどしているのかもしれず、畏懼いくるのかもしれなかった。そこまでは、ているだけではわからない。ここまでされれば、陵光りょうこうはなお不安ふあんになった。

監兵かんぺいころしだけはするな」

 陵光りょうこう監兵かんぺいへとけた。

 うそだろう、という監兵かんぺいからけられたもしている。それでも一番いちばん確固かっことしなければならぬところだと、陵光りょうこうめていた。

 監兵かんぺいが、警察ジンチャがわへともどった。

 両者りょうしゃとも、相手あいてそばへはめない。先陣せんじんるならおのれであろうと、陵光りょうこう覚悟かくごしていた。

 大桿刀だいかんとうさき相手あいてけないようにした。けた瞬間しゅんかんあだになる。

 うごきをなければならないから、監兵かんぺい執明しゅうめいかま余裕よゆうい。丁淩ディンリン背後はいごからおそわれるのもる。

 警察ジンチャ何人なんにんかがひざらしていた。練度れんどたかはそのような体勢たいせい仕草しぐさもしない。

 ならば練度れんどたかくない。なおさらづらい。陵光りょうこうはまだしも、もしも監兵かんぺいんだときにはけるだけの力量りきりょうが、相手あいてるとはおもえなかった。

 なんとか光明こうみょう見出みいだすまで、うごいてはならないのだ。

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