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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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鬼之章「危に東を指すを画し、泰山下に窿を望む」 四話

 陵光りょうこうけんさきげ、弾雨だんう方向ほうこうへとくびまわした。

余所見よそみしない!」

 そういうこえである。くさおとおおわれているが、執明しゅうめいであるとった。

 われたことただしい。いま仕草しぐさ数多あまたかいへとすきさらしているではないか。陵光りょうこうもととおりに正対せいたいして、けんかまえももどげた。

 かげかるいが杵突きねつくような跫音あしおと

 陵光りょうこう姿勢しせいえなかった。馴染なじんでいる跫音あしおとなのだ。

 監兵かんぺいである。あお枝葉しようやぶおとらして、がるように姿すがたあらわしている。

 あらわれると同時どうじ馬怪ばかい二三にさん鉤爪かぎつめいた。かいたおれるおとが、つち湿しめっぽくひびく。

何故なぜた」

 陵光りょうこう監兵かんぺい横顔よこがおに、ふとけた。

「ん?」

何故なぜれた、とったほういか」

においだよ!」

 監兵かんぺいはそういうところでもはなくらしい。問答もんどうえるなり、けてきた馬怪ばかいをまた一匹いつぴきころしていた。

執明しゅうめい殿どのは」

しげみのなか。それでわかるでしょって」

 陵光りょうこうがえんじた。ならばおのれしめしておくべきはしぼられている。

監兵かんぺい馬怪ばかいしょしろ。わたしぎゅうなりたいする」

「うん。みずのにおいだもん」

 監兵かんぺい承諾しょうだくしてすぐに、れてける馬怪ばかい正面しょうめんとした。

「ここはやれ」

 陵光りょうこう言葉ことばせきって、監兵かんぺい驀進ばくしんしている。まわりのみきすら利用りようしながら、わせない跳躍ちょうやくかえ馬怪ばかいせていった。

 あっというかいかずっていく。ながに、陵光りょうこう牛怪ぎゅうかいへとんだ。

 弾雨だんうんでいた。さき位置いち執明しゅうめいるのかともおもったが、そうともかぎらない。まずはうごく。うごきながらすきませるのである。

 さきはじばされたのもある。だから大仰おおぎょうにはまない。

 牛怪ぎゅうかいもうでありながらているのに、陵光りょうこういていた。だからおのれよりも執明しゅうめいに、痛撃つうげきまかせるべきだと思っている。

 まわりをけつつ、動作どうさ俯瞰ふかんする。つのるようであればもぐり、られそうになればひるがえした。

 うごきが単調たんちょうになったとおもえば、すぐにかえして牛怪ぎゅうかい惑乱わくらんさそいもした。かわおもてわずかにり、陵光りょうこうから注意ちゅういらさせないようにもした。

 あしけんたない。まず疲弊ひへいさせるのだ。

「ねえ!」

 監兵かんぺい陵光りょうこう視界しかいそとこえげている。

 もう馬怪ばかい仕留しとったのだろうが、そこがやはり戦神せんじんらしかった。おそらくは背後はいごで、牛怪ぎゅうかいへとねらいをさだめている。

 陵光りょうこうけることしかできていないが、むしろ無言むごんであったのが監兵かんぺいとどめていた。いくさへい従順じゅうじゅんであるぶんらぬうごきをせぬというのもいくさいたものらしくある。

 それでかった。牛怪ぎゅうかいにはるから、監兵かんぺいにはされたくない。

 弾雨だんうがまたはじめた。今度こんどさき場所ばしょよりもすこひくきから飛来ひらいしている。

 陵光りょうこう弾雨だんうおのれとのあいだ牛怪ぎゅうかい巨躯きょくはさんだ。

 もうよわいままにしておく必要ひつようい。けんとおりを一振ひとふりごとにふかくしていった。ほねたるほどくとも、血漿けつしょうるようになった。

 執明しゅうめいはなっているたまは、らばるように牛怪ぎゅうかいどうおそっている。

──仕留しとろうとしていない

 陵光りょうこうさつした。急所きゅうしょへとねらいをさだめていない。ただ、玩弄がんろうしたいわけではかろうともおもった。

 んだ。そのままたまんでくるほうへと着地ちゃくちした。

 牛怪ぎゅうかい陵光りょうこうって、よこまわしている。

 そのすきいた。

 すべるように牛怪ぎゅうかいまたあいだへ、陵光りょうこうもぐらせる。けてけるまでに、四足しそくうちからけんけた。

 しりかまえをなおしたころには、牛怪ぎゅうかいからだくずちていた。

──これでいのだろう

 陵光りょうこうねんじていた。

 執明しゅうめい準備じゅんびととのうまで、下手へたとどめをさなかったのだ。だから陵光りょうこう決定打けつていだもよおせる状況じょうきょうむまで、はぐらかすこと終始しゅうししたのだろう。

 ひくくしたまま、陵光りょうこう執明しゅうめいった。たまんできていた一点いつてん睹詰みつめている。

 かぜしゅう、とった。

 撃発げきはつひとつのたま牛怪ぎゅうかいけてぶ。

 ひたいとらえた。それでもなお牛怪ぎゅうかいこうべれなかった。

 二発にはつ三発さんはつんだ箇所かしょつらなるようにんでくる。そのたび牛怪ぎゅうかい精気せいきうしなっていった。

 そして発目はつめに、つい牛怪ぎゅうかいたおれた。

 あんがいながかった、と陵光りょうこうおもった。

 あたりがしずかになってから、しげみのなかより執明しゅうめい姿すがたあらわれた。牛怪ぎゅうかい仕留しとめたときよりも、位置いちわっていた。

たすかりました」

素直すなおね?」

 れいつたえれば、またこうなる。やはり陵光りょうこうにとって、やりづら相手あいてわりない。

「それよりも──」

 執明しゅうめいが、すこしだけけわしくなったがした。

どもがたのよ。陵光りょうこう?」

とどまっていましたか」

何故なぜ

かいさらわれ、ここまで。ゆえに」

 執明しゅうめい()()()、という音交おとまじりの鼻息はないきいている。そして、かおしげみのなかへとけていた。そのあたりにさき幼子おさなごかくれているのかもしれない。

陵光りょうこう。ひとつっておくけど」

如何様いかようにも」

じょうなにまないわよ? まえにもったでしょ?」

じょうではく、であります」

あたりを鳥瞰ちょうかんなさい。幼子おさなごひとりのために、ここまでやる必要ひつようはあった?」

 執明しゅうめいはわざとらしく、くび左右さゆうっている。

 かえりみろ、ということである。けているではないかと、ややも糾弾きゅうだんろう。

──賤奴せんど

 陵光りょうこう胸裡きょうりに、些細ささい罵詈ばりしょうじた。

 んだ。礼節れいせつひつである。汚辱おじょくげん口舌こうぜつ使つかえば、心身しんしんまみれるのだ。

 わぬ、と執明しゅうめい眄視べんしした。このときばかりは眉間みけんしわはしっているといていた。

 執明しゅうめいもまた、陵光りょうこう態度たいどうかがっているらしい。いつものようないとが、さらほそくなっていた。

 陵光りょうこううでみ、執明しゅうめいへとくちだけうごかした。

「それで」

「──いなさい?」

幼子おさなごはどうなりましたか」

 陵光りょうこうはそううことで昂奮こうふんおさえた。睥睨へいげいしたままである。

 執明しゅうめいも、口角こうかくすこげた。

ひたいきずがあるだけ。ちゃんとうごける」

「ならば、それが一番いちばんい。やまりましょう」

「そうしましょうか。監兵かんぺいちゃん?」

 執明しゅうめいこえに、監兵かんえぴするど反応はんのうしたらしい。ころもれるおとかすかにこえた。

「なに! おねえちゃん!」

かえるわよ」

「うん!」

 返事へんじをした監兵かんぺいが、小走こばしりでってくる。

 陵光りょうこうそばつなり、したから顔窺かおうかがいをして、ほんのわずかにだまっていた。

兄々にいにい?」

監兵かんぺいくぞ。泰山タイシャンまではまだとおい」

「うん。さっきの元気げんきだよ」

 陵光りょうこうしたくと、監兵かんぺいまゆはちえがいていた。

 やっと心気しんきけたようおもいが、陵光りょうこうにはする。

 おのれいきどおりをあらわにしぎたのだろうし、監兵かんぺい気遣きづかいをさせたのだとすれば冷静れいせいにならざるをなかった。

 てい苦心くしんさせる未熟みじゅくさとは、一体いつたいなになのか。しかし心気しんきいたのは、その義理ぎりだけではもする。

 陵光りょうこう監兵かんぺい肩元かたもとを、うしろからかるたたいた。それを合図あいずに、監兵かんぺいあるはじめる。

──つくづく此奴こいつ

 そうおもったときには、はらえるようかんじはせていた。

 丁淩ディンリンっている。チェ躯体くたいもたれて、いわゆる香烟シャンエンという紙筒かみづつくわえてけむり棚引たなびかせていた。

 そこそこったはずであろう。それなのにチェうちたないあたり、前々まえまえから陵光りょうこうかんじていたことだが矢鱈やたら律儀りちぎおとこである。

回来了(huílái le)

(ǹg)、都《dōu》弄完(nòng wán)(le)?」

都办(dōu bàn)完了(wánliǎo)走吧(zǒu ba)

 執明しゅうめいき、合図あいずおくっていた。陵光りょうこうさき監兵かんぺいかせた。

 さき幼子おさなごは、まちもどったおりおんなへとわたした。再開さいかいときっていたから、たぶん親子おやこだったのかもしれない。てんではあまりない光景こうけいだったともおもう。

 そのとき監兵かんぺい陵光りょうこうよこったが、執明しゅうめいやまからかいってないかたしかかめるからといてなかった。かい気配けはい皆無かいむだったのだから、本当ほんとうはそのようなことはしなくてかった。

 それでもとどまったのは、執明しゅうめい将帥しょうすいとしての部分ぶぶんたからだろう、と陵光りょうこう理解りかいしていた。

 もうひぐれいろである。

 三柱みはしらチェんだのをてから、丁淩ディンリンぎょせきすわった。

 仕組しくみがこり、ひくおとはじめる。

 泰山タイシャンまではあと、千七百せんななひゃくはあるという。

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