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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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星之章「西山随に蕩遊、山神居るに幽幽」 五話

 監兵かんぺいまと白金しろがねよろいは、かいかげおおわれてくらいろとなっていた。

 しかし瑠璃色るりいろだけは、とてもけくひかってえる。おもえばたたか監兵かんぺい真正面ましょうめんからるというのは、陵光りょうこうにとってはじめてのことである。

「いぃっ!」

 監兵かんぺい歯噛はがんだうなりがこえた。瞬間しゅんかん陵光りょうこう間近まぢかにまで監兵かんぺいんでいた。

 監兵かんぺいあらわされた鉤爪かぎつめけつつ、陵光りょうこうこしうでかかえ、あまったいきおいをおさえた。

とおんない!」

 監兵かんぺいのたまっている。

 陵光りょうこう監兵かんぺいからだかかえたまま、羽怪うかい睹続みつづけていた。たしかに、あのびにくらべれば、羽怪うかい体勢たいせいくずれていない。

監兵かんぺい

「なん!?」

まえげるぞ」

 陵光りょうこう返答へんとうたず監兵かんぺいからだまえに、羽怪うかいあたまへとかってげた。

 からだひるがえしつつ、監兵かんぺい羽怪うかいねらいをさだめている。

 さけこえともに、鉤爪かぎつめ羽怪うかいかおいた。

 陵光りょうこうから、視線しせんがずれた。いたみのほうへといたのだ。

 ならばと陵光りょうこうは、けんさき直下ちょくかけた。おもみのままにまかせて羽怪うかい柔毛やわげったへと、きにかった。

 陵光りょうこうせいもつ赤熱せきねつしたやいばせば、まわりのちいさなおとげた。そのにおいがすこし、はなはいる。なまぐささがじっていた。

 羽怪うかいさけぶ。ひと)のけたたましいこえである。

 ちるか、とおもった。ちずに、羽怪うかいじった。

 けんけ、陵光りょうこうばされる。ばされながらえた羽怪うかいは、くずれた体勢たいせいなおし、つばさをまたひろげていた。

 陵光りょうこう衝撃しょうげきはしる。

にい──」

るな!」

 ちただけなのだ。この程度ていどなら、陵光りょうこうには然程さほど痛手いたでい。そして監兵かんぺいが、羽怪うかいいてはならない。

 監兵かんぺいこえくびけた。うと、あごこうへけとしめした。

 監兵かんぺいとおざかっていく。

 がった陵光りょうこうちからめて、けん一丈いちじょうばかりの火焔かえんためかせた。れる朱黄しゅおう羽怪うかいくだろう。

 羽怪うかいいろつよくなったか。

 陵光りょうこう羽怪うかいへの睹視としを、広範こうはんへの眺望ちょうぼうえた。

──執明しゅうめい殿どの何処どこ

 もしもくろれば、あかるいみどりなかだからわかりやすいはずだった。ちかくの山肌やまはだあるいはほそみずればとも思った。

 ひとみだけを陵光りょうこううごかす。

 右前方みぎぜんほうなめされたごと玄色くろいろ紫紺しこん光沢こうたく

 陵光りょうこうんだ。羽怪うかい目掛めがけた。かぶって、本当ほんとう両断りょうだんするつもりであった。

 空高そらたかところ羽怪うかいつばさ陵光りょうこう視界しかいおおわれたときみず精気せいきこうがわつどっているとわかった。

 執明しゅうめいはなった水弾すいだんが、次々つぎつぎ飛来ひらいしているのだ。

 陵光りょうこうった。羽怪うかいもだえた。途端とたん急襲きゅうしゅうが、余程よほど痛烈つうれつであったか。羽毛うもうらし、かたえて、ついにはこられずにせわしなくつばさ羽搏はばたかせている。

 陵光りょうこうはもう一撃いちげきまくのような水弾すいだんけながらたたけた。

 羽怪うかいかおきをげていく。そのにもしつこく、執明しゅうめいはな水弾すいだんっていた。羽怪うかい一里いちりはなれるまで、執明しゅうめいめはつづいていた。

 水弾すいだんみ、いささときった。やっとはなれていた執明しゅうめいが、陵光りょうこう監兵かんぺいもともどってきた。

「おつかれ」

 執明しゅうめいねぎらいいの言葉ことばくちにした。

のががしましたが──」

いのよ、陵光りょうこう。あれをつのは、本命ほんめいじゃないもの」

 そういながらも執明しゅうめいは、羽怪うかいげた方角ほうがくへといている。本命ほんめいではいとしながら、もしかしたら心残こころのこりがるのだろう。

大陽だいようでした」

 陵光りょうこうあし位置いちえようとした執明しゅうめいに、おのれ所感しょかんつたえた。

「ええ。かんでもこすんじゃない?」

まえにも監兵かんぺいと、そういうかいいどみました」

「へえ。おんなじ?」

じゃです。これはぎゃくに、みずでした」

面白おもしろいわね?」

 執明しゅうめい陵光りょうこうを、したからのぞきにている。陵光りょうこうらしてからかんがえた。

 みずつよんでしまうからこそのかんようつよみずころすからこそのかんたしかに執明しゅうめいとおり、面白おもしろいとえば面白おもしろいのだろう。

 だが陵光りょうこうにとっては、歓迎かんげいするものではい。擾乱じょうらん数多あまたとなれば、処理しょりもできないのだ。

 陵光りょうこうせた。また山神さんしんさがさねばと決心けつしんするのに、すこときがした。

「ああ、監兵かんぺい──」

 監兵かんぺい会話かいわはいってていない。なにっているのだと、もどそうとした。

 げた。そして絶句ぜつくした。

 あたまうまからだつばさへび奇妙きみょう白光びゃっこうはなけものが、監兵かんぺいげている。おとすらく、気付きづけなかった。

 陵光りょうこうあわてて、ふたたかまえた。

「あって、たすけてくれたのに今度こんどおそかおぬしら」

 奇獣きじゅう陵光りょうこうらへ、言葉ことばまくてている。

らぬ。はなさんか」

おこるなあかいの。さっき設々せつせつはらってくれたじゃろ──」

設々せつせつなどとはらん。監兵かんぺいはなせとっている」

可愛かわいいものはげるのがいつくしみというものじゃろが!」

 一頻ひとしきって、双方そうほうだまった。

 執明しゅうめいはたぶん、見物けんぶつんでいる。しずかなうちに、陵光りょうこうつぎ文言もんごんらねばならなかった。

「──は」

 陵光りょうこう奇獣きじゅうへとけた。

あかいのは名乗なのらんのか──わしは、そうさな。まあ孰湖じゅくこべば間違まちがいない」

 やっといたという様子ようすで、孰湖じゅくこ名乗なのった奇獣きじゅう監兵かんぺいおろした。そのままこえらしつつ四肢ししって、している。

「さっきはすまんな」

 孰湖じゅくこまゆはちにしてあやまっている。

 陵光りょうこうこまったと、執明しゅうめいた。

 執明しゅうめいかえして、安心あんしんしてもいだろうという余裕よゆうかまえている。

 陵光りょうこうると、くさんで孰湖じゅくこへと近付ちかづく。ある程度ていどまでっていきなり、孰湖じゅくこかつ叱正しつせいげた。

「そこ」

 孰湖じゅくこいながら、あごなにかをしている。陵光りょうこうはそのあごうごきにしたがって、足元あしもとた。

 ちいさな花弁かべんの、紺色こんいろはないている。

いつくしめ」

 孰湖じゅくこひくこえのままに、陵光りょうこうはなけた。

「それでし」

 孰湖じゅくこ眼前がんぜんでそうわれたとき陵光りょうこうはじめて緊張きんちょうからかれたがした。

 つまり孰湖じゅくこは、そういうかく相手あいてではないか。陵光りょうこうだけでなく、すこあいだけていた執明しゅうめい監兵かんぺいも、おなじくかんじていそうだった。

「まあ、ほら。はなそうや」

 孰湖じゅくこはもう、表情ひょうじょうやわららかくしている。

 しかし陵光りょうこうれいしつしてはならないと、けんほどき、拝礼はいれいかたってから端座たんざして、はじめてわせた。執明しゅうめい礼儀作法れいぎさほうにはれている。監兵かんぺいだけがそうではい。

 どうしようかとなや部分ぶぶんであったが、孰湖じゅくこからにするなとげられたおかげで、にする必要ひつようくなった。

「おぬしら、まあひとではいな」

 三柱みはしらへのいである。

「はい。如何いかにも」

 れいにはさと陵光りょうこうが、孰湖じゅくこへのこたやくへとまわっていた。

「だが、土地神とちがみたぐいでもいな。てんか?」

たしかに」

めずしいことだ」

 ふつうてんからは、相互そうご伝達でんたつするためとりくらいしかないのだという。最近さいきんとりていなかったが、それをおぎなうのにも陵光りょうこう三柱みはしらは、つかいとして仰々ぎょうぎょうぎると孰湖じゅくこった。

ちてまいりました」

 陵光りょうこう孰湖じゅくこうたがいをらすべく、正直しょうじきった。

 孰湖じゅくこゆがんだ。

ちた? はあ──」

てん大乱たいらんしております。異形いぎょういたのです、ゆえ我々われわれてんかえりたいとも」

大変たいへんなものよ」

まことに。孰湖じゅくこ殿どのかくたっといとお見受みうけします。不躾ぶしつけではありますが、なに手立てだてを御存ごぞんじではありませぬか」

 陵光りょうこうからわれた孰湖じゅくこは、余所よそとおた。つばさすこひらき、かぜでさせもした。

「まあ」

本当ほんとうですか」

 明確めいかくこたえられてもいないのに、陵光りょうこうひざててした。

 そのいきおいを、孰湖じゅくこせいした。

て。彼奴きゃつらにもるが、というはなしだ。お主ら、五岳ごがくっておるか」

「ああ、それは」

 陵光りょうこうすこよどんだ。

すうたいこうこう。よね?」

 うしろの執明しゅうめいこえとして、すかさずんだ。

 そうである、と孰湖じゅくこ目容もくようおくっている。

「そこをもうでて、わしおなじような山神さんしんにでもえ。それくらいしかえんな」

たしかですか」

「まあ──どうかな」

 今度こんど孰湖じゅくこよどはじめた。どうにもらない部分ぶぶんがあると、かおいてある。

不確ふたしかだと」

わし、つまり孰湖じゅくこというかみ素直すなおほうだと、そうおもっておけ」

「おきしても?」

いま姿すがたあらわ甲斐かいい。この言葉ことばこたええよ」

 陵光りょうこういぶかしんだ。孰湖じゅくこには威厳いげんも、慈悲じひるようにおもう。そういうかみ姿すがたあらわ甲斐かいいとは、どういう解釈かいしゃくをすればいのか。

慈悲じひも、威厳いげんりますれば。ひとたっとぶのでは」

「さて、通用つうようするかな」

 孰湖じゅくこおおきく、溜息ためいきいている。

えずけ。あと、いておらなんだ」

わたし陵光りょうこうみぎ監兵かんぺいひだり執明しゅうめい

「ああそうか。さきったいつくしめとは、ちゃんとまもれ。な」

 わった孰湖じゅくこ()()()()からだげ、どうせならとかえりの案内あんないもうた。

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