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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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星之章「西山随に蕩遊、山神居るに幽幽」 三話

兄々にいにい、これ!」

 監兵かんぺいあらたな衣服いふくを、陵光りょうこう披露ひろうしてくる。さきかんじたとおからだくらべておおぎるから、肩口かたぐちあられてしまっていた。

 陵光りょうこう()()て、すぐにチェすすほうもどした。

めてあげたら?」

 執明しゅうめいすすめてきたが、それにこたえるのは陵光りょうこう領分りょうぶんちがう。

意図いとわかりません。もうすこし、まともなころもえらべませんでしたか」

「これが一番いちばんいとおもったの。監兵かんぺいっちゃいからだえるでしょ?」

衣帯いたいびんせば、精神せいしんみだれるものです」

おびまれば、いきができなくなる」

 そうでしょう、というかおをされた。われた陵光りょうこう馬鹿々々ばかばかしくなって、もうこのことについてははなすまいとめた。

 衣服いふくあがなってから一刻いちこくばかり。チェ山間さんかんすすんでいる。

 左右さゆうみどりである。いまぞはそとほうが、かろうともおもう。

 じっさい監兵かんぺいこられずにチェまどけ、かぜうちんでいた。ぎょおとこかぜに、すこらしているようである。少々しょうしょう鼻歌はなうたこえてきた。

 執明しゅうめいだまっていた。陵光りょうこう顳顬こめかみ肘杖ひじづえきながら、いままでにきそびれたことうた。

山神さんしんおとなうよしなんです」

てんかえりたいんでしょ」

 執明しゅうめいこたえはそのような、ごく簡素かんそなものであった。

 あと自分じぶんかんがえろ、ということなのだろう。それともわるくせであるのか。

 陵光りょうこう顳顬こめかみこぶしてたままである。瞑目めいもくした途端とたん

──かみことかみにしかわからんのだ

ということだと、おもいたった。

ちるのはやすいですが、のぼるのは苦労くろうしますね」

 ふとそんなうそぶきも、陵光りょうこうくちからはた。

「──そうね」

 執明しゅうめいは、またも簡素かんそ返事へんじをした。

 また一昼夜いちちゅうや武山(Wǔshān)なるとどまった。

 汉中ハンチョンから何処いずこか、と陵光りょうこう執明しゅうめいたずねると、だいたい千里せんりばかりだとかえってきた。

 だいぶさまちがう。いままでは深緑しんりょくであったはずが、黄土おうどわっていた。

「またチェまりますか」

「そうね──本当ほんとうは、宿やど使つかいたいけど」

支障ししょうると」

所在しょざいしめものいと、使つかえない」

 护照フージャオとか、身份证シェンフェンチュンとかうのがそうであるらしい。护照フージャオ外地人がいちじん身分みぶんを、身份证シェンフェンチュン内地人ないちじん身分みぶんあらわあかしであるという。

「でもほら。私達わたしたちってちがうじゃない?」

 執明しゅうめいけにった。

「なれば執明しゅうめい殿どのは、どうされたのです」

 手机ショウチーもある。成都チェンドゥ雨瓔ユーインというられていたことからすれば、多少たしょう目立めだっている。だが執明しゅうめい身分みぶん不自由ふじゆうしているようにはえなかった。その疑問ぎもん陵光りょうこうしたのである。

 執明しゅうめいあごで、ぎょおとこ指差ゆびさした。

かれがやった。なんとかしてね~、って」

「まさか偽装ぎそうなされたか」

 執明しゅうめい片眉かたまゆげている。

 この態度たいどに、陵光りょうこう苛立いらだった。文官ぶんかんであるから、公文書こうぶんしょ捏造ねつぞうがどれほどのものかっているのもある。すくなくとも陵光りょうこう常識じょうしきいてはきわめておもい。

仕方しかたないじゃない」

仕方しかたないとは。こういて大罪たいざいです、おわすれか?」

わすれてい。げん陵光りょうこうたちは、わたしのおかげたすかってるでしょ? もしつくってなかったら。今頃いまごろどうしてた?」

 執明しゅうめいおのれした黒子ほくろでながらかたった。仕草しぐさからして、陵光りょうこうためしている。

 流石さすがおのれわるそうだと、陵光りょうこうさつしはした。

「そうですか、そうでしょう。たしかに」

 はらったのをおさえながらこたえた。

 執明しゅうめいかすかにんでいる。

「じゃ。そういうことで──」

 はなしげた執明しゅうめいは、夜陰やいんなかでどこかへあるいていった。

 たしか、チェめたところちかくにかわるという。それをながめにったのだと、陵光りょうこうはかった。かわを、渭河ウェイフーう。

 明朝みょうちょうあかつきである。

 あかひかり黄土おうどねると、ややも赤銅しゃくどう錯覚さっかくする。あるいは黄金おうごんか。

 ひかりつよなかを、陵光りょうこうらをせたチェ西行せいこうした。

 ここからはすこし、きたれるのだと執明しゅうめいっている。ぎょおとこ同意どういしているらしい。つぎからは黄河ホアンフー、そして湟水ホアンシュイ目途めどにするという。

雨瓔(yǔ yīng)我会(wǒ huì)休息(xiūxí)一下(yīxià)

为啥(wèi shá)?」

()头疼(tóuténg)……」

 おとこ執明しゅうめいはなっている。となりにいる陵光りょうこうはすぐに、おとこなに不調ふちょうなのだとおもった。

 会話かいわあとあき気味きみいきいた執明しゅうめいから、陵光りょうこうこえ近付ちかづけてきた。

かれあたまいたいらしいの。やすむけど──」

やすむべきです」

 陵光りょうこう即答そくとうした。おのれおとこあいだ無言むごんぎたと、反省はんせいする気分きぶんもあった。

 道端みちばたざつチェめて、おとこおのれすわっていたぎょ椅子いすたおし、よこになっている。

 監兵かんぺい脇目わきめらず、チェからしていた。何日なんにちすわってばかりできたのだろう。ひとまず、あまりとおくにったら成都チェンドゥまよったくだんおなじになると、陵光りょうこうくぎしておいた。

「ふうん──」

なんです、執明しゅうめい殿どの

やさしくなったわねぇ」

 揶揄からかいがじっていた。陵光りょうこう執明しゅうめいに、視線しせんおくった。

「──監兵かんぺいいでしょう。それより」

「なに」

おとこについてもおしえていただきたい。誰何すいかもせずに信用しんようしきれません」

 そうはったがじつは、陵光りょうこう言葉ことばうそである。なにかとえば、おとこへの同情どうじょうがあった。

わたしもちいている。っていうのは、しにならない?」

「なりません。せめてを」

 執明しゅうめい()()()()としつづけている。だがたてひらいたとはわかった。

丁淩ディンリンかれ名前なまえ

やくは」

「まあ、胡散臭うさんくさ猿回さるまわしってかんじ? これでい?」

 陵光りょうこうチェなかひそかにた。執明しゅうめいげんだけをくと悪人あくにんのようだが、たしてここまでぎょものが、そんなにあくどいのか。

──まあ

 と、陵光りょうこう執明しゅうめいもどした。

丁淩ディンリン殿どの──道程どうていかんがえれば、これからながいのでしょう。っておかねば」

「ま、そうね」

 執明しゅうめい素気そっけい。ないがしろにしているのか、えてそうしているのか。陵光りょうこうにはまだ、推察すいさつもできなかった。

 けっきょく如何いかほどか。

 おとこ、つまり丁淩ディンリン恢復かいふくするまでには一昼夜いちちゅうやけた。ようやからだうごかしても、少々しょうしょうかろうという程度ていどにはなったらしい。陵光りょうこうらは万全ばんぜんのままであったが、やはりひととは不便ふべん部分ぶぶんおおいという。

 またチェはしした。北行ほくこう幾何いくばくふたたびだいたい五百ごひゃくあたりで、また西にしへのみちはいった。

 緑葉りょくよう依然いぜんとしてすくない。日数にちすうだけさんぜば、もうなつちかかろうとおもう。しかしはだたるかぜ似付につかわしくない。もっとくとつち黄色きいろから、あかくなったりもした。これならば地宜ちぎちがうのだ。

 みちよこに、かわとおはじめている。

かわなにですか」

 陵光りょうこう執明しゅうめいへ、かる確認かくにんした。

湟水ホアンシュイ

 このかわみなもとかってすすめば、徐々じょじょ目的もくてき近付ちかづいていくという。そして、それすらもえて西海镇シーハイジェンなるまでは、チェくという。

「そこまでで、かれとどまる。私達わたしたちだけでやまはいるから」

丁淩ディンリン殿どの無事ぶじでいられますか」

私達わたしたちほうが、あぶないとおもうけど?」

 わかっていることすべおしえない。勿体振もつたいぶるなといたいが、これも執明しゅうめいのやりかたなのだろう。

 それならつぎうべきは、西海镇シーハイジェンからどのように、どのやまはいるかではなかろうか。

哈尔盖河ハルガイフ、でしたか。如何いかに」

あるく。二百にひゃくから三百さんひゃく

「そのかんは」

なにい。でも──ひとには注意ちゅういかな?」

ひとにですか。あまいたことはありませんが」

 執明しゅうめいげん意外いがいである、と陵光りょうこうおもった。

 これまで、陵光りょうこうにとってひととはうやうやしいたぐいであった。けていたのはさわぎをこすやからであるが、そういう者共ものども幾分いくぶん些少さしょうであったという記憶きおくしかない。

 そのひとという存在そんざいに、怜悧れいりでもある執明しゅうめいを付けろとったのだ。ならば、あまりかるくない。

「あのあたり、そういう気風きふうなのよ。それだけおぼえておいて?」

 どういうことかと陵光りょうこうかんがえた。

 てんえれば化外けがい、ということなのだろうか。それもちがいそうだと、執明しゅうめいかおおもう。化外けがい程度ていどならば、執明しゅうめい数多あまた経験けいけんしたはずなのだ。つまりはもうすこし、かたはなしでありそうだった。

えなければわかりません。いてからかんがえます」

「それがいわよ? じゃ、よろしく」

 執明しゅうめい椅子いすもたれて、つぎ気分きぶんうずかせている監兵かんぺいへとはなし相手あいてうつした。

 のち数日すうじつ西海镇シーハイジェンである。

 丁淩ディンリンかお蒼白そうはくとしている。陵光りょうこうはそのてのひらてて、すこぬくめていた。

うべきがれば、ってください」

 言語げんごつうずるかはいておいて、誠意せいいとして丁淩ディンリンつたえもした。

はやくしなさい」

 執明しゅうめい監兵かんぺいは、すでそとている。

 陵光りょうこう今暫いましばらくとしめして、丁淩ディンリン看病かんびょうつづけた。

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