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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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翼之章「陵光は監兵と会い、重慶の市に誠を站む」 三話

 陵光りょうこうかんたよって、重庆チョンチンなか长江(Chángjiāng)沿いをさぐっていた。ろうならまちはずれ、长寿(Chángshòu)涪陵(Fúlíng)というぎていくと、そこから東側ひがしがわやまがちになっていく。

 かわていると、やはりみずすくななかった。やまはいったおりには、すこしばかりようつよくなったともかんじる。

──かんというやつか

 陵光りょうこうかんがえた。なつという大陽だいようせつる。そのふしようつよまりすぎると、陰物いんぶつみずようたれてしまう。それがこってるのなら、じつ大事おおごとである。

 陵光りょうこう記憶きおくあらためるに、かんというのはいわく、女魃じょばつかかわことがある。女魃じょばつ黄帝こうていむすめで、青衣せいい神女しんじょである。だがてんのぼれずちたままなのだ。もしも女魃じょばつ相手あいてであれば、監兵かんぺいたいしてよりもわずらわせよう。

 やまはいればひとりであって、なににもたよらずにうごかねばならない。おもえばいままで、ためされてばかりいる。てんかえれず、いま土地とち右往左往うおうさおうするだけの存在そんざいになりるのだ。

 げ、やまながめれば、わったかえしている。

 陵光りょうこうしばらく、このなからすのであって、見据みすえたことためにもうとんではならない。おのれてんすくうという大義たいぎを、ひとまずはわすれることにした。

 山中さんちゅう百里ひゃくり。それだけの距離きょりった。稜線りょうせんあとつぎみねいただき目指めざして、それを辿たどっていく。木々きぎ密集みっしゅうしているのをると、孟章もうしょうよろこびそうだともおもった。かわるなら、執明しゅうめいこのだろうか。

 山林さんりんすすめばすすむほど、ひとという気配けはいくなっていく。ったとしても田圃でんぽほとんどで、種々しゅしゅ屋宇おくうまばらになっていた。

 陵光りょうこう道中どうちゅうやすもうとおもえば草木そうぼく手折たおってやし、おのれ精気せいきへとえた。まわりはまだ陽気ようきつよいから、火精かせいはすんなりとまれていく。これができるのなら、完璧かんぺきとまではかないまでもちからたくわえられそうだった。

──なにこるかもからない

 えだえながらおもった。つくづく、さがちがうことをしているのだ。本当ほんとう監兵かんぺいのようなものまえにいて、陵光りょうこううしろにひかえて大局たいきょくていくのが役割やくわりのはずだ。そうでなければつくえくのがつねである。

 不自由ふじゆうきわまりない。それでも自戒じかい自律じりつをするのだ。

 陵光りょうこうはじめてよろいいた。のせいか、すこしきつくかんじていた。

 上裸じょうらとなり、かみかざり腕釧わんせんはずし、腰布こしぬの敷物しきものにした。いま袴褶こしゅう足甲そくこうだけである。これ以外いがいまとものいから、すこらくになった。

 横臥おうがはしない。せいぜい胡坐こざくぐらいが、陵光りょうこうにとってもっとやすらいだ。

 臍下ぜいかめるように、しずかにいきをしてみた。

 やまかぜく。こういうけるかぜには陰気いんきるが、それはむしばものというより調和ちょうわもたらものだった。そして調和ちょうわすこ破綻はたんしたとおもえば、なにかがこったときである。

 陵光りょうこう瞑目めいもくしていたが、かぜらいだとさつした。陽気ようき陰気いんきまさっている。これは大抵たいていらんというよりさいであろう。かん根本こんほんうごいたのだろうか。

 がり、手早てばやいたよろいたぐいまといなおして、気配けはい方向ほうこうへとかった。

 ざわめきがし、多々たた禽獣きんじゅうこえこだましている。みきれるおとも、方々ほうぼうる。

 さいもと巨大きょだいらしい。勘付かんづいた陵光りょうこうけんあらわして、山中さんちゅうすすんだ。視界しかいわるいから、稚拙てせつ手出てだしだけはけるともおのれめいじていた。

 ひらけたところれば、混乱こんらんした羽怪うかいまわっている。かいおそれるかいなのだろう。

 五里ごりほどをすすなかで、陵光りょうこう羽怪うかいなしながらすすんだ。すすほどかずおおくなり、よう気配けはいすごとにしゅわっているようであった。最初さいしょはらける程度ていどであったが、いまけん一羽いちわずつっている。それだけかいつよいものが巣食すくっていよう、という景色けしきである。

 すこしずつ、あしまった。陵光りょうこう数羽すうわ羽怪うかい相手取あいてどっている。気配けはいをした赤黒せきこくちいさな羽怪うかいと、いろあざやかなあかあお羽怪うかいとである。とくせきこく羽怪うかいは、よくればふたつのくびつのあしっていた。

 羽怪うかいみだれて、陵光りょうこうをもかたきとしているらしい。

 一羽いちわ赤黒せきこく羽怪うかいが、つばさひろげたままくちばししにた。陵光りょうこうけんよこった。おなつといえども、陵光りょうこうにとっては端下はしたである。それにもかかわらず双方そうほう羽怪うかいは、かたまり陵光りょうこうがいそうとしてきた。

 正面しょうめんからんでくる羽怪うかいを、二十にじゅうあまりつづけている。かずすくなくなったとるや、陵光りょうこうけんつづけながら、へとへんじた。

 陵光りょうこう多少たしょうなら、飛行ひこうができはじめていた。を、やすむごとにからだれたこといてきている。

 たかく、とどかない位置いちにまでんだ。おおきなざわめきを見付みつけてから、ねらいをさだめてちからめ、くうだいにしてんだ。

 一瞬いっしゅんうちに、半里はんりばかりを陵光りょうこうかげとおる。着地ちゃくちすると、まわりに火円かえんができた。

 ふかいきう。陵光りょうこう肺腑はいふはいる。陵光りょうこう毛髪もうはつすこひかったが、まだてんころには程遠ほどとい。

 前方ぜんぽう巨大きょだいられている。その異様いよう陽気ようきびていた。

──これか

 陵光りょうこうげた方向ほうこうから獣怪じゅうかい一頭いっとう両断りょうだんした。これも、異様いよう風体ふうていであった。

 陵光りょうこうけんたずさえたまま、やま深奥しんおうあしれた。

 あとあとが、わだちのようになっている。一両いちりょうくるまとおりそうなほどで、わきにはほそくさられていた。みきがあれば、あいだけて()()()がある。

 わだちをよくた。なか足跡あしあとかった。みずちたぐいではないかと、陵光りょうこう推測すいそくした。

 土地とち山林さんりん依拠いきょするかいであれば、陵光りょうこうだけでもなんとかなる。もしも长江(Chángjiāng)ぞくした水怪すいかいたぐいであるならあぶない。

 刹那せつななやんだ。まわりを見渡みわたした。陵光りょうこうだけである。

 みずければひときられないとうのなら、かなければ仕方しかたい。

 わだち辿たどった。

 斜面しゃめん急峻きゅうしゅんになった。そういうところにまで、陵光りょうこういたった。わだちいそいだものではなく、何本なんほんもがかさなるようになっていた。

 何度なんどとおるからこうなる。ならばっているかいは、ちかくに馴染なじみがるにちがいない。

 陵光ようこう斜面しゃめんた。かげが、せんえがいているととらえた。

 はしり、やま斜面しゃめんのぼってく。かくれていたかいからだが、すこしずつあらわになる。蛇虺じゃきぞくうには異様いようだった。

 へびどうほそあし三対さんついびきっていないつばさ二対についうろこわからず、あし使つかうよりもへびごとったほうらくうごいていた。くろいが、すこしろい。

 陵光りょうこうのぼ精気せいき陽炎かげろうようになっているのを、かん根拠こんきょとした。この蛇怪じゃかいなになのかもわからないまま、けん一振ひとふりだけでりにかった。

 蛇怪じゃかいも、陵光りょうこうつよ気配けはいおぼえているらしい。

 陵光りょうこうかってくちひたいた。

 陵光りょうこうそらんでかわした。もういちどんで、すきのできた蛇怪じゃかいかお一撃いちげきれた。

 鼻梁びりょうったらしい。けんててもう一撃いちげきおもったが、そのまえ蛇怪じゃかいあたまって、陵光りょうこうとした。

 足場あしばととのわない。陵光りょうこう背中せなかから、しげみにちた。

 すこ木蔭こかげになっている。蛇怪じゃかい姿すがたにくくなった。おと気配けはいたよりにして、った。

──ぶか

 陵光りょうこうあしちかられた。んでうえ俯瞰ふかんできる位置いち陵光りょうこうひだりから気配けはいかんじた。

 る、鼻頭はながしらか、いや、だった。うしろからいきと、ほねきしおとる。くうんでけようとした。それよりもはやく、蛇怪じゃかい陵光りょうこうとらえた。

 まれた。けん使つかって片側かたがわこばんでも、他方たほうからんでくる。ただのきばく、みずうるんでいるようでもあった。

 次第しだい精気せいきうしなった。このままではわれる。

 そうはなるまいと、陵光りょうこうおのれへの喝入かついれにこえげた。けんってよわそうなきば一本いっぽん摧折さいせつした。

 蛇怪じゃかいもだえている。かんんでいたあごひらくと、そのまま陵光りょうこう落下らっかした。

 げていく蛇怪じゃかい姿すがたながら、陵光りょうこうからだこした。

 おこそうにも、おこせない。どうやらさきまれたうるんだきばが、陵光りょうこうみずむしばませたらしい。

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