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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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翼之章「陵光は監兵と会い、重慶の市に誠を站む」 二話

 陵光りょうこうしそうになった。

──監兵かんぺいなにかんがえている

 薄衣うすぎぬまとって客人きゃくじん接待せったいするのは、てんいてはのすることなのだ。それも儀式ぎしきさいしてするのであって、このように市井しせいなに気無きなしに、しかも武神ぶしんつとめるようなことではい。はっきりえば、かくちる行為こういである。

 ただ、監兵かんぺいかばれている老女ろうじょが、おんなるようなものにもえない。

 監兵かんぺい保護ほごしなければならないというかんがえと、おのれ見方みかたあやまりではいかといううたがいとで、陵光りょうこう躊躇ちゅうちょした。

 とにかく、間違まちがえてはいけない。陵光りょうこう理屈りくつりかざすよりも、まず昨日きのうつながりで言葉ことばわすべきだとはんじた。

 くりや間口まぐちである。

老女ろうじょ殿どの

 陵光りょうこうこえげると、おくけてくるものがいた。老女ろうじょではなく、なべっているいたおとこ厨子ちゅうしである。

老婆(lǎopó)是客人(shì kèrén)!」

 そのこえこたえて、おくから老女ろうじょてきた。そして陵光りょうこう姿すがた見付みつけるなり、表情ひょうじょうはれれやかにしている。

 四脚よんきゃく椅子いすが、陵光りょうこうされた。

 すわれということだ。陵光りょうこうも、そうせぬわけにはいかない。

要不要(yào bùyào)什么(shénme)(ya)?」

 陵光りょうこうまえで、老女ろうじょはにこやかにはなしかけてくる。

 なにかをもとめられているのだろうとおもって、陵光りょうこうてのひらかざしてやわらかくこばんだ。

这样(zhèyàng)(a)

 老女ろうじょおくって、またもどってきた。には昨日きのうおなじように、かみ記具きぐたれている。

 瞥見べっけんすれば、監兵かんぺい客人きゃくじんとやりりをしているらしい。

 監兵かんぺいは、この言葉ことばはなせるのか、と陵光りょうこういた。

 ほんの簡単かんたんなことなら、と老女ろうじょかえした。

 監兵かんぺいなにをしているのか、と陵光りょうこうけば、老女ろうじょみせ手伝てつだいをしてもらっているのだとかえした。

 陵光りょうこうすこしばかり安堵あんどした。

 老女ろうじょ筆致ひっちまよいはえない。監兵かんぺい女妓じょぎになったのではいと、こころとなえることができたのだ。

 しかし、このままでは監兵かんぺいてんかえらせることができない。てんなかでももっとつよい、武神ぶしん一柱ひとはしらなのだ。

 いまたたかつづけているだろう白虎びゃっこも、どうおもうのか。陵光りょうこうには監兵かんぺい目付めつやくとしても、せねばならないことがある。

你有(ニイユウ)心事(シンジ)()?」

 老女ろうじょかみしるした。なにかをときには、この語尾ごびおおい。

──かかえていることでもあるのか

 という意図いとが、文字もじからはかれる。

 陵光りょうこううなずいた。みじか

監兵かんぺい

れると老女ろうじょも、そうだろう、と納得なっとくせていた。

 老女ろうじょつぎいたぶんには、いえという文字もじがあった。かえるべきところかえってしいというのは、老女ろうじょおなじらしい。だが表情ひょうじょうるに、そう簡単かんたんえそうにいとも、承知しょうちしているようである。

 おなるい陵光りょうこうたよられている。その陵光りょうこうこばまれたのは、老女ろうじょのぞんでいないのだろうか。

何故なぜでしょうか」

 陵光りょうこう溜息ためいきじりにちた。

 老女ろうじょなが時間じかん会話かいわっていたせいか、陵光りょうこう顔貌がんぼうさとくなっているようだった。

()好好(hǎohǎo)想想(xiǎngxiǎng)(ya)

 やわらかくった老女ろうじょは、厨子ちゅうしけでつとめへもどっていった。

 陵光りょうこう会話かいわえたあとすこ重庆チョンチン市街しがいめぐることにした。かんがえをまとめるためというより、あたりの地勢ちせいておきたかったのだ。

──監兵かんぺいことときかるな

 そうかんがえた陵光りょうこうが、土地慣とちなれしていないことでこり支障ししょうのぞきたかった、という思惑おもわくもある。

 おおきなかわながれている。えているものよりも、この分断ぶんだんされているようにかんじた。かわながれているというよりは、うねっている。まわりにやまおおいのも、ここまでの道程どうていわかっていた。

 こういうかいあらわれたら、混乱こんらんおおきいのだろう。まわりに精気せいきちやすく、ものおおい。いまところ監兵かんぺいおさえているのだろうが、それだけではまなくもなりよう。

 重庆チョンチン一口ひとくちっても、なかなかにひろかった。すべてを観察かんさつしながらまわるには、それだけで何日なんにちかる。

 陵光りょうこうよるになって、老女ろうじょいとなみせからはなれたところ宿やどした。あまり目立めだたぬよう、しげみをえらんで、かげかくれている。

 まわりがくらく、ほしやすい。昨日きのう客星きゃくせいが、今日きょうおなじようにかがやいている。一様いちようひかるのではなく、明滅めいめつしているのが不穏ふおんおもえた。

 あかるくなるのをってから、陵光りょうこうふたたうごはじめた。えず監兵かんぺいのことはわすれて、ることに集中しゅうちゅうする。そうめた。

 陵光りょうこう宿やどしたちかくには、こうきしへとはしわたされている。陵光りょうこうはそのはしわたって、みなみへと五十ごじゅうほどをすすんだ。するとまた、おなじほどのはしかっている。

 どうにもべつかわではなくて、おなかわおおきく弯行わんこうしてたっているらしい。ながめてみると、ながれのさきちがう川が、それもよりおおきなかわそそいでいるようであった。まわりでいたんでみると、このかわ长江(Chángjiāng)ぶらしい。

 陵光りょうこうになった。川幅かわはばおおきいことはわかる。だがはばくらべて、みずすくないもする。これほどのおおきさならば天河てんがのように、もっと揺蕩たゆたっていそうなものであった。

 そういえば、あめるのか。あめるのなら、かわへはそそがれないのか。

 陵光りょうこう思惟しゆいしてみたが、不自然ふしぜんだと思えば、その事象じしょうかいとのかかわりもうたがってしまう。

 心中しんちゅう昂奮こうふんが、これまででのこりすぎているのか。

 陵光りょうこうものしかりとあたまとどめて、ほかところ見回みまわることにした。ちょうど川沿かわぞいにけば、まようこともすくない。

 ながれを辿たどり、方々ほうぼう見物けんぶつし、だいたいの重庆チョンチン様相ようそう理解りかいするのに十日とおかかった。あまりすすみすぎないように、いま非常ひじょうであるという気分きぶんで、あまりうごぎないようにしたのもある。

 重庆チョンチンとは中々なかなかよう気配けはいつよ場所ばしょだとわかった。さらにはみずおおくて、陵光りょうこうには快不快かいふかいじってもいる。よう暑気しょきみずあなどって、そうしているらしい。

 陵光りょうこうは、そろそろ土地とち視察しさつもよかろうと、監兵かんぺいくりやちかくへもどった。いたのは夕頃ゆうごろで、まえよりもひとおおえた。

 四輪車よんりんしゃおおい。これを在地ざいちものわせれば、チェうらしい。そういうおぼえた事柄ことがら反復はんぷくしながら、とおくからしばらく、監兵かんぺいうごきをていた。

 つくづくまえとはちがった。

──いかんな

 陵光りょうこう思考しこうとどめた。ここで、このとおりのままにしておけば、てんくずれる。いくら老女ろうじょやさしく監兵かんぺいなついていようとも、厳格げんかくにせねばならない。

 とはいっても、手薬煉てぐすねもできないのがいまなのだ。

 何日なんにちか、わりがきるまでとうかとおもった。無用むよううごくよりはがする。まわりのことすこしずつかっているのだから、あとはつしかない。

 陵光りょうこうまたいで、あさからばんまで監兵かんぺいうごきを見続みつづけた。監兵かんぺい要領ようりょういのだと、ずっとおもっていたことがあらわれている。老女ろうじょきゃくもとめたものかずつたえ、ほかはなとき愛想あいそかった。

 わらかおが、てんでのひらいたままのものではいとも、とおくからかった。あそこまでほそまるのだとは、陵光りょうこうはじめてった。

──いや、だいぶまえたことはあったか

 陵光りょうこう見張みはつづけた。何度なんど監兵かんぺいそとて、あらわれたかい討伐ちにかっていた。監兵かんぺいちからなら、ある程度ていどにもしないだろう。実際じっさい、あまりときけずにもどっていた。

 陵光りょうこう監兵かんぺいらのごしかたて、すこはなれるべきかもしれないとかんがえた。いまっても監兵かんぺい意固地いこじとなられるだけだろうし、なによりやすんじきっている。こうなると、なかなかうごかせない。

 しかし、重庆チョンチンにはとどまろうともおもっていた。陵光りょうこうには監兵かんぺいるかないか以外いがいにも、この心配事しんぱいごとができていた。

──やはり、长江(Chángjiāng)になる

 見回みまわりの十日とおかうちに、みずすくなくなっていたようにえた。監兵かんぺいうように、ひととは飲食いんしょくしなければならない存在そんざいであるなら、あのみずかわきは、じつ重篤じゅうとくではないか。

 陵光りょうこう監兵かんぺいあきらめたのではいし、あきらめてはいけない。

 それでもさきに、そちらを片付かたづけてみようとかんがえて、きをえた。

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