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綺羅五芒星  作者: 床擦れ


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軫之章「陵光土埃に起ち、人間に憔徊を始む」 五話

 おとこ機嫌きげんもどしているらしい。陵光りょうこう一杯いっぱいの、玻璃はりさかずきわたそうとしてきた。

「いえ、わたしみませんから」

 陵光りょうこうかざして、らなかった。はいっているのはさけのようだと、かんじたからである。酒精しゅせい前々まえまえからまない。

是吗(shì ma)──」

 おとこわたそうとしてきたさかずきくちけ、した。

 陵光りょうこう山中さんちゅう九尾きゅうびったあとはつしたせい影響えいきょうして、はやしきかけていた。在地ざいちものみなみずちこんでそうとしていたが、陵光りょうこうしょうじたむことで、すべしずめたのである。

 陵光りょうこうにとっては、おのれせいもどためにした。だがまわりには、そううつらなかった。

 結局けっきょく野次馬やじうまおおいせいでよるうちさわがれた。陵光りょうこうさきいになった、背幅せはばおおきいおとこれられて、目立めだたない場所ばしょ家屋かおくうちへとまれたのである。

 ではいらしい、しろあかりがいている。

 つくえり、手元てもとにはかみかれた。そしてふでらしき記具きぐる。おとこさつく、ほか用意よういさせたものだった。

 かみにはすでに、単純たんじゅんせんひとえがかれている。そしてうえかぶさるようにして、いぬえがかれていた。かれているから、どうにもさきった九尾きゅうびあらわしたらしい。

这家伙(zhè jiāhuo)吃了(chīle)一个人(yīgè rén)

 おとこてるようにっている。意味いみわからなくても、陵光りょうこう語気ごきから

──このものおそわれたのか

というくらいならわかった。

 そしてもうひとつ、おとこうには

对了(duìle)重庆(chóngqìng)似乎也(sìhū yě)有类(yǒu lèi)似的(sì de)(rén)你是(nǐ shì)朋友(péngyǒu)(ma)?」

ということらしい。

 ここまでの発話はつわになると、陵光りょうこうにはわからない。だがおとこ陵光りょうこう装具そうぐゆびさし、さらにかみへとひと姿すがたえがかれたことで、やっとつたわってきた。

 どうにもおなじような格好かっこうに、おもたりがるらしい。

何処どこですか」

 陵光りょうこういた。

 おとこまゆひらいている。にしても、どうにもつたえにくいことなのか。

 陵光りょうこう記具きぐろうとした。おとこ意図いとかっていた。

 ここまでわかはじめていることえば、発話はつわちがっても文字もじ似通にかよっている、ということである。だから陵光りょうこうも、文字もじ使つかえばなんとかなりそうだとおもはじめていた。

 ためしに、かみたいして

吾名わがなは陵光りょうこうなんぞ存乎ぞんすか

ということをいてみた。この程度ていどなら、あまり難儀なんぎしない文句もんくではないか。

 たしておとこは、なるほどな、というかおをしている。

你是(nǐ shì)──」

 おとこいかけて、それではちがうとおもったようである。陵光りょうこうした記具きぐで、おとこ文章ぶんしょうはじめた。

 いくらかのかれていく。その筆法ひっぽう陵光りょうこうとはまったちがうが、意味いみとおりそうだという気配けはいはした。

 わったかみされた。

重庆(ジュウ □)那边(ナ □)有人ユウジン坠落(□ ラク)

 と、かれている。陵光りょうこう一文字ひともじずつをゆびでなぞっていった。字形じけいちが部分ぶぶん多々たたあるから、そこはすこばした。

 つぎおとこせながらしめして、これはなにしめすのか、ということをたずねようとした。そしてわせたことで、それぞれがどのようなかたまり意図いとつのかを、徐々じょじょ確認かくにんした。

──重庆チョンチン那边ナビエンるは、ひと坠落チュイルオである

 そういった文脈ぶんみゃくで、おおよいようである。

 おとこった重庆チョンチンというは、おおきな手掛てがかりになるかもしれない。陵光りょうこうあせりもありながら、おのれりつして

請答なんぞにチョン何在チンのあるか重庆こたうをこう

という五字ごじを、おとこしめした。

 おとこ何処どこぞでたことのある、玻璃はりいたっているらしい。ゆびうごかしたあと陵光りょうこうせてきた。

 右側みぎがわ南川ナンチュアンしるされ、左側ひだりがわ重庆チョンチンしるされている。いままでの理解りかいただしいのなら、ひだり西にしのはずであった。

 場所ばしょわかるのなら、距離きょりいておきたい。陵光りょうこうはまたかみ

何里乎なんりか

いてつたえた。

 おとこらし、玻璃はりいたなにかをたしかめたあとすこうなずいて筆記ひっきはじめた。

「220

 おとこいたことである。だが陵光りょうこうには240という文字もじが、どのかずあらわしているのかをさつせない。ここで退しりぞいてはただしくれない。陵光りょうこうよこ

いちさん

という数字すうじそろえた。

 おとこ仕方しかたいという仕草しぐさ

二百にひゃく二十にじゅう

いた。

 二百二十にひゃくにじゅうか、と納得なっとくした陵光りょうこうは、おとこ謝意しゃいしめした。

「どうにか、なりそうです」

 言葉ことばつうじないとはわかっていたが、こえにはたましいるのだ。こればかりは文字もじたよらず、直接ちょくせつつたえたいことであった。

 おとこにその意図いとかったかどうか。素気そつけ返事へんじをして、この家屋かおくあるじらしいもの伝手つてけていた。

 陵光りょうこう会話かいわわったあとすきで、すこいぶかしんだ。

 いくかいったとはえ、おとこ行為こうい仁恤じんじゅつぎるのではないかと、おもいたったのである。おとこかいたぐいではいとはかんれるが、じゃいとはかぎらない。

 かみ一文いちぶんいて、おとこ近付ちかづく。

 陵光りょうこうおとこかたたたけば、おどろきながらかれた。

汝者なんじ如何いかんか吾庇哉われをかばうか

 おとこまえに、陵光りょうこうしめしている。

 不快ふかいなのかはわからないが、かなりしぶかおをされた。

(wèi)什么(shéme)()杀了(shāle)()吸入了(xīrùle)火焰(huǒyàn)也太(yě tài)奇怪(qíguài)了吧(le ba)搞得(gǎo dé)()反而(fǎn ér)没法(méi fǎ)怀疑了(huáiyíle)

 おとこったきり陵光りょうこうからかみうばり、なにかをいてからそとへとってしまった。

 陵光りょうこうあとけるべきかとおもったが、かみおとこの字で

黎明れいめい

いてあったあから、そのままっているべきなのだろうとかんがえた。

 るのははやい。どうにも陽気ようきつよいから、いまなつえるらしい。

 まだ完全かんぜんあかるくなっていないまちかど昨晩さくばんおとこまれた家屋かおくまえで、陵光りょうこうっていた。

 おとこた。四輪車よんりんしゃうごかして、ここまでたらしい。

 るか、と手招てまねきをされた。陵光りょうこうことわった。

 おとこ面白おもしろさそうだったが、陵光りょうこうからしても下手へた世話せわになるのは、いけないとおもっていた。

 溜息ためいきいたおとこ勝手かってにしろと、ゆびこうがわしている。みちれているが、そのさきにもつづいていそうだった。

重庆チョンチン?」

 陵光りょうこういたまま、地名ちめいおとこうた。

 おとこうなずいている。それとおなじくして、小瓶こびんらしき容器ようきはいったみずわたそうとしてきたが、陵光りょうこうことわった。

你想(nǐ xiǎng)死吗(sǐ ma)?」

 おとこ舌打したうちをしているが、陵光りょうこうみずらない。昨日きのうれたことで、活気かっきもどしたのだ。わざわざからだよわらせたくはなかった。

 陵光りょうこうおとこれいをした。それからされたほうへとはしはじめた。

 ちゃんとはしれる。これなら二百二十にひゃくにじゅうは、一日いちにちけるのではないか。かえってみると、とおざかったおとこ唖然あぜんとしていた。

 それから、二日ふつかのちである。

 陵光りょうこう重庆チョンチンうちた。南川ナンチュアンから重庆チョンチンまではしってみた陵光りょうこうには、いていたよりもあきらかに距離きょりながかんじた。本当ほんとう二百にひゃくろく七十ななじゅうであったとおもっている。

 それでも一日いちにちであった。陵光りょうこうはなんとなしにかくれつつ、いま重庆チョンチン市街しがいめぐってうわさ正体しょうたいつかもうとしている。

──こういうところに、わたしおなじようなのがるのか

 おおきなかわながれ、楼閣ろうかくかずおおい。おのれらに似合にあわない場所ばしょにもおもえたし、ちてたとするのならだれなのかと、空想くうそうもしている。

 ただうわさ二百里にひゃくりはしったのなら、そんなに目立めだたないこともいのではないか。陵光りょうこう見物けんぶつをするなり、他衆たしゅう様子ようすとおくからながら、興味きょうみけているだろう場所ばしょたりをけていった。

 辿たどっていくと、すこきたた。ちかくには大囿だいゆうがあるのか、するどつばさとりらしきものが、頻繁ひんぱんんでいる。これまでとは気風きふうちがところらしい。

「んん」

 陵光りょうこううなった。左右さゆうわかるほどすがものい。

 すこもどろうか。陵光りょうこうきびすかえしかけると、そばはやし異変いへんがあった。

 こえ蹄音ていおんひしめいている。

 れたとおもうと、ちぢおおわれた長尾ちょうびけもの噴出ふんしゅつした。数十すうじゅうという規模きぼである。

 四輪車よんりんしゃれば、それをばしてもいる。無害むがいそうにえたが、ここまでになるとぎょさねばならない。

 陵光りょうこうけんって、相対あいたいした。

 かい気配けはいはあるがよわい。十餘じゅうあまりり、元凶げんきょうるといけないと、まわりへの警戒けいかいすこのこしていた。

 陵光りょうこうはまだ、ゆるめはしていなかった。

てい!」

 うしろから、こえこえてくる。おぼえもある。

──まさか、監兵かんぺい

 陵光りょうこうったけんいて、こえいた。

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