閑話2 実家の没落
アインが強制イベントによって全てを失い、絶望の雨の中で泥水に這いつくばっていた、まさにその頃。
彼をかつて追放した実家、グランツ家には、唐突な『破滅』が訪れていた。
「な、なんだと……!? 領地の水質悪化に衛生環境の崩壊、さらに屋敷の維持費が何十倍にも跳ね上がっただと!? 挙句、過去の隠し財産や不正の証拠までボロボロと明るみに出ただと!?」
エントランスホールに父親の驚愕の声が響き渡る。報告書を受け取った母親も、顔面を蒼白にして震えていた。
「嘘でしょう!? いつもならあの子の【洗濯】スキルで、屋敷の害魔気も汚れも、領地の水も全部キレイに浄化されていて、余計な費用なんて1セルもかからなかったはずじゃない……! まさか、あの【洗濯】はただの家事スキルではなく、環境や場そのものを完璧に浄化・最適化する神スキルだったというの……!?」
そこへ、王城からの監査官と騎士たちが、屋敷の扉を乱暴に開け放って雪崩れ込んできた。
「グランツ家当主! 領民の衛生を放置して領地を荒廃させ、さらには維持費に困窮して露呈した過去の不正な資金操作の罪により、当家を取り潰しとする!」
「なっ……なぜだ! アインハルトの【洗濯】さえあれば、領地の環境も家計も完璧に保たれていたのに……!」
アインという「広範囲の環境浄化とコスト削減を支えていた影の立役者」を失った瞬間、それまで覆い隠されていた両親の無能さと過去の不正が、隠す術もなく一気に白日の下に晒されたのだ。
本来ならば、世間体を何より気にする両親だ。
「でっち上げだ!」と見苦しく言い訳を並べ立てるのが自然なはずだった。だが、彼らは突如として床に膝から崩れ落ち、頭を抱えて大声で叫んだ。
「おおおお! 家の繁栄と平穏を一人で支えていた最高の息子を追い出してしまった、この俺たちが間違っていた!!!」
「あの子の【洗濯】スキルさえあれば、我が家は永遠に栄えていられたのに!! アインハルト、どうか戻ってきて我が家を綺麗に浄化してくれぇぇぇい!!」
鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、大仰なほど完璧に自分の非を認める叫びだった。
その様子を壁際で静かに見守っていた老執事の胸の内に違和感が残る。
(……おかしい。旦那様も奥様も、あれほど無償で家と領地を支えてくださっていたアインハルト様の【洗濯】の恩恵に与っておきながら、なぜ『ただの平民の家事スキル』と決めつけてあっさり追放したのだ? 極めつけは、まるで三文芝居のように完璧すぎるあの懺悔……)
彼らがアインの【洗濯】スキルの真価に気づかず追放したのも、そして今こうして不自然なほどあっけなく破滅したのも、まるで目に見えない何かに「強制的にそう行動させられている」かのようではないか。
だが。
「……気のせいか」
老執事は小さく息を吐き、首を横に振ってその思考を打ち切った。
床に這いつくばって泣き叫ぶ惨めな元当主たちの姿を見下ろせば、何か得体の知れない力が働いているなどという妄想は、ただの考えすぎに思えたからだ。
こうしてグランツ家は、テンプレ通りの『【洗濯】スキル持ちの有能な息子を追い出した家族の後悔ざまあ』を強制的に演じさせられ、物語からあっさりと退場していったのである。




