EP8 覚醒
――マリーに扉を閉ざされ、土砂降りの雨の中で絶望に暮れていた俺の前に、突如として空間を切り裂いて現れた者がいた。
『――イベント【完全孤立】の完了を確認』
『次期フェーズへ移行。覚醒イベントのための圧倒的強者を配置します』
脳内に無機質なシステムアナウンスが響き渡った直後。
重苦しい気配と共に空間が歪み、禍々しい角を生やした魔王軍の幹部が姿を現した。
「ほう……。貴様だな。我らが魔王様が『強大なスキル』を察知したという人間は」
そいつは傲慢な笑みを浮かべ、ひれ伏させるような威圧感と共に名乗りを上げた。
「我が名は魔王軍幹部、【災厄の使徒】ゼルド。よほどの脅威かと思えば……ただ雨に打たれて絶望しているだけの哀れなガキではないか。手間をかけさせおって」
絶望に沈む俺を値踏みするように見下ろすゼルドに対し、反射的に俺は心の中で念じた。
(【【鑑定】】)
名前:魔王軍幹部・ゼルド
種族:上級悪魔
称号:【【災厄の使徒】】
スキル:【【転生】】LvMAX、【【魔王軍統率】】Lv9……他多数
危険度:【極大(即死級)】
「圧倒的すぎる……」
冷や汗を流す間もなく、ゼルドの手には存在を書き換える上位スキル【【転生】】の眩い光が灯っていた。
「邪魔な異世界の勇者め、ここで消え失せろ! ……いや、ただ殺すのはつまらん。その傲慢な魂ごと、這いずり回る最下層の魔物に変えてやろう!」
奴がスキルを発動させた瞬間、強烈な光に包まれ、俺の肉体はドロリと溶け崩れた。
気がつくと、俺は洞窟の底で、ぷるんとした青いゼリー状の体――スライムになっていたのだ。
「……っ! クソが……!」
魔王軍幹部のスキル【【転生】】によって、問答無用でスライムに転生させられたのだ。 全身のプライドをズタズタに引き裂かれた俺は、冷たく青いゼリーの体を震わせながら、脳内で牙をむいた。
(覚えてろよ、魔王軍……! この屈辱、絶対に何倍にもして返してやるからな……!!)
――だが、その猛烈な怒りを抱きながらも、心のどこかで冷めた自分がいた。
この怒りや復讐心ですら、本当に自分の意志によるものなのか? それとも、この【【【なろう系主人公】】】というスキルが、『絶望から這い上がる主人公』というお決まりのシナリオを歩かせるために、俺の感情まで都合よくプログラミングしているだけなんじゃないか?
そんな底知れぬ気色の悪さを感じながらも、俺はスライムの姿のまま脳内でスキルに強く念じた。
(こんな姿でいられるか……! 人型になれ、人型に!!)
『――【【【なろう系主人公】】】の補正により、種族特性を強制上書きします』
『同時に、イベント【完全孤立】の完了報酬、並びに転生へのボーナスを精算します』
次の瞬間、スライムのボディが激しい光を放ち、グニャグニャと形を変えた。 人外転生をしたくせに、ものの数秒で引き締まった肉体と整った顔立ちの「人間そっくりの人型」へと変化してしまったのだ。
さらには、俺の脳内に連続して無機質なアナウンスが鳴り響く。
『スライム化の恩恵として、種族特性【物理攻撃無効】【状態異常無効】を保持』
『さらに【【【なろう系主人公】】】の補正により、莫大な経験値と隠しスキル【【神速詠唱】】【【全属性極大魔法】】【【森羅万象の理解】】を獲得しました』
慌ててステータスを確認すると、先ほどまでの平凡だった俺の数値は、劇的に跳ね上がっていた。
だが、俺は冷静に数値を分析して息を吐いた。
(……いや、駄目だ。確かに強くはなったが、この数値ではまださっきの幹部には到底届かないだろう)
底辺に突き落とされ、最下層の魔物であるスライムにされるという理不尽な絶望すらも。
この狂ったスキルにとっては、主人公を覚醒させて最強にするための『美味しいイベント』に過ぎなかったのだ。
「……なるほどな。都合が良すぎる覚醒チートってわけだ」
圧倒的なまでの力をその身に宿し、「よし……これなら動かしやすい」と俺は新しく作られた手足を握り込んだ。 復讐の手段を手に入れた俺は、不敵に笑った。
俺を最下層の魔物に落とした幹部や魔王に復讐を果たし、俺の人生を滅茶苦茶にした【【【なろう系主人公】】】というスキルも何とかしなければならない。
そのためには、あの幹部を圧倒できるほどの理不尽な力を手に入れてやる。
手っ取り早く、この狂ったシステムを利用してステータスとスキルを荒稼ぎするにはどうすればいいか?
「よし、まずは追放されよう」




