EP4 盗賊とお姫様
冒険者ギルドでの鮮烈なデビューを果たした俺は、颯爽と現れたギルドマスターから直々に依頼を受けることになった。
「あの素材の売却金があれば、しばらくは遊んで暮らせるだろう。そんな君に頼み事をするのは心苦しいのだが……君の力を見込んで頼みたい。最近、王都の近郊を荒らし回っている盗賊団の討伐依頼だ」
力を買われて盗賊の討伐を依頼される。
あまりにもトントン拍子だが、暇を持て余していた俺は、マリーを連れて討伐へと向かった。
* * *
街道を歩き始めて数時間。
「ヒャッハー! 身ぐるみ全部置いていきなァ!」
「きゃあっ……!」
前方から聞こえてきた悲鳴。
見れば、道の真ん中で豪奢な馬車が盗賊たちに取り囲まれていた。
馬車の傍らには、純白のワンピースを着た、ふわふわのピンク色の髪を持つ美少女が震えて座り込んでいる。
どうやら、お付きの者が「姫様!」と叫んでいるところを見るに、どこかの国の姫君らしい。
盗賊に襲われる姫様。これもまた、強烈なテンプレだ。
「おい、あんな可愛い子がいるぞ! 俺たちの慰み者にして――」
下劣な笑いを浮かべる盗賊の頭目が、姫様に手を伸ばそうとした、その瞬間。
(あ、まただ)
俺の身体が、俺の意志を置き去りにして”勝手に”動いた。
地面を蹴り飛ばし、目にも留まらぬ速さで盗賊の群れの中央へ躍り出る。
手刀を一閃するだけで盗賊たちがボウリングのピンのように次々と宙を舞い、白目を剥いて地面に沈んでいく。
「な、なんだこのガキは……! ぐはァッ!?」
ほんの数秒。
瞬きをする間に、数十人はいた盗賊団は全滅していた。 ステータスが平凡でも、体が勝手に動いて圧勝してしまう。
この不可解な現象にも、俺は少しずつ慣れ始めていた。
「……あ、あの……」
呆然と立ち尽くす俺の服の裾を、ピンク色の髪の少女がそっと引いた。
見下ろせば、彼女はタレ目がちな瞳を潤ませ、頬を林檎のように真っ赤に染め上げて俺を見上げている。
「助けていただき、ありがとうございます……! 私、アリアと申します。あなたは、私を救うために天から舞い降りた勇者様ですね……!」
「いや、勇者ってわけじゃ。ただ通りかかっただけで」
「なんと謙虚なお方! そのような驕らないお姿、流石はアイン様です! 素晴らしいです!」
「えっ? いや、俺まだ名前名乗ってないんだけど……」
「お名前を名乗るまでもなく、背中から溢れ出る圧倒的なオーラで分かります! アイン様のすべてが完璧で、私の理想そのものです!」
(いや、背中から名前のオーラってなんだよ……)
ちょっと引いてしまった俺は、気まずさを誤魔化すように一歩後ずさりした。
「あ、石に躓いた」
「石に躓くアイン様のお姿、まるで芸術的な舞のようです! さすがですアイン様! 躓いた右足の角度すら愛おしいです!」
「えぇ……。あー、えっと、服に返り血が……」
俺が頬をかいて視線を逸らすと、アリアはさらに熱を帯びた瞳で俺を見つめてきた。
「ああっ、照れて視線を逸らす横顔も素敵です! そして、その頬をかく指先の動き! 呼吸をするたびに上下する胸の膨らみ! 全てが尊いです、さすがですアイン様!」
……何を言っても、どんな行動をとっても、彼女は目をキラキラさせて「さすがです!」と全肯定してくる。 普通なら可愛い美少女に褒めちぎられて気分が良いはずなのだが。
俺が息を吸えば「素晴らしい肺活量!」、俺がまばたきをすれば「美しい瞳の瞬き!」と、あまりにも呼吸をするように全肯定されるため、俺の背筋にゾクリとした薄ら寒さが走った。
「アイン様、お茶が入りました。盗賊の死体の上ですが、いかがなさいますか」
振り返ると、血の海と化した惨状のど真ん中で、マリーが無表情のまま優雅にティーカップを差し出していた。
「……マリー。お前だけが俺の癒やしだよ」
「恐縮です。ところでそちらの狂信者の方にも、お茶は必要でしょうか?」
「き、狂信者なんてそんな……! 私はただ、アイン様の細胞のひとつひとつすら愛おしいと心から思っているだけで!」
こうして俺は、俺の全てを全肯定するヒロイン(アリア)と、常に優秀なメイド(マリー)を連れて、王都への帰路についたのだった。




