EP3 冒険者ギルド
王都の裏路地を抜け、俺とマリーは活気あふれる巨大な建物――冒険者ギルドに到着した。
木の扉を押し開けると、むせ返るような酒と汗の匂い、そして荒くれ者たちの喧騒が押し寄せてくる。
「いかにもテンプレ通りのギルドだな……」
「アイン様、お召し物が汚れます。私が道を切り開きますので」
「いや、そこまでしなくていいから」
受付に向かい、冒険者ギルドに登録したい旨を伝える。
「お名前を教えていただけますか?」
「アインだ」
実家の名を捨ててアインと名乗り、簡単な手続きを経て、俺は無事に木札のギルドカードを受け取った。
その時だった。
「おいおい、なんだこのヒョロガキは。冒険者ギルドはお前みたいな貴族の坊ちゃんが来るところじゃねえぞ!」
ドカッ、と肩をぶつけてきたのは、傷だらけの鎧を着たガラの悪い男たちだった。
複数人で俺を取り囲み、下卑た笑いを浮かべている。
(おおっ……! これぞ王道のテンプレ展開!)
俺は内心で感動すら覚えていた。
……しかし、今の俺のステータスは『子供にしてはちょっと高いくらい』でしかない。普通に考えれば、歴戦の冒険者に勝てるはずがない。ここは穏便にやり過ごそう。
「あ、あの、俺はただ登録に来ただけで――
『痛い目を見たくなければ、さっさと道を開けな』」
(……は?)
俺は自分の口から飛び出した、信じられないほど偉そうで挑発的な声に耳を疑った。
まるで、見えない『誰か』に声帯を乗っ取られたかのように、勝手に口が動いたのだ。
「あぁん!? ガキが、ナメやがって!」
完全にブチギレた男が、大剣を振り被る。
(ちょっ、待て、違う! 今のは俺の意志じゃ……!)
――だが。
弁明しようとした瞬間、馬車から少女を助けたあの時のように、俺の身体がまた”勝手に”動いた。
そして、なぜか男の動きが止まっているかのように遅く見える。
俺の体は流れるようなステップを踏み、男の鳩尾に軽く拳を沈めた。
「ぐはっ……!?」
たったそれだけで、巨漢の男は白目を剥いて吹き飛んだ。
残りの男たちも、まるで自分から俺の手刀や蹴りに当たりにいくようにして、次々と沈んでいく。
ステータスは普通のはずなのに、俺はガラの悪い男たちに、当然のように圧勝してしまったのである。
「おいおい、嘘だろ……あの『赤熊』のパーティーを瞬殺したぞ……」
周囲の冒険者たちがどよめく中、マリーがすっと純白のハンカチを差し出してきた。
「お見事です、アイン様。汗をお拭きください」
「……ありがとう」
俺はハンカチを受け取りながら、自分の両手を見つめて内心で呟いた。
(それにしても、さっきのは一体何だったんだ……?)
自分の意思とは無関係に、勝手に口が動き、体が動く。
前世で馬車に撥ねられた時といい、今回の件といい……どうにも、自分の体が自分のものではないような、得体の知れない気味の悪さがある。
(マリーの有能さが骨身に沁みる……こいつだけは絶対に大切にしよう)
俺は心細さをごまかすように強く誓った。
今は考えても答えは出ない。
さて、次は当面の金策だ。
俺は買取カウンターへ向かった。 実は先ほど【【アイテムボックス】】の中身を確認したところ、神様からの『初心者応援セット』なのか、なぜか大量の超レア素材が入っていたのだ。
「これを買い取ってほしい」
カウンターにドンッ、と置いたのは、先ほど俺自身が【【鑑定】】スキルで詳細を確認して驚愕した、『エンシェントドラゴンの逆鱗』や『ミスリルゴーレムの核』など、常識外れの素材だった。
「な、なななな……!? こ、これは伝説の超レアモンスターの素材!? しかもこんなに大量に!?」
受付嬢が腰を抜かし、カウンターの奥へ駆け込んでいく。
(こういう『ギルドで規格外の素材を出して周囲を驚かせる』っていうテンプレ展開、前世のラノベで散々見飽きてたけど……実際に自分の身に起きると、結構気分がいいものだな)
俺が内心で少しだけニヤリと優越感に浸っていると――。
「騒がしいな。一体何事だ?」
そこへ、奥の扉から一人の男が現れた。
無駄に顔が良い、銀髪のイケメン。身に纏う装備からは、ただ者ではない強者のオーラがひしひしと伝わってくる。
「おおっ! ギルドマスターだ! ギルマスが直々に来たぞ!」
ギャラリーがさっと道を開ける。
颯爽と登場したギルドマスターは、カウンターに置かれた素材と、俺の顔を交互に見た。
「ほう……。この素材を持ち込んだのは君か。なるほど、只者ではない魔力を感じる。君のような逸材が我がギルドに来てくれるとは歓迎するよ、アイン君」
ギルドマスターは不敵に微笑みながら、颯爽と俺に手を差し出してきた。
(ギルマスの直々のスカウトとか、いくらなんでも展開が早すぎる! ……でも、このままトントン拍子に進んでいくなら大歓迎だ!)
俺は内心でガッツポーズをしながら、ギルドマスターの手を握り返した。 こうして俺の冒険者生活は、絵に描いたような順風満帆なスタートを切ったのである。




