閑話 公爵令嬢とざまぁ
王都の中心にそびえるローゼンバーグ公爵邸。
馬車事故から命を救われた公爵令嬢セシリアは、恩人である黒髪の少年の正体を知り、怒りに震えていた。
「あのザイード殿下が、『ステータスの表記が不気味だ』などという理由で、召喚直後の彼を即追放したですって……?」
馬車事故から主人公に助けられた少女であるセシリアは、実は王国トップクラスの権力者の娘だった。
彼女はすぐさま実家の権力をフル活用し、追放を主導したバカ王子ザイードの身辺調査を開始した。
しかし――その内偵は、拍子抜けするほどすんなり行き過ぎた。
ザイードが裏で行っていた横領や不正の決定的な証拠が、いとも簡単に見つかったのだ。
同時に彼女は、恩人のクラスメイトたちを城から救出することにも成功した。
これもまた、信じられないほど何の障害もなくスムーズに進んだ。
そして数日後。 数々の愚行を白日の下に晒されたザイード王子は、あっさりと王位継承権を剥奪され、辺境へと送られることになった。 王城のホールから、衛兵に両脇を抱えられて惨めに引きずり出されていくザイード。
普通ならここで「おのれセシリアぁ!」などと恨み言の一つも叫びそうなものだ。
しかし、彼は突如として床に膝から崩れ落ち、頭を抱えて大声で叫んだ。
「この俺が、間違っている!!!」
鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、大仰なほど完璧に自分の非を認める叫び。
それを見たセシリアの胸の内に、得体の知れない「違和感」がべったりと張り付いた。
(……おかしいわ。いくらあのザイード殿下がバカ王子でも、あそこまで狂ったように恩人様への即追放を強行するなんて。それに、今回の内偵の不自然なほどの進みやすさ。極めつけは、まるで三文芝居のように完璧すぎるあの懺悔……)
彼が追放を決定したのも、そして今こうして破滅したのも、まるで目に見えない何かに「強制的にそう行動させられている」かのようではないか。
なぜ恩人をあそこまで異常な速度で追放したのかという疑問が、再び頭をよぎる。
だが。
「……気のせいね」
セシリアは小さく息を吐き、首を横に振ってその思考を打ち切った。
床に這いつくばって泣き叫ぶ惨めな元王子の姿を見下ろせば、何か得体の知れない力が働いているなどという妄想は、ただの考えすぎに思えた。 ともあれ、恩人への報いは果たしたのだ。
彼女は手元の扇子を優雅に開き、それ以上深く考えることをやめたのだった。




