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霧の中の小さなシルエット

午後5時半ごろ。


夕霧が石畳の通りを銀色の膜のように包み込み、霧の中に浮かぶ店先のランプの淡い光をかすかに透かしていた。


周囲には馬のひづめの音と、銅製の荷車や蒸気機関の機械的な音が混ざり合う。工業用の石炭の煙、焼けた樹脂の匂い、温かい紅茶と焼き菓子の香りが溶け合い、夕暮れ時特有の芳香を醸し出していた。


通りの両側には、ビクトリア様式の赤レンガの建物がそびえ立ち、バルコニーは曲線を描きながら濃い霧の上にせり出している。


日が暮れるにつれて行き交う人々はまばらになり、残るのは長く尖った耳や毛むくじゃらの獣耳を持つ少女たちの急ぎ足の足音だけ――彼女たちこそエルフや獣人である。


ここはリオレン――アウレリオン公爵領の首都である。


リオレンはその規模と豪華さから、「リソリア王国第二の王都」と称される都市だ。アウレリオン家の指導の下、荒れ果てた土地からこの賑わう都市へと生まれ変わった。


経済的には、かつてリオレンは王都さえも凌ぎ、王国一裕福な都市となったこともある。そのインフラと技術は時にリソリア本国を大きく引き離し、アウレリオン公爵領はさながら独立国家の様相を呈していた。


王宮は何度もリオレンを抑え込もうとしたが、叶わなかった。――アウレリオン家に悲劇が起き、レイナが『悪女』と呼ばれるようになる、あの日までは。


そして、絵画のように壮麗なこの街のただ中に、ひとつの怪しげな影が、壁にへばりつくように怖る怖る歩いていた。何かを恐れているかのように。


その怪しい影は小柄な身体つきで、可愛らしいアイドル・ロリータ風の衣装をまとっていた。ヴィンテージと舞台的な趣を併せ持つ――短く広がった青と白のチェック柄のスカート、何層にも重なったフリル、そしてお揃いのブーツ。


その上からは、粗い布で作られた藁色のマントを羽織っている。湿った場所に長くしまっておいた特有のカビ臭さが漂っていた。


歩いている途中、その怪しい影は明かりの灯った店の前に立ち止まった。彼女は店の方へ顔を向け、ガラスに顔を押し付けるようにして中に並べられた品々を覗き込んだ。


店内から漏れる光が逆光となって、その怪しい影の顔を浮かび上がらせる。それは可憐で、どこか愛らしい顔立ちだった。


足首まで届く灰白色の灰長石のような髪。店の灯りにきらめく金色がかった銅色の瞳。


他ならぬ、この少女こそがヴィヴィア・フェアウィンドであり、この物語は彼女の足跡を追う。


看板を見ると、ここはパン屋だった。ガラス越しに黄金色に輝くパンを見て、ヴィヴィアの腹がぐうっと鳴った。


背後の通りでは人々が行き交い、まるで動物園の動物を見るような目で彼女を眺めている。人間でなければ、エルフか獣人だ。


彼らの手には夕食の食材や、数日分の買い溜めした食べ物が握られている。


「ねえ、あの人何してるの、ママ?」


突然、後ろから少年の声がして、ヴィヴィアはびくっとして振り返った。


そこにいたのはエルフ族の母子だった。異常に長く尖った耳という特徴が、他の種族と一線を画している。


母親はヴィヴィアのカビ臭さに気づき、すぐさま嫌悪感をあらわにした。彼女は無邪気な息子をヴィヴィアから引き離し、辛辣な一言を吐き捨てた。


「近寄らないで、臭い奴」。そう言って彼女は舌打ちを一つしてから立ち去った。


ヴィヴィアはうつむき、その場に立ち尽くした。反論できなかった。彼女の言葉はあまりにも正しかったからだ。彼女は田舎から出てきた貧乏な小娘に過ぎなかった。


彼女の家族はアウレリオン公爵領の田舎で貧乏で有名だった。彼女が上京したのは、アウレリオン家が女中を募集していると聞いたからだ。自分を試し、家計を助けるお金を稼ぎたいと思い、こっそり家を出てきたのだった。


こっそり出てきたため、彼女の荷物には、一番高価で大切なアイドル・ロリータのドレスと、ごくわずかな旅費以外何もなかった。


一番のお気に入りの服を着て、ヴィヴィアは都会の人混みに溶け込める自信に満ちていた。しかし、自分に染みついた貧乏臭いことをすっかり忘れていた。


彼女はただ黙ってそこに立ち尽くし、行き交う人々を見つめていた。ヴィヴィアの目尻は泣き出しそうに潤んでいたが、必死にこらえ、一滴も涙をこぼすまいとしていた。


これがヴィヴィア自身の選んだ道だ。彼女はこっそり家を出て、この街へ働きに来たのだ。まだ仕事も決まっていないのに泣くなど、家族に顔向けできない。


彼女は本来持っている自信を取り戻し、勇気を奮い立たせるように顔を上げた。しかし、天は彼女をからかうかのようだった。


ヴィヴィアが顔を上げた瞬間、一滴の雨粒がまっすぐに彼女の目に落ちてきた。彼女は痛みに襲われ、傷ついた目を押さえてうずくまった。


しかしそれはまだ序の口に過ぎなかった。ヴィヴィアが頭を下げたとたん、空は土砂降りの雨を降り注ぎ始めた。痛みに耐えながらも、彼女は素早く雨宿りの場所を探した。


幸い、通りの向かい側に軒のある家があった。藁をも掴む思いで、ヴィヴィアはすぐにそこへ走り込み、辿り着いたときには息を切らせてゼイゼイと喘いだ。


ヴィヴィアの体力はとても弱く、通りの向こう側から走ってきただけで、顔を真っ赤にし、哀れなほど激しい息遣いになった。


彼女は石畳の地面に崩れ落ち、身体を丸めた。寒さのせいもあり、そして自分の不運に対する悲しみのせいでもあった。家を出る前、ヴィヴィアは家事がとても得意だったので自信に満ちていた。実際、田舎では家の掃除を請け負ってお金を稼いでいた。


体力はなくて時間はかかるけれど、家全体を新品同様に、埃ひとつ残らずきれいに掃除できたのだ。悲しいかな、田舎で働くだけでは十分ではなかった。


ヴィヴィアの家族は、父、母、二人の妹、そして祖母の五人家族だった。働けるのはヴィヴィアと父だけ。


しかし最近、父は仕事をしすぎて体が耐えられず、寝たきりになってしまった。残されたのはヴィヴィア一人だけだ。


彼女が一人で死ぬほど働いても、家族を養うには足りなかった。しかし幸いなことに、彼女が掃除をしていた家の主人から、「公爵家が女中を募集しているそうだ。もし望むなら、こちらから手紙を出しておいてあげよう」と言われたのだ。


貧困から抜け出すチャンスを見つけ、ヴィヴィアはすぐに承諾した。家主は喜んで公爵家に手紙を書き、返事はわずか二日後に届いた。


「三日後の夜11時までに、公爵家の屋敷に来るようにとのことだ」


「はい!」


アウレリオン家の女中になれば、きっとたくさんのお金が稼げる。今回の就職活動が順調にいくことを確信し、ヴィヴィアはすぐに旅立ち、公爵領の首都に着いたばかりだった。


彼女はアウレリオン家の屋敷がどこにあるのか全く知らなかった。手紙には道順が書かれておらず、最初は行きかう人に道を聞こうと思っていた。しかし実際に街の人と向き合うと、怖くて話しかけられなくなってしまった。特にさっきの母親が彼女を傷つけ、首都の住民に対して恐怖心を抱かせたのだ。


ヴィヴィアは小さく丸まり、自分の身体をぎゅっと抱きしめながら、壮麗な街並みを眺めた。


突然の雨に、多くの人が慌てて走り去る。傘を持っていた幸運な者もいれば、ヴィヴィアのように雨宿りをする者もいた。


周囲の景色を無力に見つめる。襲ってくる空腹感に抗う間もなく、ヴィヴィアはいつしか眠りに落ちていた。

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