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第6話 サクッとトロッと、甘いクッキー


 キッチンに向かうと、クリスティンが既に待機していた。彼女は表情ひとつ変えず、俺を見ると小さなお辞儀をした。


「お嬢様は特にリクエストはないとおっしゃっています」

「そうですか、それじゃあこっちで考えます。好き嫌いはありますか?」

「甘い物は全てお好きだと」

「かしこまりました。えっと、材料は……」

「こちらに食料保管庫がございます。ですが、フルーツや野菜は使いたいものをお申し付けください。新鮮なものを購入してまいります」


 さすがは公爵家、レベルが違う。


「今日はクッキーを焼こうかと思っておりまして。えっとバターと砂糖、小麦粉とバニラビーンズ、チョコレートと卵をお願いします」

「かしこまりました。準備して参ります」


 クリスティンはキッチンから繋がった食料保管庫に入っていくと、2段カートを押して戻ってきた。白地に金縁の高級なカートには小麦粉やバター等俺が先ほど口にした材料が載せられていた。どれもこれも王宮のロゴが印刷された入れ物に入っており……


「これ王宮へ献上されるものですか」

「はい、ルギャルー公爵は現当主様のご活躍で王宮と同じ食材を使用することが許されております。量は問題ございませんか」


 クリスティンは表情を変えない。最初は怖かったけれど、彼女はいい意味でも悪い意味でも悪意はないので慣れてきた。


「ありがとうございます。量は問題ないです。えっとここにある食器は自由に使ってもいいですか?」

「どうぞ。調理器具や食器の洗浄は私が行なっておりますので使用後はあちらのシンクにお願いします」


 彼女の指差す先には大きな白いタイルのシンクが3つ。ピカピカに磨かれていて、俺の実家のように使い込まれたような感じではない。クリスティンの<家事>というスキルに少し興味が出てきた。


「かしこまりました。えっと、じゃあ出来たら呼びますね」

「出来なくても困ったことがあればお呼びください。オーブンの余熱の際はそこのドアから出た先の中庭にある薪置き場から薪をお使いください、マッチはそこに。こちらの黒いドアは氷が完備された冷蔵庫になっております。クッキー生地を寝かせる場合はお使いください」

「ありがとございます」


 彼女は言い終わるとキッチンを出て行ってしまった。ぽつんと残されて不安が過ぎる、でも俺はスキルがあるのである程度の味や質のものができるというのは担保できる。

 その中でもクッキーは1番俺が美味しいと思えたスイーツだ。そもそも、甘い物はあまり好きじゃない俺にとって生クリームたっぷりのケーキとか、クソ甘いバタークリームのカップケーキは苦手。今から作るクッキーは最後に粗塩を振りかけるのでその分塩っ気があって食べやすいのだ。


 たっぷりの溶かしバターを作りながら、卵を割る。庶民は見ることもないような高級卵は一つずつ個包装されていてリボンまでついている。どうせ割ってしまう卵にリボン。王宮御用達ともなると、こういう見えないところにもこだわるのか。

 リボンを外し、ボウルの中に割り入れるとこれはびっくり。ぶりんと大きな黄身はオレンジ色、白身もサラサラではなくとろっとしていて新鮮なのが見てわかる。さすがは高級品、俺が普段食べている卵が安物だと一瞬でわかった。目玉焼きにしたら美味いんだろう、これはクッキーになるのだけど。


 これから作るのは、サクサクで小さいクッキーじゃない。

 女性の手のひらくらいの大きさで、外はさっくり中は少しねちょっとした食べ応えのあるものだ。甘くとろけるようなクッキー生地にザクザクと刻んだチョコレートを混ぜ込み、冷蔵室で生地を寝かせる。

 その間にオーブンの余熱をすすめつつ、付け合わせの生クリームの作成をした。


「俺、めちゃくちゃスイーツ作るのうまいじゃん」


 頭の中には、完璧なレシピ。組み合わせまで浮かんでくる。その上、手は勝手に動くような不思議な感覚で、自分のようで自分じゃない。

 だからこそ胸がキュッと締め付けられた。


——戦闘スキルだったら、きっと俺は強くなれたんだろうな


 今までの努力とスキルが合致しない。

 もしも、俺がスイーツ職人を目指している人間だったら、もっと素晴らしいアイデアが浮かんでいるのかもしれない。本当にこれがやりたいことなのかと父に問われた意味がやっとわかったような気がした。


——虚しくて、ずっとこの気持ちが続くのかなと思う。


「あ〜、ダメダメ。考えるな、俺」


 気を紛らわせるため、シンクに突っ込んだ調理器具を洗うことにした。


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