第29話 警備部隊のアルバイト
公爵の力というのはすごい。
それを改めて痛感したのは、彼と話した翌日に警備部隊から書類が届いたからだ。ルギャルー公爵からの推薦で警備部隊への入隊を許可するという内容かつ勤務日が土曜日と日曜日の週2日プラス俺の希望分だけという高待遇のものだった。
「よろしくお願います。カイノ・バーシェです」
警備部隊の本部は街の中心地にある大きめの建物だ。煉瓦造りの2階建てで、1階は市民からの相談を受け付ける窓口になっていて、2階は隊員の執務スペース兼、夜勤の際の仮眠室になっていた。
「警備部隊 隊長のネクトだ。ウチの組織はファーストネームだけで活動するが……君はカイノでいいかな?」
ネクトはもっさりとした髭が特徴的な大男だ。警備部隊の紺色の制服では隠しきれない筋骨隆々な腕……憧れる。
「いやー、まさかルギャルー公爵から推薦があるなんてね。俺たちにとって裁判所はとても身近でね。公爵はかなりお世話になっているんだ。いやー週2日からでも本当に助かるよ。最近人手が足りなくてね。君のようなスキルなしで剣術も体術もできる子は本当に貴重なんだ」
「足を引っ張らないように頑張ります」
「なーに、安心しな。俺もスキルは戦闘とは関係ないんだ。『事務処理』ってスキルでさ。実は裁判所用の調書は俺がまとめてるんだよね。だから、あ〜忙しい」
隊長がスキル持ちじゃないというのは俺にとってすごい希望だ。というかやっぱり俺が子供すぎたのだ。スキルが合致していなくても頑張っていれば夢は掴めるかもしれないのだ。
「みんな! 新しい仲間を紹介する。ほら、前に話した。あの盗賊を倒したカイノだ。これからは一旦週2回程度でシフトに入ってもらう。よし、今日は俺とバディで回るが、わからない事があれば教えてやってくれ」
警備部隊のメンバーは男女半々で、皆快く俺を出迎えてくれた。
「まずは、日勤のやることとトレーニングスペースの案内をしようか。カイノは剣でいいね」
「はい。お願いします。僕にできることであればなんでもやらせていただきます」
「やることはたくさんあるぞ。俺たち警備部隊はパトロールから道案内、ゴミ拾い、街のためならなんでもやるんだ。もちろん、この前のように通報があればあぁやって動くがな」
警備部隊は朝から夕方までの日勤と、夕方から朝までの夜勤に分かれている。日勤は窓口で受けた通報や相談事に対応したり、路地裏や治安の悪い地域のパトロール、ゴミ拾いなんかをする。夜勤は窓口が閉まっているので主にパトロールと緊急通報への対応をする。
そのほかに建物の裏手にあるトレニーングスペースでは剣や弓の訓練ができるようになっているので時間が空いている時は利用可能で鍛錬もできる。
「パトロールは地図にルートが記入してあって、その時に手が空いているメンバーでバディを組んでまわってもらう。カイノは腕っ節が強いからきっと引っ張りだこだな。制服はサイズが合うのをとってくれ。カスタムは時間がかかるからとりあえず、防具も同じくロッカールームにあるから好きなものを使ってくれ」
「はい、ネクト隊長」
「よし、いい返事だ。それじゃ着替えてきたらここに戻ってきてくれ。パトロールに行くぞ」
***
警備部隊の制服は紺色で騎士服に似たようなデザインをしている。特徴的な紺色のシルクハットはちょっと動きにくい。借り物ではあるがレイピア風の細い剣は馴染みが良く、軽くて扱いやすい。
鏡で自分の姿をみて心が躍った。騎士……ではないが、立派に市民を守れる職業だ。
「様になってるじゃないか。よし、カイノ。パトロールに行こうか」
ネクト隊長は俺にそういうと先に建物を出ていった。パトロールという響きに俺はワクワクしている。この制服は市民にとって「安全安心」のしるし。それが何よりも嬉しい。
「よろしくお願いします! ネクト隊長」
「よし。それじゃ、行きますか」
地図を持ってルートを確認しながら、パトロールを進めていく。ネクト隊長は時折店の中に入っては俺を「新人です」と紹介してくれ、挨拶の機会を作ってくれた。
商店街でも彼はとても人気で、ドーナツをプレゼントされたり試食にと惣菜を食わされたりしていた。市民から愛されるとはまさに彼のことなのかもと思った。
俺もいつかはこういう人間になれたらいいなぁ。
「市民の安全は俺たち警備部隊と市民自身が守るものなんだ。だからこうやってコミュニケーションをとっていくと情報が入りやすかったり頼ってもらいやすくなる。カイノもパトロールを重ねていくうちに市民の皆さんと仲良くなっていくといい」
「はいっ」
「寄宿学校仕込みの気合いの入った返事は心地がいいな。さて、そろそろ新人には書類仕事も教えないとならんから戻るか。パトロールの異常はなし。君がこの前盗賊のボスをやっつけてくれたからだいぶ治安も良くなっていてね。はぁ、気合いを入れ直せよ。書類仕事は本当にきついんだからな」
またまた、と思っていた俺は後悔することになる。
警備部隊の書類作業はハンパない。
初日にして3時間の残業のあと、くたくたになって自宅に帰るのだった。




