第30話 親孝行と訪問
警備部隊のアルバイトはやりがいがいっぱい詰まっていた。先輩たちは皆優しく快く俺を受け入れてくれたし、程よく褒めてもくれる。市民から慕われる仕事はやっぱりやりがいがある。今日は、制服姿を両親に見せるために帰省中をしていた。
「よく似合っているじゃないか」
父さんは俺が初めて働き始めた時よりもどことなく嬉しそうだった。それは俺がどれだけパティシエに対して向き合えていないかの証明だったのかもしれない。
「警備部隊、すごく楽しいです」
「スキルがなくとも人は輝ける。これは父さんが尊敬する人物の言葉だ。覚えておきなさい」
「はい、父さん」
紺色の制服が窓ガラスに反射して見えた。少し筋肉も戻ってきたし肩幅も胸板もいい感じで自信がみなぎっている。
「カイノ、最近ちゃんとご飯食べているかい?」
「ちゃんと食べているよ。警備部隊の食堂があって利用できるからそこで栄養は取ってるよ」
「立派になって……。パティシエの方は大丈夫なのかい?」
「パティシエがない日に警備部隊に行っているんだ。公爵家への出勤は手紙で事前に知らせてもらえるしね」
「そうだったの。お嬢様からお手紙かくるけれど元気そうね」
「母さんの方がフィーリアさんと仲がいいかも。俺はあれ以降まだ呼ばれてなくてさ」
あれから、フィーリアにはまだ会えていない。
あれだけのことがあったのだから仕方がないといえばそうだ。誘拐されかけて……怖い思いもしただろうし、今は療養をしながら甘えられる母さんに手紙で甘えているのかもしれない。
「これ、警備部隊の給料なんだけど受け取ってくれるかい、母さん」
「カイノ? そんないいんだよ」
「親孝行になるかはわからないけれど、自分でちゃんと話して決めた仕事で稼いだお金は二人のために使いたくて……ってパティシエのお金も結局実家には全然入れられないままだったし」
封筒の中には5万ゴールドほど入っている。数回の日勤と1回の夜勤分のお給料だ。
「母さん、もらっておきなさい。カイノの気持ちだから」
「あなた……そうね。カイノの気持ちを無駄にしたらいけないわね。ありがとう、カイノ。大事に使うからね」
「二人でどこか美味しいレストランとか行ったらどうかな」
「そうねぇ。お父さんの好きなカリーを食べにいこうかしら。うふふ、カイノもこんなに大きく立派になって……母さん涙が出そうだよ」
「一時期たくさん心配かけてごめんなさい、頑張れる気がするよ」
母さんが泣き出しそうになっていると、父さんが「ご飯を食べようか」と話題を変えた。父さん特製のローストビーフに母さんの得意料理マッシュドポテト。シンプルに見えるけれどどちらも手間のかかる大変な料理だ。絶対に、一人暮らしでは作れない……。
「ごめんください」
ノックのあとに響いた声は、聞き覚えがある可愛らしい声だった。
絶対にそこには存在しないはずの声。小鳥のような美しい透き通った……声。
「あら、お嬢様?!」
ドアを開けた母さんはびっくりしたが、フィーリアは真っ青な顔で母さんに寄りかかった。何事かと泡当てる俺と父さんを尻目にズカズカと入ってきたクリスティンが盛大にため息をついてフィーリアに向かっていった。
「お嬢様、だから無理をしてはいけないと言ったのです。申し訳ございません。お水を一杯いただけますか? カイノ様、お嬢様を馬車まで運んでいただけますか」
「はい。フィーリア、肩を貸します」
そっとフィーリアの腕をとり自分の肩にかけるようにするが、彼女はもう倒れる寸前で体重が俺にのしかかった。
「失礼……します」
そっと彼女を横抱きにして、クリスティンにドアを開けてもらう。急足で馬車へと向かいキャビンの中へと入る。ソファーにフィーリアを寝かせ、家に戻ると母さんが準備してくれていた水を手にまた彼女のもとへと戻る。クリスティンが両親になにやら謝ったり話したりしていたが、今はフィーリアのことに集中しよう。
「飲めますか」
「ごめんなさい……でもカイノに会いたかったの」
「俺のことは大丈夫なので、とにかく休んでください。えっと、どうしたらいいでしょう? 頭痛薬なら家にあるかも、それとも医者を? あぁ王宮病院の方が」
「ううん、いいの。お屋敷に戻ればよくなるから」
グラスの中の水を少し飲むと彼女は俺の手をぎゅっと握った。急なことで驚いたが、具合が悪そうで心配が勝った。
「大丈夫ですか?」
「一緒にお屋敷に来てくれる?」
「もちろん、すぐに行きましょう」
「警備部隊の……お仕事は?」
彼女は遠慮がちにそう言って俺を服を見つめる。
「いえ、今日は両親に見せにきただけで勤務はないんです。それに今はフィーリアにスイーツを作る仕事の方が優先ですし。気をつかわせてしまったのなら申し訳ございません」
「謝らないで、すごく……似合ってるわ」
クリスティンが戻ってきて馬車が動き出す。フィーリアは俺の手を握ったまま静かに目を閉じた。




