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第2話 甘くて自堕落なニート生活


 ポストに届けられた白い封筒、王都の洋菓子店のロゴが描かれている。真っ赤な封蝋を剥がして、ドキドキするが……不採用である。

 俺のスキル<スイーツ>は、口にしたスイーツが作れるようになるというものだ。だから、おのずと俺の就職先は洋菓子店やカフェなどのスイーツを作る人が働ける職種になってくる。ただ、現実というのは厳しいものだ、騎士になるために寄宿学校に行っていた俺は接客の経験もなければ調理の経験もほとんどない。だから店からしてみればスキルがあるだけの素人を雇ってやる義理はないということだ。


 何より、「お菓子が大好きな人」を雇いたいと思うだろう。俺は別にお菓子が大好きでその職を目指しているわけではないから、そういうところが見透かされているのだと思う。


「ごめん、またダメだった」


 封筒をテーブルに置いて、掃除中の母に報告した。これで5件目の不採用。先週の成果はゼロということになる。


「どうしてでしょう。カイノのスキルはとても便利なはずなのにねぇ」

「まだ俺が向き合えていないのかも。ごめん、母さん」

「いいのよ。レストランなんかも受けてみたらどうかしら? レストランにもデザートってあるでしょう?」

「確かに、来週はレストランも募集が出てないかみて回ってみるよ」

「カイノ、ゆっくりでいいんだからね」


 優しい母の言葉に甘え、俺は自堕落な生活を送っている。週に5件ほどの面接をこなしたあとは結果待ちで家でゴロゴロ。騎士を目指していた時代では考えられないようなダラシのない生活だ。どことなく筋肉も落ちてしまったし、太ったような気もする。ただ、長年自分を律して頑張ってきた休暇だとも思っていて、これから始まる「生きていくためだけの仕事」を死ぬまでやり続けるまでの最後の休暇。

 俺はきっと、どこかの洋菓子店で働いてお見合いか何かで素敵な女性と出会って庶民として慎ましく暮らしていくがベストなのだろう。

 騎士になって爵位をもらう夢は叶わないけれど、今の俺が目指せる最大限の幸せを手にしようとやっと思えるようになっていた。


 「やっぱり、甘い物は好きじゃないんだよな」


 部屋のテーブルにはクッキーの紙袋が置いてある。中にはチョコレートチップクッキーが入っているが、乾いてしまいもう美味しくないだろう。

 小さい頃からあまり甘い物が得意でない俺にとって、このスキルは……あまり合っているとは言えない。拷問みたいに甘いカップケーキやギトギトにシロップがかかったババロア。

 全部レシピのために食べたけど、美味しいとは思えなかった。


 甘い物のことを考えていたら、自然と眠くなる。俺はまだ昼間にもかかわらずベッドに転がり込んで目を閉じた。

 目が覚めるとすっかり辺りは暗くなっていて……どころか日付を越えていた。腹が減ってダイニングに降りていけば母が作ってくれたハンバーグが俺の分だけ残っている。パンを自分で切ってバターを塗って、冷たいハンバーグと一緒に腹に入れる。

 風味豊かなハーブソースは、母のスキル<植物鑑定>で選ばれた鮮度と香りのいいハーブを使っているのでとても美味しい。


「美味しいなぁ」


 綺麗に平らげて、皿を洗って……また部屋に戻る。ベッドに腰掛けて娯楽小説を読みながらゴロゴロ。そのうち満腹のせいでウトウト。

 頑張る目標が明確でないと、人というのはこうまでして自堕落になってしまうのである。


——だらしない生活って、意外と心地がいいんだなぁ


 厳しいルールやストイックな訓練を続けていた俺は、だらけた生活を人生初めて楽しんでいる。最初は罪悪感があったけれど、それもだんだん薄れてきた。

 このままじゃ駄目だとわかっているけれど、この心地よい生活が続けばいいとも思っている。自分の中にある大きな矛盾と戦う気力はもうない。


「明日は、レストランいくつか見に行って……デザートでも食べるか。さっぱりしたフルーツ使ったのがいいなぁ」


 生クリームたっぷりとか、甘々カスタードやバタークリームはもう勘弁。さっぱり爽やかなシトラス系のフルーツタルト、これなら美味しく食べられる。いや、本当は肉とか魚とか食べたいけれど。

 瞼が自然と閉じる。さっき起きたのに、食ってすぐ眠くなってきた。

 次に起きるのは何時だろうか、昼ごろ? 夕方? それとも夜かな。どれでもいいか、働いていないし夢もないんだし。

 今まで頑張った分、少しくらいサボったっていいだろう。



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