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第1話 外れスキルと絶望


 16歳の誕生日、全ての人が<スキル>を開花させる。

 いわゆる勝ち組スキルが手に入れば人生は薔薇色だ。


 俺は、騎士になりたかった。

 モンスターから国を守る強くて優しくて賢い騎士になりたかった。

 ジュエノリーゼ王国寄宿学校に入学した俺は、庶民出身ながら常にトップ成績を記録していたのであとは望むスキルさえ手に入れば、騎士団へ入団することができるだろう。

 騎士になるためには戦闘系のスキルが必須。

 戦闘系といえば「剣スキル」「弓スキル」など武器に関するものや、「体術」など体を強化するスキルも重宝される。

 一方で事務系のスキル、例えば「計算」「事務処理」なんかが開花してしまうと騎士の中でも事務方に配属されてしまう……。


 俺は絶対に戦闘系のスキルを開花させたい。

 寄宿学校で貴族の同級生たちと競い合うのは大変な努力が必要だった。毎日、厳しい鍛錬を続け食事管理や睡眠管理、自主トレーニングも誰よりも頑張った。

 身分もない俺は努力をし、寄宿学校に入学してから実技も座学も常にトップの成績を保っていた。そう、努力をすれば人は必ず成し遂げられる。身分など関係ないと思っている。


 今日は俺の16歳の誕生日だ。

 ついにスキルが開花する。魔法研究所に赴き、スキル検査を今か今かと待っていた。


——努力は必ず報われる。


「カイノ・バーシェ 前へ」


 俺の名前が呼ばれ、俺は白衣をきた研究者たちに囲まれた。女性の研究員がにこり微笑んだ。


「スキル<スイーツ>ですね。」

「スィ……ツ?」

「はい、説明は必要ですか?」

「え、えぇ」


 脳が完全に思考を止めた。

 スイーツ、それは確実に戦闘系のスキルではないとわかっているのに受け入れられない。研究者の女性は明るい声で続けた。


「スイーツを食べるだけで、レシピを記憶し忠実に再現することができます。また、食材の組み合わせや温度管理等も可能なスキルですね」

「あ……あ……」

「それでは、こちらの診断書をお持ちになってお帰りください」


 渡された書類には、女性が言った事と同じ内容が記されていた。

 俺のスキルは……スイーツ。


——俺の存在意義は……?


——俺の今までの努力は……?


 無意味だったのだ。

 遊ぶことを我慢して、痛みを我慢して、睡眠を削って、やってきた全てか無駄だったのだ。俺のスキルは俺の欲しいものではなくて、騎士団の欲しいものでもない。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 膝が砕けるように力が入らなくなり、狂ったように声が漏れた。俺は、ただただ時間を青春を無駄にしたのだ。努力なんてするんじゃなかった、努力なんて何の意味もなかった。

 首筋に感じた冷たい魔法の感覚と共に意識が飛んだ。



***


「カイノ、食事よ」


 母の声がドア越しに聞こえた。ベッドの中、真っ暗な視界には当然のごとく何も見えない。見えなくていいのだ。見えたら、狂ってしまう。



「カイノ、スキルダメだったってよ」

「庶民がトップなんかとるからさ。でもスイーツって、おっかしい」

「あいつ、お高く止まって嫌いだったんだよな」

「強力なライバルがいなくなってラッキー、客商売でもしてろよな、この庶民が!」

「可哀想、夢なんかみるからいけないのよ」

「無駄な努力乙〜」



 あっという間に、俺のスキルのことが寄宿学校内に広まって、翌日には俺の噂で持ちきりだった。きっと、トップから人が引きずり落とされるのはさぞかし面白かっただろう。小馬鹿にされ、同情され、教授たちには哀れみの視線を向けられた。退学届を出しに行くまでの廊下が非常に長く感じた。

 それから俺は、自宅の部屋に引きこもっている。毎日、毎日、あの日のあの瞬間を1人で繰り返している。心が押しつぶされて、ぐじゃぐじゃになって……。


「努力なんか、するんじゃなかった」


 言葉が溢れ、次に涙が溢れた。息が苦しいくらいに浅くなり、嗚咽が漏れる。

 16歳になったのだから、切り替えて働かないといけないのはわかっている。わかっているけれどまだ俺には受け入れられなかった。


「カイノ、お母さんはいつだって話を聞くからね。いいのよ、ゆっくりで。でも心配だからご飯は食べてね。お願いよ」


 母の涙声、俺は最低だ。

 騎士になんてなれる度量がなかったのだ。開花したスキルが物語っているじゃないか。

 惨めで、馬鹿みたいで、何も成し遂げていないのにプライドばっかり高くて……俺は最低だ。


「ごめんね。カイノ、貴方の望むスキルが開花するように産んであげられなくて、育ててあげられなくてごめんね。ほんとうに……ごめんね」


 俺は、騎士になって何がしたかったんだろう?

 モンスターを倒して国を救いたかった? 

 輝かしい成績が欲しかった?

 素敵な女性と結婚がしたかった?


 全部したかった。でも、その中には両親への親孝行もあったはずだ。騎士になって爵位をもらって一般庶民の両親に楽をさせたかった。

 今はどうだ? 

 母にあんなことを言わせたかったのか? そんなはずはない、俺が勝手に努力して、勝手に夢見て敗れた結果の責任を母になすりつけるのか? 

 それは、俺がなりたかった「騎士」がやることなのか?



——違う。



 ゆっくり、体を起こす。そっとカーテンを開ける。眩しくて頭がキンと痛んだ。部屋は俺が暴れたせいでぐじゃぐじゃになっている。床の上には飾っていたトロフィーが転がっていた。一つ拾い上げてみると、ジュニアの頃、剣術で1番を取った時のトロフィーだった。くすんだ金色のカップ、受け取った時の父と母の笑顔を今でも覚えている。

 俺は当然のようにあの寄宿学校を卒業して騎士になるのだと思った。それは叶わなかったが、俺が学んできた騎士道はまだ俺の中に残っているはずだ。

 それは無駄じゃないはずだ。無駄にしてはいけないはずだ。


 ドアノブに手をかけてゆっくり開く。こそこそと誰もいない時間にトイレに行くだけだったこの1週間、俺は一体何をやっていたのだろうか。


「母さん、ごめん」

「カイノ? 体は大丈夫なの?」

「大丈夫、ごめん。俺ちゃんと頑張るから」


 キッチンからは美味しそうな料理の香りがした。俺の好きなシチューだろう。あの日以来、食欲がなかったが、久々に腹がぐるぐると鳴った。熱々のシチューにたっぷりパンをくぐらせてお腹いっぱいになるまで食べたい。


「貴方の大好きなシチューを作ってたのよ。カイノ、お母さんと一緒に食べようね」


 優しい母の笑顔にほっとしてまた涙が溢れそうになるが、ぐっと我慢をする。俺は自分のスキルと向き合って、そのスキルで稼いで生きていかなければならないのだ。


「母さん、何か甘いもの……あるかな」

「甘いもの?」

「うん、俺……食べたら作ったりできるからさ。その……今までは好きじゃなくてあまり食べたことなかったから」


 母の目に涙が浮かぶ。でも彼女は俺のために笑顔を作った。


「えぇ、もちろんよ。美味しいクッキーがあるわ。さ、まずはシチューを食べてからよ。私のカイノ、ほら行きましょう」





 

 

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