第27話 警備部隊と俺
フィーリアと俺は別々の馬車に案内された。
彼女には女性の隊員が、俺には髭面の多分えらい人がつく。
「彼らはこの街で指名手配されていた有名な泥棒でね、腕っ節が強いことで有名だったのだが……まさか菓子職人さんが一人で倒してしまうとは」
髭面の警備部隊の隊長さんは俺をじろじろと眺めた。
「実は、ついこの前まで寄宿学校に通ってまして。騎士を目指していたのですが、開花したスキルが菓子職人向きのものでしたので」
「あぁ、そうか。君は元々騎士になるために研鑽を積んで……それなら理解できるよ。どうして庶民の君が公爵家の専属かと疑問だったのだが。お嬢様の護衛兼パティシエか」
「あぁいや、そういう契約ではないです。普通にただのパティシエで……今回はたまたまで」
「うーぬ、君はとてもいい腕を持っているようだ。ウチで働いてもらいたいくらいだよ」
「俺はスキルを持ってなくて」
「スキルはまぁあったらいいなくらいのものだよ。ウチの隊員のうち戦闘系のスキルを持っているのは約7割くらいかな。そのほかは腕っ節に自信がある子たちでスキルは関係ない」
——スキルは関係ない
現場の人の意見というのは説得力があるものだ。
警備部隊は騎士とはちがって爵位は必要ないいわば庶民の間で作られた組織だ。街の安全を守っていて武闘派ばかりが集まっていると思っていた。
騎士が王族や貴族を守ったり、外に出て魔物と戦う一方で警備部隊は庶民同士のトラブル解決をしたり犯罪者を捕まえたり……素敵な仕事だと思う。
「スキルが戦闘系でなくても?」
「あぁ。君はバーシェか。もしかして寄宿学校でトップ成績を毎年とっていた子?」
「はい。お恥ずかしながらスキルがこういったものでして寄宿学校を卒業はしていません」
「まぁわかるよ。思い通りのスキルが開花する人の方が少ないと思う。ウチの隊員も本当は戦闘系のスキルは嫌だったのにそれが開花して、金のために働いている人もいるくらいさ」
そうか、俺が騎士を目指していたのと同じように、パティシエを目指している人もたくさんいるのだ。パティシエを目指していたのに開花したスキルが戦闘系で、生きるためにスキルを活かして働く。戦いたくなくても戦わざるをえないのだ。
「あの、フィーリア……様は」
「怪我はなし、何もされてないようだ。今は女性の隊員がついてお父上の待つ王宮病院に向かう予定だよ。君はどうする? 公爵の従者なら王宮の病院で検査してもいいと思うが……」
「いえ、自分は怪我してませんのでこのまま帰ります」
「カイノ君。もし、まだ誰かを守りたいとか世間の役に立ちたいと思うのなら警備部隊に入ることを検討してくれ。ウチは常に人員が不足しているし君のような成績優秀な人は大歓迎だ。騎士のように爵位をあげることはできないが、誰か守ったり悪い奴を捕まえたり……君が小さい頃に夢を見ていた仕事と似たようなことはできると思う。俺はね、スキルに縛られず生きてもいいと思う」
「どうして、そこまで」
「君が、自己紹介をしてくれたね。パティシエだと言った君の顔は澱んでいたように見えたからね。さて、勧誘もほどほどに仕事に戻る。部下に送らせるよ」
彼にもらった名刺には「警備部隊長 ネクト」と書かれていた。
警備部隊なら俺のやってみたかったことが実現できるのだろうか。弱気をたすけ悪を成敗する。毎日、街の治安のためにパトロールをしたり、時には戦闘をしたり。
——やってみたいなぁ
帰りの馬車で実家に向かっている。
この時になってはじめて、男を殴った方の拳が擦りむいていることに気がついた。この1ヶ月ほとんど訓練をしていなかったから軟弱になってしまったな。
***
「ただいま」
「カイノ! フィーリア様は?」
父さんは俺を見ると立ち上がってこちらへ駆け寄ってきた。母さんはソファーの方で泣いている。
「大丈夫、見つけたよ。今は王宮の病院で公爵の裁判が終わるのを待つって。泥棒に誘拐されそうになってたところをなんとか助けた。俺も彼女も怪我はなくて、さっき警備部隊の人に全部話して送ってもらってきた」
ばふっ、とハグをされて父さんが涙を我慢しているのがなんとなくわかった。
「よくやった。今日はもう風呂に入って寝なさい。母さん、カイノにもフィーリアさんにも怪我はないようだ」
「カイノ、あぁ、カイノや」
母さんもハグに参加する。
「大丈夫、ラザニアまだ余ってたりする?」
俺は安心して腹が減っていた。フィーリアを心配に思う気持ちもありつつ疲労感もすごい。暖かい食事と暖かいシャワーと、ふかふかのベッドで眠る。そういうつい最近まで当たり前だったことで自分を癒すことにしよう。




