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第25話 休暇と実家


 フィーリアといちごタルトを楽しんでから約1週間。俺は再び研鑽を積んでいた。

 少し高めの洋菓子店から庶民派のカフェまでありとあらゆるスイーツを食べ尽くした。と同時に運動も始めた。最初はアパートメントの周りを何周かするだけだったが、最近は公園まで出向いてランニングをしている。

 これは恋の力かそれとも単なる精神の回復かはわからないけれど自堕落な自分でいることがよくないことだと理解したらしい。寄宿学校にいた時のようなストイックさはないものの、のんびりと体を鍛えることは楽しいと感じられるようになっている。


「ただいま」

「あらおかえりカイノ」


 久々の実家はなんだか慣れない。懐かしいはずなのに、よその家に来たような感覚に陥った。母さんは庭の家庭菜園の手入れをしていた手を止めて俺を出迎えてくれた。


「フィーリアさん、元気にしてる?」

「うん。母さん、彼女と手紙を?」

「そうなの。最近よくお手紙をいただいてね。お料理のこと相談を受けたりするの。とても素敵な方ね。公爵令嬢とは思えないくらい。なんというか等身大の女の子って感じね」

「そういえばあの香草の種は?」

「育てているわよ。そうねぇ来年にはお料理に使う事ができるんじゃないかしら。とっても楽しみだわ」


 母さんは水やりを終えるとすぐにキッチンへと向かう。


「カイノ、お腹減ってるでしょ」

「減ってるかも」

「ちゃんと料理している?」

「たまに、してる」

「もう……健康管理も大人の責任なのよ。お父さんはね、一人暮らしの頃だってちゃんとお料理してたわよ」

「へぇ、父さんって料理上手なんだ?」

「そうよ。お父さんが作るローストビーフは最高なんだから。カイノが家を出てから二人で料理することも増えてね。新婚時代を思い出すわぁ」


 両親のイチャイチャ話ほど聞きたくないものはないが、母さんがとても幸せそうなので俺は相槌を打つ。父は昔から仕事一筋な人だと思っていたが、実はそうではなかったらしい。


「二人で料理するんだ」

「そうよ。子供がいる時の献立と中年二人の献立だと好みがかわるからね。こってりは胃に来るってお父さんも言ってるし」

「なんか、ごめん」

「いいのよ。カイノは私たちの宝物なんだから。悪いんだけど、薪割りをしてきてくれるかい?」

「わかった。庭のだよね?」

「うん、小さめにお願い」


 久々に実家の広い庭に出て、薪割りを開始する。寄宿学校に入る前、この薪割りは俺の仕事だったなと思い出す。小さい頃から強くてカッコいい男に憧れていて、父にわがままをいって教えてもらったんだっけ。いまや指先に怪我はできないので薪割りなんてほとんどしないけれど。


 夕暮れになっていた。

 庭へ涼しい風が吹き込んでいるが、構わずに薪を細かく割っていく。うちのオーブンは小さめなので薪も小さめ。ルギャルー公爵家のオーブンはかなり大きくて2つ完備されている上、薪も完璧に準備されている。庶民と貴族の違い……というやつだろうか。


「カイノ、帰っていたのか」

「父さん、おかえりなさい」

「あぁ。薪割りか。ありがとう」

「いえ……今日は泊まって行こうかと思って」

「そうするといい。母さんも喜ぶ」


 父はスーツ姿で勤務後だというのにすごくきちっとしている。大人の男の余裕……というやつだろうか。彼は新聞記者なので事務職というより足を使って働いているはずだが……髪の毛もぴたっと整っているしスーツだって皺が寄っていない。


「公爵にお会いしてね。カイノのことをすごく褒めていたよ。おかげでお嬢様が少し元気になったと。君は公爵にはまだ?」

「はい、まだお会いしたことはないです」

「お忙しい方だからね。父さんもたまたま裁判の取材で、まさか声をかけていただけるとは思っていなかったんだが……」


「二人とも! ご飯ができたよ」


 母さんが庭に出てきて俺たちに声をかけた。この感じ、すごく懐かしいなぁ。小さい頃を思い出す。ここには夢の思い出がいっぱいある。


「お、今日はラザニアか」

「カイノ、ほら早く入って手を洗っちゃいなさい」


 ラザニア……絶対に一人暮らしでは作らないメニューである。作るのに手間も材料も多くかかる上、一度に少量だけを作ることはできないので一度ラザニアを焼けば2日間は同じメニューになってしまうし。

 ただ、ミートソースとホワイトソースの組み合わせは最高においしいしパスタなのにパンによく合うから腹持ちもいい。

 それはフィーリアのおかげで分かったことだが母さんの作る料理は彼女のスキルのおかげで一味多くておいしいから、自分で再現するのは不可能だ。

 チーズの焦げる香りに腹がなった。


「たくさん食べなさいよ。カイノはサラダも食べること」


 いざ、おいしい食事にとフォークを持った時チャイムがなった。


「あら、はーい」


 母さんがエプロンで手を拭きながら玄関へ向かってすぐ、彼女は焦った様子のクリスティンを連れてダイニングに戻ってきた。


「カイノ様、お嬢様が……!」




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