第24話 いちごタルトとピンクのワンピース
専属待機室、クローゼットの中には新品のタキシードが入っていた。手に取ってみると意外とずっしりしていて、俺のサイズにピッタリ。
寄宿学校時代の式典で一度着た事があるが……これを着るとなんだか緊張するんだよなぁ。
着替え終わったので急いで食堂へと向かう。フィーリアはまだ到着していないようで、一応立ったまま彼女があらわれるのを待つ。彼女をエスコートする、えっと椅子を引いて……。
頭の中でレディへのエスコートを思い起こしながら必死でシミュレーションする。一応、騎士を目指していたのだから出来て当然である。
しばらくすると、フィーリアとクリスティンが入ってきた。フィーリアはピンク色のワンピースをきてモジモジしていた。腰には可愛らしいリボン、スカートの裾はレースでふりふりだ。
「お嬢様は似合っているかどうか聞きたいそうです」
「ちょっとクリスティンっ」
無表情のクリスティン、その後に隠れたフィーリアはひょこっとこちらを眺めている。髪も……いつもと違ってアレンジしているようだ。
「とてもお似合いです」
可愛い。が感想であるが失礼になったらいけないので「似合う」という言葉を使った。フィーリアが安心したのかほっと息をつくと俺の方に近寄ってきて立ち止まる。あまりの可憐さに見惚れてしまったが、エスコートを思い出して、彼女の前の椅子をひいた。
「どうぞ」
「ありがとう」
彼女を傷つけないようにそっと椅子を戻し、自分も向かい側の席に座る。いちごタルトは綺麗に盛り付けられ、ピンク色のいちごジュースもおしゃれなワイングラスに注がれる。
「おいしそうね。私、いちごが好きなの」
「よかったです。いちごは俺も好きです。フィーリアはどんな食べ方が好きですか?」
「うーん……なんでも好きよ。そのまま食べる事が多いかしら」
「今は季節ですから、よければ他のスイーツも作ります」
「いいの?! そうしたらそうね、ショートケーキとかミルフィーユ、あとはイチゴを使ったクリームでいろんなスイーツとか」
彼女のいうようにいちごの汎用性はすごい。そのまま食べるのはもちろんのことケーキと組み合わせることで主役にだってなるし、クリームやジャムに加工すれば他のスイーツにエッセンスを加えることも可能だ。例えば、シュークリームの中身をアレンジしたり、クッキーだっていちごジャムを乗せれば立派なスイーツに変身する。
シトラスなどは相性の悪い素材があったりするが、いちごは……あんまりないような。
「おいしい……」
彼女はタルトを一口食べた。俺も合わせてタルトを一口。甘い高級イチゴとカスタードの甘さは絶妙にマッチしていて、タルト生地の香ばしさと硬い食感が見事に調和している。我ながら最高の出来だ。
手に取ったいちごジュースは少しのミルクといちごのみで出来ているので意外と爽やかに飲み込める。いちごの風味が際立って、口当たりはミルキーなのに鼻から抜ける後味がとても爽やかだ。
「よかったです」
「カイノ。タルトっておいしいわね」
「喜んでもらえて何よりです。フィーリアはタルトお好きでしたか?」
「もちろんよ。でも今日はね、カイノが何を作ってくれるのか考えるのが楽しみだったの。リクエストをお手紙ですればよかったのだけど、あのね。えっとね……」
言い淀む彼女の横にスッとクリスティンがあらわれる。
「お嬢様はカイノ様が『お嬢様のためを思ってスイーツを考えてくれる』ことが嬉しいと申し上げております」
「あぁ……それは光栄です」
フィーリアは沸騰しそうなほど顔を赤くしていて誤魔化すようにタルトをパクパク食べている。俺も彼女の気持ちが嬉しくてちょっと照れ臭くて思考停止していたが、よく考えてみれば俺も同じだった。
「俺も……フィーリアが美味しく食べてくれるスイーツはなんだろうと考えている時間がとても楽しかったです」
「それは、私が雇い主だから?」
なんと答えたらいいのだろうか。雇い主の期待に答えるというのは従者として当然のことである。だからフィーリアの質問に「はい」と答えるのが正解である。けれど、俺の気持ちとしては好きな女の子の笑顔がみたいという結構下心的なものでもあったりする。これは絶対に言うべきじゃない……よな。
「はい。フィーリアを喜ばせることが専属パティシエである俺の役目です。それと、烏滸がましいかもしれませんが友人を喜ばせたいとも思っております」
「友人……?」
「すみません。失礼でしたね」
「いいの、友人って思ってくれていたのが嬉しかったのよ。私もそう言うふうに思っていたから。勝手にカイノのことおばさまに聞いちゃったしね」
申し訳なさそうに笑う彼女、俺たちはこの瞬間から「友人」になったみたいだ。身分差があっても友人までなら許されるだろうか。
「クリスティン、今日はおかわりしてもいいよね?」
「あと1ピースだけですよ」
「やった。カイノも食べましょ。おいしいだものっ」
ご機嫌なフィーリアを見て俺は心がほかほかした。これがやりがいってやつなんだと思う。
「クリスティンさんもよければいかがですか?」
「そうよ、クリスティンも一緒に食べましょう?」
クリスティンはヒクヒクと眉を動かしたが、俺とフィーリアの熱に負けて席についた。
「今日は私たち3人ともお友達よ。ね、食べましょう」
フィーリアの優しさに俺はやっぱり彼女が好きだと自覚した。なんて素敵な人なんだろうとタルトを美味しそうに食べる彼女をみてしみじみ思った。
お読みいただきありがとうございます!
皆様の応援が作者の力に変わるので、少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思っていただけたら★やブックマーク、コメントなどいただけたら嬉しいです。毎日更新のモチベーションになります!
下の★で評価するのボタンからよろしくお願いします。




