第23話 一緒に食べたいスイーツ
さらに1週間後、俺の家に手紙が届いた。可愛らしいピンク色で花柄の便箋、フィーリアの字は細くて綺麗で特徴的だ。
『カイノ、次は一緒に食べられるスイーツを作って欲しいわ』
契約書にもあった内容である。俺とフィーリアは色々あったもののシチューを作ってもらったり、クッキーを一緒に作ったりして関係性は良好のはずだ。
それ以上に俺の母さんとフィーリアは定期的に手紙のやり取りをしているらしく、俺のあれこれを母さんから聞いている……らしい。
かなり恥ずかしいがフィーリアが喜んでくれているのであればいいか。馬車の迎えが来る時間までに着替えて髪をセットする。鏡に映る俺がなんだかちゃんとパティシエに見えてきたな。
やっぱり心の傷は時間が解決するのかもしれない。
***
馬車から降りて、ルギャルー公爵家の中に入るのもだいぶ慣れてきた。最初は大きなお屋敷にビクビクしていたけれどすっかりここが俺の職場になっている。
「今日は何を? お嬢様とのお約束をされているかと存じますが」
「クリスティンさん、フルーツの買い出しをお願いします」
フィーリアと一緒に楽しむのであればどんなスイーツが良いかと何度も考えたのが俺が出した答えは「いちごタルト」であった。
まず、二人以上でスイーツを楽しむのであれば一体感があった方が良いと考えた。一体感というと「同じ釜の飯を食う」みたいな感じで、1ホールのタルトを切り分けて食べることで同じ時間を共有していることが感じられるだろう。
その上、これは俺のわがままだがタルトであれば甘すぎず爽やかに食べられるので甘いものが苦手な俺でも楽しむ事ができる。二人が美味しく食べられる……これが俺の出した答え。
いちごが届くまでの間にタルト生地やカスタードの仕込みを始める。初めて作る生地やクリームでもスキルで楽勝。味見をして甘さを整えて、あとはいちごを待つのみだ。
保管庫をみるとミルクが余っているので、いちごジュースを作ろうか。タルトには苦めのコーヒーでも良いが、甘いもの好きなフィーリアのために飲み物をこだわってみようか。
「カイノ」
キッチンに顔を出したのはフィーリア。甘い香りに我慢ならなくなったらしい。
「何を作ってくれるの?」
「いちごタルトといちごジュースにしようかと」
「まぁ……私いちごは大好きよ。じゃあ、お洋服もピンクにしようかな。どう思う?」
女性の洋服について恥ずかしながら違いはよくわからない。
「ピンクのお洋服きっと似合うと思います」
「本当に? カイノはどんな色が好みなのかしら」
「すみません……恥ずかしながらこれまで寄宿学校に箱詰めだったので女性と遊んだ事がなくて」
「そう……私もよ。女学園でお勉強ばっかりだから男の子とご飯を食べたのはカイノが初めて。スイーツも今日が初めて」
彼女は箱入り娘というやつらしい。
「そうだったんですか……でもそうですよね。公爵家のご令嬢ですし」
「それが自慢して良いのかはわからないわ。ねぇ、カイノどんな色が好み?」
「好み……ですか。やっぱりピンクでしょうか」
「わかった。じゃあ今日はピンクのワンピースでおめかしするね。あっ、今から着替えるから入ってきちゃだめよ」
「かしこまりました……」
待っててね、と言い残して彼女はキッチンを出て行った。本当に俺がピンクを好きかと言われると、わからないから何となくピンクと答えてみたが実際のところは俺は何色の服が好きなんだろう? 似合ってたらいいんじゃないかと思うけれど。
入れ違いでクリスティンが木箱にはいった大粒のいちごを持って入ってきた。
「うわぁ……高級いちごだ」
「はい。一粒5000ゴールドです」
「ひ、ひ、ひとつぶ?!」
「はい。少し多めに買いましたのでつまみ食いをしても大丈夫ですよ」
「そうですか……クリスティンさんありがとうございます」
彼女からいちごを受け取って、タルト作りを再開する。イチゴをスライスして焼き上がりカスタードを仕込んで冷やしていたタルトの上に飾り付けるだけだけどこれが結構神経を使う。フィーリアが食べるのだから綺麗に、見栄え良く。彼女がタルトを目にした時にワクワクして欲しいのだ。
「よし、できた」
「それでは、専属の待機室にタキシードを用意しておりますのでお着替えを」
「クリスティンさん、どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。今日はお嬢様と一緒にスイーツを楽しむ約束をしていますよね? 正装をこちらでご用意しています」
「ありがとうございます?」
「いいえ、タルトの切り分けはこちらで行いますから、着替えたら食堂へどうぞ」
「かしこまりました」
一緒にスイーツを楽しむ。
結構正式なお誘いだったらしい。なんだか俺は緊張してきた。フィーリアは俺の作ったタルトをおいしいと言ってくれるだろうか。




