第21話 くまさん型のクッキーとフィーリア
クリスティンを待つ間、俺はすでに材料が揃っているクッキーを作り始めていた。
プレーンクッキーとココアクッキー。気に入ってもらえているのは嬉しかった。ただ、そうなってくるとフィーリアの健康問題も心配なのでただ大量に作ればいいってもんでもないな。
昔から、甘いものを好きな貴族は短命だと言われている。甘いものの取りすぎは肥満の原因になるしな。
「カイノ、いいかしら?」
キッチンに顔を出したのはフィーリアだ。
「いいですけど、どうかしましたか?」
「ううん。クリスティンは買い物へ?」
「先ほど出ていったばかりですが……」
「あのね、カイノにちゃんと伝えておこうと思って」
彼女はキッチンに入ってくると、俺の横に並ぶように立ってじっとこちらを見つめた。
「あのね。カイノ、もしもパティシエをすることが辛くなったのなら言ってね。おやすみとかそういうのちゃんとあるから」
「フィーリア、ありがとうございます。貴女が美味しく食べてくれるなら俺は楽しく作れますよ」
「ほんとう?」
「はい。フィーリアはクッキーの形何がいいですか? よければお好きな形で焼きますよ」
平に伸ばしたクッキー生地、型はたくさん用意されている。
「私、クマさんが好きで」
「クマですか。それなら可愛く作りましょう」
「可愛く?」
「ココアパウダー入りのクッキー生地と上手に組み合わせれば……こんな感じでかわいい模様が入ります」
ココア味の茶色い生地をベースに耳の中とマズルの部分を白いプレーン生地で作成して重ねる。可愛らしいクマのクッキーベースが完成だ。
「わぁ……目と鼻は焼き上がったあとチョコで?」
「はい。かわいいクッキーになりますよ」
「私も、やってみていい?」
「どうぞ。型を真っ直ぐに乗せて……そうです。くり抜いて……」
彼女は器用に型抜きをしていく。女性の手の小ささに驚きつつ彼女はかなり上手でスキルを使っている俺と遜色ないものがいくつも出来上がった。
「結構できましたね。たくさん焼けますよ」
「クリスティンも甘いものが好きだから、彼女分。どうせ遠慮してしまうから無理にでも焼いてしまわないとね」
「実は、俺が来てからクリスティンさんに味見をお願いしているので。彼女が甘いもの好きなんだなとは思ってました」
「そうだったの。よかったぁ。私だけ独り占めしちゃってはずるいものね」
フィーリアは本当に優しい人だ。
クリスティンも俺もただの使用人なのにここまで想ってくれるなんて。貴族という生き物はもっと傲慢で庶民など人とも思っていない奴らが多いというのに。
「1番最初に作ってくれたクッキーとは違うの?」
「ちょっと生地が違うんです。最初に作ったのは生地もそのまま食べられるようなしっとりしたもので……多分すごくカロリーは高いやつですね」
「だから美味しかったのね。カロリーが高い方がおいしいって昔お姉様が言っていたの」
「確かにスイーツに限らずお料理でもそうですね」
こってりした脂っこいものはやっぱりおいしい。健康にいいのかは別としてもカロリーは美味しさに直結しているのかもしれない。
「カイノ、いつかね。いつか、私が私のこと話せるようになったら……聞いてくれる?」
私のこと、というのは彼女が引きこもっている理由だろうか。彼女の表情が少し暗くなった。
俺がまだ騎士になる夢と向き合えていないように彼女もそうなのかもしれない。
「もちろんです。俺でよければ、おいしいスイーツでも食べながら聞かせていただきます」
「その時がきたらお願い。カイノのこと私だけ知っているのはずるいもの」
「主人と従者なんですからずるいとか、ないと思いますけどね……?」
「主人と従者……そうよね。そっか、私たちってそういう関係性なのね」
「正しくは主人の娘さんですけど」
「私はただの同じ歳だと思ってるわ。身分とかそういうのはウチでは関係ないから。お父様の考えよ。公爵家だからといって驕ってはいけないと小さい頃から言われてきたわ」
「素敵なお父様ですね」
「とっても優しい人、私の尊敬する人よ」
公爵という高い地位を持ちながらも、決してその立場に驕らない。お父上のその意志はしっかりとフィーリアにも受け継がれているのだ。彼女の優しさは親の教育あってもの……らしい。
「戻りました。あれお嬢様、キッチンでなにを?」
「クリスティンおかえりなさい。ちょっとカイノにリクエストしてたの。クッキーの形。絶対つまみ食いはしていないわ。誓うわ。ねぇカイノ」
俺は「はい」と彼女を肯定する。クリスティンはちらっと俺の手元を見て小さく肩を動かすと
「お嬢様、スイーツができるまで運動はいかがですか」
と言って、半分強引にフィーリアを連れていってしまった。




