第20話 フィーリアのリクエスト
美味しいシチューを食べ終えた後、フィーリアと俺は紅茶を飲みながら一休みしていた。お互いに食べすぎてしまったのだ。
「フィーリア、何か作りましょうか?」
彼女は少し考えてから答えた。
「そうねぇ。何かさっぱりした軽い物がいいかもしれないわ。お腹……いっぱいだもの」
お腹をそっとさする様子が可愛くてドキドキしつつも俺は思考を巡らせる。さっぱりして軽く食べられるものか。確かに、俺と彼女は結構な量のシチューを食べたしパンもガッツリ食べてしまった。野菜がたっぷりではあったが、ガーリックパンはバターたっぷりだったし、メニューとしては昼下がりの今というよりディナーに食べたいようなものだったし。
「フルーツスムージーとかはいかがでしょうか?」
「フルーツ……スムージー?」
「最近、街でよく見るドリンクスイーツです。フルーツメインで作ればジュースのようにさっぱり飲めますし、果実本来の甘さを楽しむことができます。逆にミルクやヨーグルトをベースにバナナや桃、メロン、りんごなんかをつかって朝食の代わりにする人もいるそうですよ」
「食べ物と飲み物の間……というような感じかしら?」
「はい。今の俺たちにはぴったりかもですね」
彼女はスイーツの話をすると一層目をキラキラさせる。本当に甘いものが好きなんだなぁ。
「私、フルーツスムージーが飲みたいわ」
「じゃあ、準備しますね」
「あのね、カイノ。もう一つお願いがあるの」
「なんでしょう?」
「クッキー、食べきっちゃったから……またたくさん焼いて欲しいの。ココアのとプレーンの。かわいい形もすごくお気に入りで……」
おねだり中のフィーリアに釘を刺したのはクリスティンだ。
「お嬢様、お言葉ですがクッキーは1日3枚までと公爵から言い付けがございますよ」
「私ちゃんと運動するわ。お風呂もしっかり汗をかくまで入るから……お願いよ」
「いけません」
「あの、もしよかったらナッツやドライフルーツを混ぜ込んだ甘さ控えめなクッキーも作りましょうか。栄養もありますし……」
クリスティンは渋い顔、フィーリアは目を輝かせた。
「かしこまりました。カイノ様、買い物は必要ですか」
「そうですね。ちょっとメモを用意するので待機室に戻りますね。フィーリア、改めてシチューをありがとうございます。とても美味しくて元気になりました」
彼女に礼を言って俺は先に食堂を出た。腹がパンパンで苦しいが、やることはいっぱいである。まずフルーツをスムージーはどんなものにしようかという悩みがあるのと、クッキーのレシピが無限に浮かんでいるからだ。
美味しさだけではなく栄養面もフィーリアに貢献がしたい。彼女が家から出られないことを前提に考えてカロリーと甘さを抑えつつ、美味しさを第一にもしたい。
今まではただ覚えたスイーツを作るだけだったけれど、そうじゃない。彼女のためを思ってスイーツを提供しないとならない。
結構前に食べたナッツが練り込まれたクッキーは第一候補、ドライフルーツは温めても問題ないものをチョイスする必要があるし、クッキー生地の香りも捨てがたい。
とはいっても「甘いものを食べる喜び」を感じて欲しいので、うーん……チョコをビターにしてみるとか? オレンジピールショコラを作って置いてもいいかもしれない。ショコラはやめておくか?
専属の待機室に戻りメモに買ってきて欲しい食材を書き出した。
クリスティン曰く、鮮度を重視するためフルーツや野菜は当日に買い出しに行ってくれるらしい。果実なんかは別に保存方法を間違えなければ鮮度なんて落ちそうに無いけれど、そこはさすが貴族といったところだな。
「クリスティンさん」
「はいお呼びですか」
キッチンで作業をしていた彼女に声をかけて、メモを渡す。
「かしこまりました。カイノ様、このお屋敷に私が帰るまでの間はお嬢様と二人きりになります。万が一、何かがあれば必ずお嬢様に危険がないようにお立ち回りください。公爵様は貴方の寄宿学校での経験を買っていらっしゃいます。何かあればお嬢様を守ってくださると」
「俺にですか……?」
「はい。寄宿学校での経験はスキルがなくとも貴方の身にはついているでしょう。それでは買い物へ行ってきます」
「いってらっしゃい」
クリスティンの言葉は俺の心にじわっと染み込んだような気がした。
——公爵が俺の寄宿学校での経験を買っている
俺は騎士になって誰かを守りたかった。その夢は敗れたわけだけれど……面識がなかった公爵が俺に期待をしてくれている。その事実が嬉しかったのだ。
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