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第16話 フィーリアとお茶会


 ルギャルー公爵家の食堂に招かれた俺は、いつものコック服ではなく新調したスーツを身につけている。大きな長机で向かい合うように座った俺とフィーリア。彼女はいつもより少し派手な赤いドレスを身につけていた。普段着のワンピースでは見えなかった鎖骨が俺の目を刺激する。華奢で今にも折れてしまいそうなくらい細い、すこしふっくらした胸元も目をやってはいけないのにみてしまった。


「今日は来てくれてありがとう。カイノ」

「及びいただけて光栄です。えっと……フィーリア」


 彼女は俺の呼び方に満足なのかクスクスと笑うと何度か瞬きをした。可憐という言葉は彼女のためにあるのだと確信するくらい……だ。このまま見ていたら惑わされて死んでしまうかもしれない。


「カイノは、ここに来て……楽しいかしら?」


 その質問に俺は少し迷ってしまった。

 フィーリアに会えることはとても嬉しいし、すごく楽しみだ。けれど、やっぱりパティシエをしていると心が痛む時がある。


「初めての仕事なので緊張はしますが、楽しいです」

「ほんと? 嫌じゃない?」

「嫌じゃないです。ただ、ちょっとだけまだ慣れてないです」

「そう……。私は、自分のスキルを使えないから、羨ましいわ」


 彼女はそういうと俯いてしまった。悲しい顔をさせたいわけじゃなかったのに、どうしたらいいだろうか。こういう時、自己開示をすべき、だったはず。


「実は俺も、本当は別のスキルが欲しかったから……まだ向き合い切れてなくて」

「そうなの? カイノはどんなスキルがよかったの?」

「俺は、騎士になりたくて寄宿学校にいたんです。ずっと。だから、戦闘系とかそういうスキルが欲しかった。でも神様は残酷です。俺は夢を叶えることは多分できません。ずっと頑張ってきたことが突然奪われて……落ち込んでいた時に公爵様にオファーをいただいて」

「そうだったの……ねぇカイノもう少し聞いてもいい?」


 暖かい紅茶と軽食のサンドイッチ。

 

「はい、もちろんです」

「カイノは今、一人で暮らしているの?」

「お陰様で、最近部屋を借りました。まだ慣れませんが、なんとか暮らしていますよ」

「スキルのことはもう乗り越えたの? 一人でいると寂しくならない?」

「スキルのことはまだ乗り越えていません。騎士をみると動悸がしますし……」


——スイーツを作っていて苦しくなる


 とは言えなかった。優しい彼女を傷つけてしまいそうで。


「大丈夫、なの? カイノは」

「はい。お陰様で、フィーリアが美味しくスイーツを食べているのをみるのが今は楽しみですから」


 サンドイッチはいちごジャムの挟まった甘いオヤツ。紅茶とよく合う。


「私はね、カイノがきてくれるようになって、すごく救われているのよ。美味しいスイーツと楽しい時間。でもね、健康に良くないからって週に1度までしかダメだって……」


 ぷくっと膨れた頬、なんて……可愛い人なんだ。

 彼女が俺のスイーツを楽しみにしてくれていたなんて、幸せすぎるだろう。


「健康的なスイーツもありますよ。例えば、お野菜を使ってできるだけ甘さを控えめにしたパウンドケーキとか。最近、街のほうでは東洋からきた『抹茶』という食材が流行していてそれも甘さが控えめですし健康にも良さそうです」

「お野菜のケーキに、東洋のまっちゃ……」

「フィーリアさえよければ次の勤務でお作りしますよ」

「私、食べてみたい。あぁでもね、甘いものも食べたいわ」

「もちろん甘いものもお作りしましょう。俺は専属パティシエですからね」


 彼女が小さな口でサンドイッチを齧った。うさぎ? ハムスター? お上品でやっぱり住む世界が違う人なんだなと改めて思う。ちらっとこちらを上目遣いで見つめてきて、視線がぶつかった。


「すみませんっ」

「あまりみられたら恥ずかしいです」

「すみません、すみません」


 慌てて紅茶を飲むふりをする。きっと俺は顔が真っ赤になっているだろう、耳までカッカッと熱くて脳がビリビリするような感覚がある。よく考えて仕舞えば終わりだ、だって俺はプリンセスのような人と二人っきりで食事をしているのだから。


「あ、あ、あの! カイノの好きな食べ物って何かしら」

「俺のですか……俺はシチューですかね」

「シチュー?」

「はい、小さい頃から寄宿学校の寮で生活していたので年に数度家に帰るのですがその時に食べるシチューが今でも大好きで」

「まぁ……素敵。どんなシチューなの?」

「それが、よくわからないです。野菜は季節によって違うし肉の種類も違うんですけど……何か隠し味があるのか? 母は教えてくれません」

「私もいつか……外に出られるようになったらカイノのお母様に作ってもらいたいな」


——外に出られるようになったら


 彼女はなんらかの理由で外に出られない。


「お嬢様、そろそろお時間です。カイノ様、表の馬車にお乗りください。私も買い物がありますので馬車で待っていますね」


 時計は16時を差していた。


「今日はありがとうっ……カイノ、またねっ」


 彼女は恥ずかしそうに小走りで食堂を出て行った。クリスティンもなにやら忙しそうに玄関ホールの方へと行ってしまった。

 俺も立ち上がり玄関ホールへ向かおうとした時、フィーリアが出て行った扉の近くに小さな鍵が落ちているのを見つけた。拾い上げてみると小さな金色の鍵には「フィーリア」と刺繍されたリボンがくくりつけてある。


「大事なもの……だよな」


 彼女を追いかけようとロビーまで出るとちょうど彼女が2階の廊下を歩き部屋に入っていくところが見えた。クリスティンを呼びに行くのも悪いし、直接届けようか。



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