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第15話 お茶の準備



 クリスティンから手紙は届いたのは翌日の午後だった。

 

『フィーリアお嬢様とのお茶につきましては、スイーツのご準備は必要ございません。私どもでご用意します。お嬢様とただお話を楽しんでほしいだけです。ただ、絶対に花束は買ってこないでください』


 俺は客として迎えてもらえるというのはさておいて『花束を買ってくるな』というのはよくわからなかった。確かに、ルギャルー公爵家には一切「花」がない。花だけじゃなく芝生も蔦もほとんどない。彼女は可憐な乙女で、花といえばよく似合いそうなものなのに。

 してほしくないことを無理にする気は毛頭ないのでしないけれど。


 前回も前々回も100万ゴールドを報酬にもらい、それを使い切らないまま。俺は金を使う才能がないのかもしれない。寄宿学校では騎士になるために徹底的に倹約を叩き込まれるのでそのせいもあるのかも。物欲がほとんどないのだ。物は長く使うし、食べ物だって食べる分だけ。


「服、買うか」


 フィーリアとのお茶に向けて、容姿を整えておくことにする。帰りに新作のスイーツでも食べて勉強をしようか。洋菓子店はどこも大人気で、次々に新作が生まれている。俺もパティシエのスキルを持つものとしてそろそろ自分だけのオリジナルスイーツを考えてもいいものだが。

 例えば、最近は東洋から抹茶という文化が入ってきていて「抹茶ラテ」「抹茶ケーキ」なんかがとても流行っている。俺も食してみたが、甘いものが苦手な人間も美味しくいただけるほのかな甘みと深い香りが特徴的でなんともエキゾチックな風味だった。

 

 以前、立ち寄った高級ブティックに入り服を新調する。ピシッとスーツで、襟元にデザインが入ったおしゃれな3ピースは俺にぴったりのサイズ、抜け感のあるブラウンで清潔感も抜群だ。


「お似合いです」

「ありがとうございます。これ似合う靴も見繕っていただけますか」

「もちろんです。バーシェ様」


 革靴をいくつか試着して、1番似合うものを購入。今回はルギャルー公爵家でのお茶なのでハットは被らないため一旦ここまで。

 

「シャツの替えを何枚かと……すみません、洗濯の方法とかって」

「あぁ! かしこまりました。シャツの洗濯の仕方をメモしてお渡ししますね。けれど、できればプロに頼むのが良いかと」

「お願いします」


 服を購入して、丈などを合わせてもらっている間に俺は髪を整えにいく。癖っ毛ではないが、伸びるのがちょっと早いのでケアをしないとだらしなく見えてしまうからだ。



***


 今日は洋菓子店でふわふわのスコーンを買って食べた。スコーンはよく紅茶と一緒に楽しまれる焼き菓子……の中でも食事に近いものだ。パンとマフィンの間というか、俺はクリームなしで食べるのが好きだけれどクリームやジャムで楽しむ人が多い。

 しっとりしたものや逆にもそもそしたもの。いろんなタイプがあって面白い。フィーリアはどんなスコーンが好きだろうか。きっとふわふわのタイプだろうな。


「美味しい、やっぱりバターがいい味を出している」


 1人暮らしの部屋はやっぱり寂しく感じる。家に帰っても誰もいない、自分が出かけた時のままでシンクもぐじゃぐじゃ、掃除も行き届いてない箇所には埃が溜まっていく。俺がやらないと、一生そのままだ。改めて母さんのありがたさに頭が上がらないなぁ。今度何かプレゼントを買って帰ろう。


 ふと親孝行の方法を考えていると「結婚」の文字が思い浮かんだ。

 俺もいつか、誰かと結婚をするのだろうか。騎士を目指していた時は爵位をもらってどこかの御令嬢と……なんて夢見ていたけれど今は、どうしようか。

 俺のことを好きだと言ってくれる人を探してその人と幸せになる。それって実はすごく難しいことなんじゃないかな。出会いってなかなかないし、俺は寄宿学校時代の友人と話せるかわからない。

 かといって庶民にお見合いが来るかどうかはわからないし。いつか俺も誰かと……


 と考えているとやっぱりどうしてもフィーリアの顔が浮かんだ。

 身分を抜きにして彼女をもっと知りたいし、俺のことを話したい。彼女が喜ぶ事はなんでもしてやりたいし、彼女が怖がるものからは守ってやりたい。彼女の「ありがとう」とあの微笑みが俺に力をくれるのだから。


 身分があるから絶対に叶わないのだけれど。




 

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