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第13話 クリスティンと会議


 次の呼び出しがあったのはあれから1週間後、俺は1人暮らしで精一杯だったが、アパートメントの前にどでかい馬車が停まっていた。


「カイノ様、よろしくお願いします」


***


 クリスティンはいつも通り無表情、俺はコック服でピカピカのキッチンに立っている。


「クリスティンさん、何かフィーリア様からリクエストとかありますかね」

「いえ、お嬢様は特に。ただカイノ様を呼んで欲しいとおっしゃっておりました」

「色々、作れるものはあるんですが……できるだけ喜んで欲しいと思って」

「左様でございますか。確かに、お嬢様がお喜びになるのは私にとっても喜ばしいことでございます」

「クリスティンさんが教えてくれたパンケーキはすごく喜んでくれていましたが、他に何かあれば」


 クリスティンは少し考えたあと


「日持ちする菓子を作っていただけますか。お嬢様は毎日午後にお茶の時間を設けているのですが、カイノ様が作った菓子があればきっとお喜びいただけます」

「じゃあ、小さめのクッキーとあとパウンドケーキを焼きましょうか。保存状態がしっかりしていればクッキーは1週間程度、パウンドケーキは数日は持つかと」

「お嬢様はどちらともお好きだと思います。あと、えっと……私も」

「クリスティンさんの分も焼いておきますね。えっと、追加でレモンとオレンジを用意いただけますか」

「はい、ではすぐに」


 取り急ぎのメニューはシンプルなクッキーと、シトラスのパウンドケーキだ。

 紅茶にぴったりで甘すぎず罪悪感も少ない焼き菓子、毎日食べても飽きないし小腹が空いた時につまめるので多めにクッキーは特に多めに焼いておこう。


 クッキー生地を寝かせている間に、パウンドケーキの準備をし用意してもらったシトラスをスライスした。誰かのためを思って作るのはやっぱり楽しい。これをフィーリアが毎日美味しく食べてくれるのであれば俺は幸せだ。


「カイノ様、クッキー型はこちらに」

「ありがとうございます。うわぁ、すごいですね」

「はい。一通り揃えております」


 クッキー型は10種類以上あり、どれもこれも可愛らしい。


「クリスティンさんはお好きなスイーツはあるんですか?」

「私は、結構です」

「甘いもの全般? クッキーだったらどんなものがお好きですか?」

「ですから……」

「俺はまだ実績が少ないパティシエなんです。フィーリアさん以外にも食べてもらえると嬉しいんですが」


 彼女は少し考えてから、小さい声で言った。


「私は、ココアパウダーの入ったクッキーが好きです。ほろ苦いのに甘くて、紅茶によく合うのが。よく洋菓子屋でたくさん買うんです」

「でしたらお作りしましょう」

「いいんですか」

「もちろんです。フィーリアさんもきっとお好きでしょうし」

「お嬢様もお好きですよ。ココアは特に」


 彼女と話していると少しずつフィーリアの好みも見えてくるかもしれない。本当は本人に聞けるようになる事が1番いいのかもしれないが、彼女と離すのは緊張する。騎士を目指していた人間としてはとても情けないが俺は女性への耐性がほとんどゼロかもしれない。


 ココアパウダー入りのクッキー生地とプレーンのクッキー生地を使って可愛らしいチェック柄を作る。クマ型のクッキーはココア味、猫型はプレーン味……と色味を分けつつたくさん作った。

 天板に丁寧に並べ、オーブンへ。パウンドケーキの方も砂糖漬けにしたシトラスのスライスを生地に混ぜ込み、上に乗っけてこちらも焼き始める。


「本当に魔法みたいですね」

「何がですか? クリスティンさん」

「いえ、スキルで調理をしている所がです。私もスイーツに挑戦したのですけれどこんなにスムースにできた事は一度もございません、生地が緩かったり膨らみすぎてしまったり……」

「温度や混ぜ方、入れる順番なんかも重要ですし……俺もスキルがなければさっぱりですよ。クリスティンさんは家事スキルでしたよね? であれば俺よりも幅が広いからすごいと思いますよ」

「料理人のスキルを持っている人には劣りますが、そうかもしれませんね」


 俺は今1人暮らしを初めてあたらめて思う。

 家事ってめちゃくちゃ大変である。洗濯だって最初はうまくいかないし、料理なんて本当に、本当に難しい。


「1人暮らしをしているともう家事って大変だと実感しまして」

「何か困った事があれば聞いてください」

「あ、ありがとうございます」


 無表情なクリスティンが少しだけ微笑んだような気がした。そして彼女が驚いたような表情になる。


「お嬢様……」


 俺が背を向けていたキッチンの入り口、そこにフィーリアが立っていたのだ。

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